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《『鎌倉殿の13人』出演で話題》SPEEDに憧れ、ポッキーCMでブレイク…「困惑が顔に出ていた」新垣結衣(34)の若い頃

以前、CDB氏による「《『鎌倉殿の13人』出演で話題》SPEEDに憧れ、ポッキーCMでブレイク…「困惑が顔に出ていた」新垣結衣(34)の若い頃」(『文春オンライン』2022/08/28)という記事が掲載されました。記録のためにこの記事を全文引用致します。

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の新垣結衣を見ていて印象に残るのは、八重が物語から姿を消すことになる第21話の発声の演技だ。小池栄子演じる北条政子、大泉洋演じる源頼朝、そして小栗旬演じる夫の北条義時の前で会話を交わす八重役の新垣結衣の声は、目を閉じて聞くといつもの新垣結衣と分からないほど深く、落ち着いた発声をしている。

 同じ21話の中でも、二人きりで義時と話す八重はどちらかと言えばいつもの発声、新垣結衣らしい声で話しているので、頼朝や政子と話す場面は「目上の相手と話す時の時代劇所作」としての発声でああした声で演技していたのだろう。

新垣結衣の声の特徴とは

 あくまで場面に応じた演技の一つではあるのだろうが、今まであまり見せる場面の少なかった新垣結衣の深く太い声は、変化の時期にある国民的ヒロインを象徴する演技に思えた。

 もともと、新垣結衣の声には特徴がある。若手アイドル女優としてブレイクした映画『恋空』の頃から、どちらかといえばか細い、弱々しい声が彼女の特徴だった。基本的にその声質は今も変わっていない。

 最新映画『ゴーストブック おばけずかん』で彼女は、4人組の少年少女の冒険に付き添う臨時担任教師を演じるのだが、妖怪に驚き悲鳴を上げるシーンでは一瞬だが声が途中で詰まるような瞬間もあった。体質的に声帯があまり強くなく、パワーで押すような発声が苦手なのだろう。

 日本映画の予告編に多用される「絶叫・怒号」系の熱演ができない、声の細い女優は、役者として軽く見られがちだ。だが一方で、その細い声は、役者として新垣結衣の演技に特徴的なキャラクターを与えてきた。

 『逃げ恥』の森山みくり。『掟上今日子の備忘録』で演じた、1日ごとに記憶を失うヒロイン掟上今日子。彼女たちはいずれも激情で物語を動かすキャラクターではなく、どこか理屈っぽく、理知的に動くヒロイン像だった。新垣結衣が体質的に持つ声の硬さ、どこか不器用な生真面目さを感じる発声は、そうした浮世離れして理屈っぽいヒロインにとてもよく似合ったのだ。

 3度のシリーズを重ね、映画が大ヒットした『コード・ブルー』シリーズで演じた医師、白石恵役もそうだった。弱さを見せることが許されない救急ヘリコプター医療チームの中にあって、新垣結衣が演じる若き救急医・白石恵は弱さや迷いを振り捨てることができない、人間的な温情を象徴するキャラクターだ。

 山下智久が演じるクールな天才医師•藍沢耕作の低く落ち着いた声と、迷いながら成長する新垣結衣演じる白石恵の細く弱い声は、物語の高音と低音のように響き合うハーモニーを奏でてきた。

若い頃の新垣結衣から感じた「困惑」

 そうした、俳優として演じてきた人物像は、芸能人としての新垣結衣本人とも無縁のものではなかったと思う。元々彼女は、女優を目指して上京したわけではない。SPEEDブームで沖縄アクターズスクールを受験するも合格せず、姉が新垣結衣の写真を雑誌『ニコラ』のモデルに応募した所から芸能活動をスタートさせている。

 ポッキーのCMが爆発的な人気を呼び、たちまちスターになるものの、若い頃の彼女にはどこか、常に周囲で動く芸能ビジネスに戸惑い、圧倒される困惑が顔に出ているようなところがあった。それはどこか『コード・ブルー』の最初のシーズンで、医師になる覚悟、救急の修羅場を踏む覚悟がないままここに来てしまった、と雨の中で吐露して涙を流す白石恵の戸惑いと重なった。

 『逃げ恥』そして『獣になれない私たち』という、野木亜紀子脚本のドラマで大きな支持を得たことはやはり、新垣結衣にとって大きな自信、そして転機になったのだろう。

 頂点まで高まった人気に逆行するように、2年近くの間出演作はスローダウンし、そして「古巣・レプロのマネジメント契約のもとにフリーランスとして独立する」という発表が、『逃げ恥』で共演した星野源との結婚と共に発表されたのは大きなニュースになった。

 今おそらく、俳優としての新垣結衣は芸能界入りして初めてと言っていいほど安定した、自由な状態にある。次にどのような作品を選び、どのような人物を演じるか、彼女自身がこれまでにないほど大きな決定権を持つ立場にいるのではないだろうか。

新垣結衣本人に重なる「確信」

 『ゴーストブック おばけずかん』のクランクインは2021年2月。劇場映画への出演は、2018年公開の劇場版『コード・ブルー』以来となる。実は『鎌倉殿の13人』と同じように、この映画の中でも新垣結衣は、葉山瑤子という臨時担任教師にある変化をつけて演じている(公開も終盤なので、ここから映画のネタバレに触れることをお許しいただきたい)。

 4人組の少年少女の異世界冒険に付き合う前の葉山瑤子は、東京で夢破れ、教育に意義を見出せないまま教師をしている若い女性として描かれる。しかし異世界での冒険と少年少女たちの成長の後、彼ら生徒と、担任の葉山瑤子は時間を巻き戻し、まったく同じ日をもう一度生き直すことになるのだ。

 映画の前半で頼りなく、弱々しげに生徒たちに挨拶する葉山瑤子を、新垣結衣は映画のエンディング近くでもう一度力強く、教師という職業を選び直した女性として演じ直す。

今後はマイペースな出演頻度になることもありうる

 ひとつのシーンをまったく違う二つの心理で演じなおすそのシーンは、10代でモデルとして芸能界入りし、立ち止まる暇もなく若手人気女優として走り続けてきた新垣結衣が、2年近くのスローダウンと独立の後でもう一度自分で選び直した、俳優としての再出発の象徴のように見えた。

 今後、俳優としての新垣結衣がどんな活動をしていくのか、それは大きな事務所を離れた今、彼女自身にしか分からない。元々アグレッシブに活動するタイプではないようにも見え、マイペースな出演頻度になることもありうる。

 多くのファンは大ヒットシリーズ『コード・ブルー』の続編、あるいは星野源との『逃げ恥』の続編を望むだろうし、子どもをもったあとの平匡とみくりの物語を見たい期待はもちろんある。しかし、新垣結衣にはもうひとつ、ファンに待望されたまま何年も経つ人気作がある。それは堺雅人と演じた『リーガル・ハイ』シリーズの続編である。

これからも脚本家からの期待が絶えないのでは

 堺雅人、新垣結衣の俳優としての大ブレイクに加え、脚本の古沢良太が2023年の大河ドラマ脚本家に決定しているため、当分は望めないかも知れない。だが、『リーガル・ハイ』シリーズは堺雅人演じる古美門弁護士のドライで現実的な法律論と、新垣結衣演じる黛真知子弁護士の理想主義的な人権論の対決は、ポリティカルコレクトネスをめぐる論争が強まる今、ドラマの枠組みとして、当時よりさらに今日性を増しているように思える。

 『鎌倉殿の13人』の八重は、実子ではなく養子の鶴丸を助けようと身を挺して川に入り命を落とす。その身を案じながら、小栗旬演じる夫の北条義時は仏像の顔を見て「妻の顔を思い出していた」とつぶやく。三谷幸喜もやはり、新垣結衣にそういう役を書くのだな、と思わずにはいられないシーンだ。

 吉永小百合や山口百恵の全盛期ではあるまいし、あまり女優に聖女だ菩薩だという役割を過剰に期待してはいけないのかもしれない。でも新垣結衣にはたぶんこれからも、『リーガル・ハイ』の黛真知子や、『鎌倉殿』の八重、『コード・ブルー』の白石恵のような、どこか倫理観とヒューマニズムを手放せない女性の役を演じてほしいという脚本家からの期待が絶えないだろう。

 『ゴーストブック おばけずかん』の撮影後、内容をマスコミには明かさない手紙を4人の少年少女に一人ずつ書いて渡した、という逸話が語るように、脚本家や観客が新垣結衣に重ねてしまう「倫理」の重すぎる期待は、そうした素顔の彼女の人柄が引き寄せるものかもしれない。

今の新垣結衣のボーカルが聴ける日はくるのか

 最後に、俳優活動とは別の視点になるが、新垣結衣には以前から歌手としての活動歴がある。出世作となった『恋空』の挿入歌である『heavenly days』などを含めいくつかのヒット曲もあったが、俳優活動の多忙につれフェイドアウトしたままだ。

 当時の細く繊細な声に加え、いつか今の新垣結衣の深く落ち着いたボーカルが聴ける日を夢見るのも、可能性がない話ではないだろう。なにしろ今の彼女には、日本最高のソングライター、星野源がすぐ近くにいるのだから。『ゴーストブック おばけずかん』のエンディングに寄り添うように流れる主題歌『異世界混合大舞踏会 (feat. おばけ)』は、この映画のために書き下ろされた、星野源の新曲である。

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