見出し画像

【短編】六兵衛という名の小料理屋

 九里 雨音(クリ ウネ)は今日もヒステリックに怒っていた。

「わがまま言わずにご飯を食べなさい!」

「だってー、ボク、かつお節が乗ったご飯は、あんまり好きじゃないんだもん」

「そんなこと言わずに食べなさいよ!」

「えーっ!ボク、いつものが良いなあ」

「もう、黙ってご飯を食べるのにゃあー!」


🐠🐠🐠


 ガラガラガラ♪
「あの〜、一人なんですが、入れますか?」

 ここはほんわか商店街の中にある『六兵衛』という名の小料理屋。
どうやらお客さんが来たようだ。

「あら、いらっしゃい。 どうぞカウンターへ」

 客は勧められたカウンターの席に着く。

「いやあ、賑やかそうだったので入ってみたけど、客は僕一人ですか?」

「はい。お客さん、初めてですか。私は九里 雨音と申します。雨音と書いてウネ、宜しくね」

「雨音さん、なんて素敵な名前だ! ショパンかっ!ショパンの調べかっ!」

「あら、お客さん、初対面で失礼ですが、六助さんではないですか?」

「どうして僕のことを......」

「だって、SNSのアイコンのまんま。頭に鉢巻をしてるんですもの」
雨音はキヒヒヒッと笑う。

 六助も知ってもらえたことが内心嬉しくて、照れ笑いをしながら店内を見やる。
店の外からはあんなに賑やかに感じたのが、不思議だった。

 よく見ると、カウンターの隅にキジトラの猫が一匹座っている。
招き猫の置物のように動かないので、店に入った時には全く気づかなかったのだ。

 雨音がその猫に話しかけた。
「しかたないわね!じゃあ、チュールを少しあげるから、ご飯もしっかり食べなさいにぁあ!」

「ニャーニャー、ニャー!」
その猫は喜んでいるようだ。

「女将さん、猫と話せるんだ」と六助は問いかけた。

「ええ、ア・リトル、少しだけ。ミミはチュールなら食べるって言ってるわ。最近、わがままで困っているの。あ、ミミって、この猫の名前ね」

「ニャーニャニャ、ニャーニャ!」

「え?、ご飯よりカリカリが良いって。贅沢を言いなさんにぁあ!」

「へー、だから店の前は賑やかだったんだ。うーむ、とりあえずビール」
 お腹がすいた六助はメニューを手に取り、何にしようかページをめくる。

「この店のお薦めは?」

少し上目遣いで雨音が答える。
「お薦めは、あ・た・し」

「ハイ、ハイ。じゃあ、冷奴で...」


(おしまい)


BGM


🐈🐈🐈


なんだか六助の探訪シリーズみたいになってきたなぁ。

また今度!



#叙述トリック
#2000字のドラマ


えっ!ホントに😲 ありがとうございます!🤗