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【外苑前野球ジム】動作解析プランから紐解く投球動作~肩関節外転角度 理論編~

これまで、このnoteでは下肢や体幹に関する内容を紹介してきました。

そこで今回は上肢、とりわけ肩の外転運動に着目していきます。



❔ 外転とは

肩関節外転可動域

肩関節(肩甲上腕関節)は球関節であり、多方向への運動が可能です。
とりわけ、腕を横に上げるような運動を「外転」運動と言い、その可動域は0°~180°と言われています。
野球のようなオーバーヘッド動作において肩関節の外転運動は必須の動きにになります。


⚾ 投球動作における肩関節外転運動

では、外転運動に関して理解したところで、それが投球動作ではどのような役割を担っているのか見ていきたいと思います。

1. ステップ脚着地時点

ステップ脚着地時点

投球動作で重要なイベントの一つにステップ脚の着地が考えられます。
並進運動と回転運動により構成される投球動作において、ステップ脚着時点とは並進から回転へ運動パターンを切り替えるタイミングにあたります。
いわば、ステップ脚着地時点とは回転運動のスタート時点です。
そのため、回転運動において必要な準備をこのステップ脚着地時点で揃えておく必要があります。

この時点で肩の外転角度に着目すると、約90°が多い多くの研究で報告されています。
また、Drivelineで測定している選手の平均値も93.65°と報告されています。

この値は年齢に関係のない値と報告されており¹⁾、80~110°がよくみられる範囲で80°未満、または、110°より大きな外転角度はアブノーマルな値とも報告されています²⁾。

では、肩関節外転角度90°とはどのような値なのでしょうか。
90°とは、両肩を結んだ線上に腕が位置していることを意味します。

肩関節外転角度90°の姿勢

この位置は、解剖学的に肩関節のスタビリティ(安定性)が最大になる角度だと報告されています³⁾。
これを投球動作にわかりやすく置き換えると、体幹の回旋に腕がついていきやすい位置ととらえることができます。

そのため、肩の外転角度が小さいと、、、
いわゆる「肘下がり」な投球動作になってしまい、肘関節内反トルクが増加し、内側側副靭帯損傷(いわゆる野球肘)の最大のリスクとなる⁴⁾と言われています。

一方、外転角度が大きすぎると、、、
肩関節外転角が10°増えるごとに肩関節上方剪断力も2.6%(体重比)増加し⁵⁾、インピンジメントのリスクにつながります。

このように、回転運動を開始するステップ脚着地時点で肩関節外転角度が90°前後に位置していると、回転運動で腕の位置が安定しやすくなるためエネルギーを効率よく伝達させ球速の増加につながるだけでなく、コントロールの安定にも寄与することが分かっています⁶⁾⁷⁾。

2. リリース時点

リリース時点

投球動作では、ステップ脚着地時点から回転運動がおこり、最終的にボールをリリースします。
投球の到達位置や球速はこのリリース時点での各パラメータの値によって決定するため、リリース時点の動きも重要になってきます。
では、リリース時点での肩関節外転角度はどのような値がいいのでしょうか。

結論から述べると、ステップ脚着地時と同じ約90°が望ましいと考えられます。
ステップ脚着地後の回転運動において、腕は体幹から流入してくるエネルギーを伝達させることでボールをリリースします。
肘や手首といった上肢の関節動作によってエネルギーを生成するわけではないため、これら上肢の関節を意図的に運動させないことが大事であり、ステップ脚着地時点の肩関節の値を保持することが重要だと考えています。

そのため、リリース時でもステップ脚着地時同様に、肩関節外転角が10°増えるごとに肩関節上方剪断力は3.7%(体重比)、肩関節遠心力は11.7%(体重比)増加すると報告されています⁵⁾。
また、リリース時の肩関節90°外転時が、肘関節内反トルクを増加させることなく手関節速度が最大化することができ、障害のリスクを上げることなく球速増加を見込める効率の良い投球に繋がると報告されています⁸⁾。


まとめ

以上の話をまとめると、、、
ステップ脚着地時に肩関節外転角度が約90°であり、その角度がリリースまで保持されることが大切である」と考えられます。

今回は以上になりますが、次回はこの理論を踏まえて動作解析プランでどのように改善していくのか解説していこうと思います!

引用

1. Nissen, C. W., Westwell, M., Õunpuu, S., Patel, M., Tate, J. P., Pierz, K., ... & Bicos, J. (2007). Adolescent baseball pitching technique: a detailed three-dimensional biomechanical analysis. Medicine & Science in Sports & Exercise, 39(8), 1347-1357.
2. Dillman, C. J., Fleisig, G. S., & Andrews, J. R. (1993). Biomechanics of pitching with emphasis upon shoulder kinematics. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 18(2), 402-408.
3. Poppen, N. K., & Walker, P. S. (1978). Forces at the glenohumeral joint in abduction. Clinical Orthopaedics and Related Research (1976-2007), 135, 165-170.
4. Fleisig, G. S., Andrews, J. R., Dillman, C. J., & Escamilla, R. F. (1995). Kinetics of baseball pitching with implications about injury mechanisms. The American journal of sports medicine, 23(2), 233-239.
5. Manzi, J. E., Dowling, B., Trauger, N., Fu, M. C., Hansen, B. R., & Dines, J. S. (2022). The influence of shoulder abduction and external rotation on throwing arm kinetics in professional baseball pitchers. Shoulder & Elbow, 14(1_suppl), 90-98.
6. Joshua A. Glanzer, Alek Z. Diffendaffer, Jonathan S. Slowik, Monika Drogosz, Nicholas J. Lo & Glenn S. Fleisig (2021) The relationship between variability in baseball pitching kinematics and consistency in pitch location, Sports Biomechanics, 20:7, 879-886
7. Manzi, J. E., Krichevsky, S., Roberts, N., Rauck, R. C., & Dines, J. S. (2021). Kinematic Models For Pitch Location Metrics in Professional Baseball Pitchers. Arch Sports Med, 5(1), 247-253.
8. Matsuo, T., Matsumoto, T., Mochizuki, Y., Takada, Y., & Saito, K. (2002). Optimal shoulder abduction angles during baseball pitching from maximal wrist velocity and minimal kinetics viewpoints. Journal of Applied Biomechanics, 18(4), 306-320.

動作解析プランでは、今回紹介した肩関節外転角度の値を投球動作を通してどのようになっているのか観察できます!

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