ガイアストーリー 第一部 勇者たちの冒険 239ページ

「そなたは、ちょうどエルフたちの

森との境に倒れているのを、見回

りをしていた若者が見つけて運ん

できたのじゃ」

(!そうだ、俺は、あのカルラと名

乗る子供のエルフに殺されそうに

なったんだった・・・いや、殺さ

れたと思ったが・・・つっ!)

起き上がろうとした凱の胸を、痛

みが襲う。

「無理するでない、目が覚めたのは

峠を越えた証じゃが、傷口が塞が

っているとはいえ、死んでもおか

しくなかったほどの深手じゃ、い

まは、まだ眠るがよいじゃろ、話

は後で、いくらでもしてやる

わい」

ダークエルフの老婆の話し声を、

頭の片隅に響かせながらも、凱の

意識は、すでに微睡みの中へと沈

んでいっていた。

~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・半年といったところね、か

かりすぎだわ」

紫の髪色をした、毛先だけ金髪の

妖艶な美女が溜息をつく。

「・・・ごめんなさい」

黒い軽鎧に身を包んだ、どこか無

機質さを感じさせる紫髪の美女は

素直に謝った。

彼女たちの身体は、うっすらと薄

い膜のような魔力で包まれていた。

この混沌の地では、あらゆるもの

が歪められ、重力も他の地の10倍、

100倍になることすらあるとい

う。

それらから身を守るため、魔力で

身体を覆う必要があったのだ。

しかし、不器用な彼女は、それが

出来るまで約半年もかかってしま

った。

溜息をついた美女が再び口を開く。

「あら、出来ただけでも大したもの

だわ」

「え?」

先ほどとは、うって変わった口調に、

紫髪の美女、紫音は混乱する。

「あなたは黙っててちょうだい」

再び気だるい口調に戻った彼女は、

自分自身に応えているかのようだ。

彼女は、暗黒帝国ザハンを統べる

女王ルミナ。

会った時は、自分と同じ紫の髪だ

ったはずだが、いまは、毛先だけ

金髪である。

「あらぁ、いいじゃない、口を出す

ぐらい、それに、あなたの教え方

も良くなかったんじゃな~い?」

再び軽い口調になった彼女の髪は、

一瞬、完全に金色になったように

見えた。

「なっ!?なんですって!?・・・

少し黙っててもらえるかしら?」

しかし、髪色は、すぐに紫一色に

なり、紫音は混乱する。

「はいはい、わかったわ、そんなに

怒る事ないじゃない」

また一瞬だけ金髪になった彼女は、

呆れたように肩をすくめ、再び紫

の髪に、毛先だけ金色という状態

に戻った。

「・・・」

(レミアを抑えこめなくなってきた

・・・彼女の力が戻ってきている

みたいね、急がなくては・・・)

ルミナは焦りをおぼえたが表には

出さない。

「・・・二重・・・人格?」

その時、紫音のつぶやきが聞こえ

てきた。

ルミナは、出来る限りの冷静さを

保ちながら答える。

「正確には違うのだけど、まぁ、そ

のようなものね、さぁ、急ぐわよ?

ここからが本番なのだから・・・」

そう呟くと、ルミナは足早に歩き

だす。

紫音は、岩陰で寝息を立てている

ミニチョコを胸元にしまうと、置

いてかれないように小走りに後を

追った。

女王は、何を焦っているのか?

ここで何をするつもりなのか?

わからないことだらけだが、また

一つ、涼を救える強さを身に付け

られた気がして、紫音は、気分が

高揚していくのを感じていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?