見出し画像

さつま王子 第5話その1


第1話はこちら

 虎之介の田んぼを平定して以降、誰も王子一行に逆らうものはなく、王子のさつま芋畑拡大の動きは当初の目標まで、あっという間に達して、その動きを終えた。

 これにより、さつまの国は、さつま芋の一大産地となり、その収穫期が来れば、国内外問わず、活発な交易が行われるようになるのも時間の問題であった。

 とりわけ異国においては、さつま芋の需要は従来育てていた米よりも遥かに多いので、さつまと異国との交易は、幕府より優位になる事すら見込まれるであろう。そして、ひいてはその交易により異国の武器をさつまに調達しようというのも、ある一つの王の狙いではあったはずだ。

 無論、この動きに目を光らせてるのが幕府であり、その取り立ての度合いは一層増しに増していた。中でも、その取り立ての強化に幕府直属の命が下され、それを受けた考え無しの小役人どもが、それを口実に好き勝手やりたい放題やりはじめたから国は荒れに荒れはじめた。

 ここに来ては、王も幕府と事を荒立てる構えを見せ、幕府との交渉に強く当たるものであったが、その甲斐なく、動き出した事態は一向に収まる気配を見せず、不発に終わる。

 これに怒ったのは国の民である。それは遂に怒れる武士や百姓たちを目覚めさせ、皆による幕府の役人たちに対しての一揆につながった。

 これが世に言う「さくらじま一揆」である。

 この「さくらじま」だが、これは地名を表すものではない。この一揆を先導した者の名前が「さくらじま先生」であったから、そう呼ばれたものである。

 このさくらじま先生。出身は、もちろん、桜島であったが、その島、つまり、国の端から人を集めに集めて中央へと向かい、一大勢力を形成した。それは幕府の小役人程度では全く手に負えない大規模な集団となって、もはや、幕府の小役人のみならず、さつま王すらも脅威に感じる程、大きなうねりとなっていったのだ。

 これに途中から加わったのが、逃亡中の響鬼虎之介一家と、いぶし鉄鋼(有)の一家である。これにより、追われる身の両家もこの集団で一息つくものとなり、同時に、この一揆で、この2人もまた大きな名声を得る事となる。国の荒廃は、無論、いかんともしがたい凶事だが、反面、いよいよ優れた者たちが身分関係なく世に出て行ける時代がやってきたのだ。

 この「さくらじま先生」からしてそうである。事の首謀者さくらじま先生は、桜島のとある村の小さな私塾で兵法を教えていた元・先生であるが、実は、虎之介もここの元・門下生で、この私塾には名門の武家の子供たちがわざわざ島まで越境して教えを請いに来る程、優れた兵法理論が存在している事で有名であった。

 とはいえ、それも知られていたのは塾の方であり、ここの主催者:さくらじま先生に関しては、まだまだ中央に名を轟かすといった程の活躍とは言えなかった。とりわけ、元・門下の虎之介が問題を起こすに至っては、その生徒も激減の一途を辿り、遂には、最近、私塾も廃業を検討していた。その為、さくらじま先生は、これを機に、これぞチャンス!と見計らい、島から出る事を決意したのである。

 島の小さな私塾という、なかなかに他者を先導しづらい環境にあっても、むしろ、それこそが幕府やさつま王家からの隠れ蓑となり、動きを取りやすかったという利もそこにはあったろう。そして、その私塾の門下生ネットワークを駆使し、一気にその火をさつまの国全土に点火すべくかつての門下生たちに文を送ったのだ。

 つまり、このさくらじま先生は、私憤で、ふんがー!!と噴火したわけではない。むしろ、己の野心の成就、これを機に一気に幕府を転覆し、引いては王も打倒し、あわよくば、自分がこの地の領主となる程の勢いで皆を先導しようとしていたのだ。

 優秀な人間による計算高い野心ほど恐ろしいものはない。

 つまり、この野心により、この一揆、とてつもなく大きく燃え広がってしまう事になった。そう。それは正に桜島の大噴火のように。どっかーん!どっかーん!とこの国は熱く野心の炎が燃え上がる。

 しかし、この国における最大の野心家は誰だ?言うまでもない!!さつま王子だ!!

 王子がこの事態に黙っているはずがない。むしろ喜ぶべきたのしみ。やるよ!やってやるよ!そういう心持ちで、さくらじま先生の動きを好ましく思い、しかし、王子は当然、さくらじま先生をどうにかして、懐柔させるつもりなのだ。王子、遂に動き出す!そう!今度は王子の出番だ!!!

 と思ったら・・・

 「王子~。まだ動かないんですか~?」

 「う~ん。まだい~も~ん。やる気ないじゃん!」

 「やる気ないって、アンタ。役目終わったって言って、芋作っただけだし。これじゃ、国がガタガタですよ。国防しましょう、国防。そんな芋食って屁ぇこいてる場合じゃないですよ~。」

 「屁ぇこいてねえじゃん!!佐吉!お前、家来の分際で生意気だぞ!!打ち首じゃん!!」

 「な、王子!なに言ってんすか?アンタ、最近、それネタにしてるでしょ?打ち首!打ち首!って、どんだけ狂言ヤローなんすか?オレの首切れるわけないでしょー。」

 「アンタって、お前!最近、態度でかいじゃん!つーか、今回は狂言じゃないじゃん!本気じゃん!打ち首じゃん!死刑じゃん!!」

 「死刑って、アホか!オレをやれるもんならやってみろ!このくそガキが!!なんなら今ここでオレの方がてめえの首を切り落としてやろうか?ああ?オレに勝てんのか?ああ?」


 ムキーーーーーーーーーーー!!!!


 「さ、佐吉!!お前、そう言う事言うんだな。分かった。勝てないです。許すじゃん。許せばいんでしょ?そして、気が変わったじゃん!出かけんじゃん!」

 「へ?何処へですか?」

 「何処って!!さくらじま、やっつけに行くに決まってんじゃんかよ!!」

 「うおおおおお!!!ラジャー!!それでこそ王子!!よーし!やりましょー!やってやりましょう!!さくらじまなんて、やってやりましょう!うおおおお!!」

 と殺伐とした会話をほのぼのと繰り広げる王子と佐吉であったが、佐吉は、鬼の銀次郎から王子を救って以降、随分、図に乗り出して、図に乗っても王子が最終的には許しちゃう事に気づいたので、一時が万事、最近はこんな感じなのであった。しかし、そんな感じでも、王子一行は国内最強軍団なので、さくらじま先生は、もはや風前の灯(ともしび)!!はてさてどーなる?この一揆の行方!!!?


◇◇◇


 どどーん!!!


 「あーあーあー。せんせー!せんせー!さくらじま先生ー!さつま王子じゃん!これ以上、図に乗ってると痛い目見るじゃん!!ムダな抵抗はやめて芋食べるじゃん!!」

 と今や300名からの大所帯になっていたさくらじま一行が休憩の握り飯を食べてるさながら、南蛮渡来から譲り受けた拡声器を使って、ずばばばーん!!とさつま王子が登場した。その距離、わずか300m。わずかと言っても、結構、遠いじゃないかというとそうなんだけど、まあ、でも、今まで接点の無かった2人が、もはや300mまで接近したからには、わずかと言って差し支えないであろう。でも、300mは長いよね。なので、さくらじま先生たちは、その声の主を探してキョロキョロしつつ、王子は身を潜めつつ、一方的に拡声器を使って喋り続けた。

 「あーあーあー。そうじゃんねーじゃんねー。拡声器ないと君ら喋った所で聞こえないじゃんね。そりゃそうじゃん。じゃあ、10数えるから、その隙にさくらじま先生一人、手を上げて前に出ちゃえばいいじゃん。じゃないと皆殺しじゃん!雲助ー!!」


「はいなー」どーーーん!!


 と雲助と呼ばれた男が返事するや否や、ものすごい銃声と共にさくらじま先生一向の掲げていた旗が一斉に飛び散った。これぞ、さつまママの母国より受け継いだ南蛮渡来における最新鋭のライフルの威力である。その名手が雲助という男であり、そのライフルを用いた狙撃部隊は高度な技を持つ国内最強の銃撃部隊だ。


 「見たー!見ちゃったー!こわいでしょ?こっちは君ら、簡単に殺せちゃうじゃん!どうするー?前出るじゃん?10ーーー!!」


 どーーーん!!


 次は、さくらじま先生のほんの横にあった握り飯がくだけ散り、いよいよ場が騒然としはじめた。この場に集まってるほとんどは、さつま王子や佐吉のような武士と違い、何の訓練も受けてないただ単なる平和な時代に生まれた百姓の集まりである。一揆たるもの、所詮は烏合の衆であり、こういう時、胆力のない人員が場を乱すという、そうした群集心理を巧みに突いて来たさつま王子である。そして、その目論見(もくろみ)通り、この行為に一部は恐れおののき、来た道を勝手に引き返してしまう始末であった。


 「おい!待つでごわす!!」


 と、さくらじま先生が言う言葉を遮(さえぎ)るように、次どーーーん!!


 「9ーーーー!!」


 今度は、これから行くはずだった道、つまり、さくらじま一行から王子側にある手前の石めがけて銃弾が突き刺さり、その勢いで石が破裂し、その反響で派手に場に轟音が響き渡った。その脅威により、完全に来た道へと引き返し、逃げはじめる百姓たち。これにより、場は騒然となり、もはや誰の統率もつかぬ程、荒れに荒れまくる状態では、さくらじま先生もやむを得ない。王子の言う通り、一行の前に出ようとしたその矢先、それを押しのけて、一人の少年がその前に飛び出したから、先生も王子も驚く。


 「やいやいやい!!バカ王子!!!何やってんだ!お前!!汚ねえ真似してねえで!!出てきやがれ!!今度こそオレがお前のこと、ぶっ飛ばしてやる!!」


 そう!!ここで出て来た少年こそ、いぶし銀次郎。「あの」いぶし銀次郎である。

 これはしたり。王子は、ここに銀次郎がいる事にしばし驚きを覚えたが、話の内容は遠すぎて何も聞こえぬから何言ってんだか分かんねえじゃん!と口のぱくぱくを見ながら思ったと同時に不思議にも「話をしたいなー」などと思った事をぼそっと口走ってしまった王子を諌(いさ)めるが如く、今度は佐吉がいよいよ撃ってでようとするが、それを王子は左手で制して、撃つか撃つまいかどうするか。0.5秒ほど考えたのち、決断し、王子曰く「ここに銀次郎がいるって事は、虎之介と鉄鋼(有)もいるんじゃん?」と当たり前の質問を佐吉にして、「それは」と佐吉が答えるや否や


 「この状況は完全に吉ーーー!!」


 と大声を出し、にんまり笑い、不適に王子はまた拡声器を構え次の手を繰り出すのであった。


 「ごめんなさーーーーい!!!!!8ーーーーー!!」


 と王子が大声で叫んだ。その意外な言葉に銀次郎の足がぴたりと止まる。と同時にさくらじま一行の百姓たちの逃走もピタリと止まる。さくらじま先生は何事かと戸惑い、鉄鋼(有)と虎之介は、次に何をやるのかと身構えた。続けて、王子が拡声器を通して叫び出す。


 「ごめんなさい!!皆さん!!発砲したりして悪かったじゃん!!そして、ボクたちが幕府を止められずに暴走させてしまったのも悪かったじゃん!!謝るじゃん!!でも、分かってほしい!!今はみんな国を割ってる時じゃないじゃん!!仲良くするじゃん!!一揆やめるべきじゃん!!ホントは秘密だけど、ここに重大な事実をお知らせするじゃん!!いまボクたちは、メリケンという異国からの侵略の危機に晒されてるじゃん!!危機じゃん!!知ってる?この国は、いま、異国と交渉してんじゃん!!交渉が失敗したら、このライフルの比じゃないような新兵器でボクたちは燃やされるじゃん!!それを幕府もボクたちも懸命に防ごうとしているじゃん!!仲間割れしてる場合じゃないじゃんっ!!!」


 ざわざわざわ・・・。その言葉に場が騒然とし、一同がそれはそれでパニック気味におろおろしはじめた。みんな、メリケンが何だかは分からなかったが、異国という言葉、そして、燃やされてしまう程の新兵器という言葉に大きく反応し、その迷いの下、百姓たちは明らかに王子の声に関心を持ちはじめる。その姿を見て、さくらじま先生は、その言葉に胸に秘めた国家転覆の野心がおそらく頓挫するだろう事を確信したのであった。

 そして、それを見て、王子も確信したが如く、続けざまこう言い放ち、その交渉相手をすぐさま狙いはじめた。

 「銀次郎君!お久しぶり!さつま王子じゃん。君がいるという事は、ここにお父上や虎之介さんもいるじゃん?いるのであれば、話し合いたいじゃん!この国を変えるための大事な話じゃん!今ここで、国を変える為の重大な話をするじゃん!!銀次郎君どうじゃん?」


 「ああ?てめえ!!何言ってんだ?バカ王子!!!いい加減にしねえとぶっ殺・・・」


 と何も考えずに銀次郎はそう言い放ったが、その時、鉄鋼(有)がすぐさま前に出て、慌てて銀次郎のその物言いを制した。


 その刹那。さつま王子一行は、拡声器を持ったまま、ゆっくりと銀次郎たちの前に姿を現す。その距離わずか80mあまり。そして、その数、わずかニ十あまり。20!!!たったそれだけしかいなかった!!!

 部下が最新鋭のライフルを持ってるとは言え、その余りの数の少なさに一揆一行はしばし驚き、そして、にわかに沸き立った。これはチャンス!と内心ほくそ笑むさくらじま先生と一行。一行は、これを機に王子がまだ倒せる相手だと思い直し、戦線を立て直そうと、さくらじま先生に視線が集まる。そして、その民百姓の心を利用しようと、さくらじま先生は態勢を立て直す方法を頭で回し出す。しかし、それは明らかに筋の悪い反応であった。何故なら、ここには、もう反撃の目なんて無かったから。じゃないと、王子たちは目の前に出て来るはずがない。その為、それと見て、鉄鋼(有)と虎之介がその先生たちの動きが本格的に動き出す前にその動きをあっさりと遮(さえぎ)ったのであった。


 「先生。ここは一つ話し合いで解決するっぺよ。」


 王子に指名された二人の言葉とその行動。これにより、場は一気に話し合いの方向へと空気が変わっていく。無論、元より王子配下の雲助は、その銃口を最初から、さくらじま先生に向けていて、一撃必殺。この中で怖いのは、鬼の銀次郎ただ一人と見定めて、その他の烏合の衆はリーダーに向けた銃撃一発で散るだろうと王子は見ていた。そして、周到に遠方には五十からなる最新鋭ライフルの狙撃部隊を配置して、しかも、その銃撃、正確無比であり、つまりは、虐殺の用意がそこにはあった。一撃の銃撃で一気に50人殺せるその隠し部隊は、はっきりとさくらじま一行には大変なる脅威であり、元よりこの状況でさくらじま先生たちには何の勝機も実はなかったのだ。

 鉄鋼(有)や虎之介は、それを見抜いていてわけではないが、そうした事もあるだろうと考え、策を練っていた。さくらじま先生も当然それは分かっていただずだが、この野心成就の絶好のチャンスに判断が鈍っていたようだ。先生は、所詮、先生。策士とはいえ、現場の対応に経験の少ないその判断は、十手先、二十手先のレベルで、王子と知的な読み合い合戦を繰り広げる鉄鋼(有)や虎之介には、胆力において及ばぬものがあったと見える。

 その上で、だからこそ、自身の交渉相手となり得る虎之介と鉄鋼(有)に王子は話を向け、事態を画策したのだ。虐殺なくして融和あり。そのチャンスを見て、一気に一揆を沈静化しようとした。その王子の作戦たるや、見事である。王子は、心に野心を持つさくらじま先生をその交渉の席から外し、私怨で事を動かさない骨のある虎之介と鉄鋼(有)をこの場で引き上げ、この国の態勢を、とりわけ、さつま王子チームの強化を新たに進めようと画策していた。

 つまり、王子は、この場で一気に虎之介と鉄鋼(有)、そして何より、鬼の銀次郎を仲間に引き入れるつもりであったのだ。それは同時に、この先の話し合いこそが、さつまの国の運命を決定するものとなる事を意味する。そう。いよいよ、さつまの国を大きく動かせる機会が王子にやって来たのだっ!!

つづく!


※この物語はフィクションです。この時代に性能の良い拡声器があったかどうか定かではないまま、書いております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?