見出し画像

【掌編】ある閉ざされたトイレの個室で

 ツヨシがトイレの個室に閉じこもって、もう3時間になる。
 蝶芽子チョメコはトイレのドアの前で問いかける。

「剛、今度は一体、何があったの?」

「最近、ある悩みがあって、全く前に進めないんだ。身体が一歩も前に動かない。俺はもうこのトイレの中で一生過ごすよ」

「何を言ってるの?
 悩みがあるなら言ってみなさいよ。悩みは人に話すだけで50%は解消されるわ」

 剛が重い口を開く。
「俺はこの極東の片隅で、毎日ちまちまと、一体、何を足掻アガいているのだろうと……」

「パフィーかっ!純真かっ!
 アジアの片隅で、白のパンダを一生並べて行くつもりかっ!」

 剛は続ける。
「いやマジで。俺はこの極東の片隅で、ただのピエロになってんじゃないかって。アジアの端っこにも変わった奴がいるのかと、西側に思われてるだけなんだろうって……」

「米津かっ!玄師かっ!
 ゴールド認定かっ! あ、おめでとう!
 ランドリーが今日はガラ空きで、ラッキーデイって、ゆうんかっ!」

 蝶芽子の言葉は届いているのだろか。
剛は構わず続ける。
「俺はこの極東の片隅で、果たして手放しで、西側諸国の応援をして良いのだろうか?」

「ヨルダンの王妃かっ!ラーニア様かっ!
 イスラエルの攻撃には報道陣も野放しかっ!
 Jの二の舞かっ!
 そもそも極東の日本が何故、西側の一員なの?
 日本はね、昔から『八百万ヤオヨロズの神』と言って、万物に神は宿ると云う思想なの。 
 だから、日本人には到底、宗教戦争なんて理解できるはずもなく、戦争に対しては客観的に平等であるべきよ。
 今こそ、和を重んじる日本、唯一の被爆国である日本が、率先してリーダーシップを取らなければいけない立場なの。
 いつまでもそんな所に閉じこもってないで、出てきなさいよ!」

ギーッ♪
 ドアが開き、剛が静かにトイレから出てきた。
「蝶芽子のお陰で気分が少し晴れたよ。
 明日も頼むわ!」

 涙で濡れた剛の顔には、マバユいばかりの明るい夕陽が差し込んでいた。
 
 

(ぱひゅん)

BGM


また今度!

#ウェルビーイングのために


えっ!ホントに😲 ありがとうございます!🤗