ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 237ページ

「ば、ばかな!あり得ない!!」

マカラトが再び、動揺した声をあ

げる。

それもそのはず、アグリアは確か

に息絶えていたし、こういう大き

な魔法を発動してる時には、魔法

障壁という物が発生し、術者の身

を守っている。

身体に触れるには、その魔法障壁

を破らなければならないのだ。

魔法障壁を打ち消せる魔法がない

ことはないが、アグリアは魔法が

一切使えない。

(ま、まさか、魔法が使えないのは、

魔力がないのではなく、打ち消す、

もしくは、中和してしまうからだ

ったのか!?)

マカラトが思考を巡らせる。

確かに、いま思えば、アグリアは

魔法抵抗力がやたらと高かったよ

うな気はしていた。

しかし、この魔法の障壁を破れる

程の力があったとは思えない。

城の結界のせいか!?

特殊な魔法ゆえに、城の結界の影

響は受けないと踏んでいたが、威

力が変わらない代わりに障壁が薄

くなるというイレギュラーがおこ

ったのだろうか?

呪文の詠唱を省略したのも、まず

かったかもしれない。

(くそっ!そんなことは、どうでも

いい!いまは、この状態をなんと

かしなければ!このままでは!)

「ぐぐぐっ!」

一流の剣士であるアグリアの膂力

は疑いようがない。

いまのマカラトに、この手を振り

解く術は、なかった。

「おのれぇ!」

"メキッ!"

首の骨が軋む音がする。

「ぐぐぐぐっ!ぐぁ!」

"バキッ!メキョッ!ボキボキッ!

グシャ!バキッ!ブチブチッ!バ

キバキッ!グシャンッ!"

マカラトの身体は、不快な音を

響かせながら、吸い込まれたアグ

リアに引っ張られる形で、自らの

身体に開いた穴へと姿を消した。

・・・。

先程までの事が嘘だったかのよう

に、静寂が辺りを包む。

”ドサッ”

「はぁ!はぁ!た、助かった・・・

のか?はぁ、はぁ」

尻餅をついたレオが、震える手を

みながら自問自答する。

すでに、獣人の姿を維持できずに、

元の姿に戻っていた。

もう少し続いていたら危なかった

だろう。

力的にも、体力的にも、限界だっ

たからだ。

"ドッ!ガシャンッ!"

レオは、大剣が倒れるのも構わず、

その場に寝転がる。

「もう、動けねぇ」

神楽とレーラも、その場に座り込

み、荒い息をついていた。

「みんなぁ~!だいじょぶ~!?」

体力的にも、まだ余力が残ってる

優が、心配そうに駆け寄る。

「・・・なんとかな」

レオが寝そべったまま苦し気に呟

いた。

レーラと神楽は、無言で頷く。

二人の位置からは、何が起きたか

見えなかっただろうが、いま説明

するのは、レーラには酷だろう。

重苦しい空気が苦手な優は、何と

か明るく振る舞おうと試みるも、

うまく言葉が浮かんでこない。

優自身、さっきまで恐怖で膝が

笑っていたのだ。

恐ろしい相手だった。

アグリアの助けがなければ、全員

あの穴に吸い込まれていただろう。

「キュウ!キュウ!」

何処からともなく現れた白い小鳥

が、慰めるように優の肩にとまっ

て小首を傾げる。

「キュウちゃん!?」

この小鳥は、いつだって優を励ま

し、支えてきてくれていた。

「うん!私は、だいじょぶ!・・・

えっ!?」

小鳥に向かって微笑み返した優を

違和感が襲う。

修行で培った第六感に近いものに、

引っ掛かりをおぼえたのだ。

小さな、とても小さな黒い点が微

かに見えた気がした。

(気のせい?・・・じゃない!)

黒い点かと思ったのものは、回転

しながら、驚くべき速度で徐々に

その大きさを増し、あっという間

に巨大な穴へと成長した。

そして、穴の中から、木の枝にも

見える腕のようなものが這い出て

くる。

「みんな!早くこっちへ!」

優が叫ぶ。

「ん?・・・なっ!?」

首だけ持ち上げ、それをみたレオ

も絶句したが、そこから動けるだ

けの余力は、もうなさそうだ。

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