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【備忘録】大手広告代理店で広告運用して学んだことを全公開

「内定承諾出ました。おめでとうございます!」

先日頼りにしているエージェントからの連絡は、12/25のクリスマスの昼頃だった。転職活動を始めたのは暑さの残る9月の末ごろで、終わってみれば日中の気温は20℃以上も下がっていた。変わらないのは、コロナウイルスによる感染はいまだ猛威を振るっていることぐらいだろうか?会社の同じチームの人にコロナの陽性者が出て、受けたPCR検査による陰性の結果報告と今回の内定の連絡が、今年のクリスマスプレゼントになったと思う。


自分の周りは今回の転職活動には懐疑的だった。親しい友達からはコロナによる景気悪化で企業の採用活動が縮小される中で、無理をしなくてもよいのではないかと。会社からは、相変わらず減らない退職者で全体の運用レベルの低下が騒がれる昨今で結果を残せというプレッシャー。正直、自分のキャリアは自分で決めるものであり、先駆者やそのリスクを負ったからこそ見えるものがあると思う。これから、諸々の関係者には迷惑をかけるかもしれないが、少なくともこれから起こる世の中のダイナミックな変化に比べれば、些細なことであろう。


もし今後かなりの迷惑をかけたとすれば、その贖罪にまとめたこの2年半で学んだ広告運用のリアルを見てほしい。上司、後輩、同僚、取引先、誰が見るかは知らないが、何か知識を学べたり、反面教師にしてもらえたらこの上ない喜びだろう。以下は、広告運用で学べたことを列挙していく。


自己紹介

その前に、改めて自己紹介だけ。

私は、新卒で中堅不動産デベロッパーで法人・個人向けの営業を行ったのちに、前職の販売企画の作成経験から、マーケティング職への興味を持ち、今の大手広告代理店に転職。その後はリスティング広告を中心に、月額5000万ぐらいのアカウントを運用し、コンペや後輩の育成などにも携わった(ここまでは面接でも定型文に近い)。気が付けば社会人歴は次の4月で6年目になるが、転職も多いので決して世間様からすると誇れるほどのキャリアでもないかと思う。少し古いがこんなnoteもあるので、興味あればこちらも見てほしい。


広告運用は、7割は知識、3割は性格

ここからは本当に私が学んだことを記載していこうと思う。

もしかすると一番伝えたいことはこれかもしれない。広告運用とは奥が深く、日々のアップデートも激しい。尚且つ設定項目も多いので、管理していくだけでも職業として成り立つ節は確かにある。だが、最近は本やネットの記事でもリスティング・SNS・DSPの広告運用については情報が溢れてきた。つまりは、この2年で広告運用の知識は「汎用化」されつつある。とはいえ新卒の社員が学ぼうには、学校のテスト直前みたいに徹夜でなんとかなるものではないので、膨大な知識量が求められる。そういった意味では、単純に教えられた内容だけではなく、自分から知識を取りに行く姿勢とPDCAを回して自分の経験や糧にするところを含めて、「知識」という言葉が7割であろう。ここまでは会社や周囲の環境に依存するところが大きい。

しかし、残りの3割は別だ。広告運用の仕事はかなりの離職率だ。2年もやっていれば何故かベテラン扱いされる。リーダーも歴5年以下というのも珍しくない。このクラスまでになるには、よっぽどこの仕事が好きか性格があっているかとしか考えられない。敢えて言えば、本当に真面目である。クライアントの成果に向き合い、神経を削るような入札調整、大量の入稿作業、叱咤激励を繰り返したクライアントとの定例会を、幾多も経て精神的に強くなった真面目なメンバーこそが最後に生き残る。


ECサイトの運用経験は欲しい

「広告運用のキャリアをやり直せるなら、どんな案件を担当したいか?」

もしこんな質問があれば、間違いなくECサイトの運用を担当したいと答える。実際に私も最初とその次に担当したクライアントはECサイトだった。生まれ変わってもECサイトがいい。

実はECサイトは、他の案件に比べて提案の幅が広い。通常のサーチ、ディスプレイに加えて、ショッピング広告・ダイナミック広告は必須、またCPAではなくROASで見ていることも多いので、より多い指標での成果判断が問われる。「実施できるメニューも多いし、指標もたくさん見ないといけない」という意味では、ECサイトで経験を積み、他のBtoBやリード案件を行えば、全般的な基礎が身についた状態でジョインできる。その意味では一番手堅いキャリア形成かと思う。近年では、ファインド広告や動画などYoutubeに絡めた施策やSNSを使ったファン獲得・ブランド認知も重要視されている。また昨今のリアル店舗への来客よりも、デジタル化されたプラットフォームへの集客が注目されるように、まだまだECサイトでの広告運用は注目されるはずだ。


案件チームの関係値が、成功の鍵を握る

広告代理店がクライアントと日々向き合う中では、金額の大小には拠るが非常に多くのプレーヤーが関わっている。クライアントと直接向き合う営業、配信成果の根幹を握る運用、レポート作成を担当するサポートメンバー、クリエイティブ、メディア、そしてそれぞれの職種の上司など多ければ20人近くが関わっている案件もあった。ただWEBの広告代理店においては、やはり営業⇔運用の連携は必須だろう。クライアントの成果にダイレクトに影響する故に、素早いレスポンスは双方への信頼につながる。

思い起こせば、私が運用としてうまくいっていた案件は、営業との連携が良かった案件も多かった(逆に連携が悪い案件によって、成果やクライアントコンディションが悪いものも多かった)。双方が双方の考えをこれまでのキャリアに関係なく尊重し合えること、円滑で活発なコミュニケーションがデータに囚われた定量的なアイデアから、クライアントの期待値を超える抜本的な提案につながることも多い。同じの釜の飯を食べるではないが、そういう一体感がクライアントとチームで向き合う姿勢を作るのだろう。


運用金額によって担当者のレベルが決まるわけではない

運用職の難しいところなのだが、実は「成功」という言葉を定義しづらいのがこの仕事のポイントだ。例えば、CPAを40%も低下させたとなれば、一般的は称賛されるべき事項だろう。しかし、もしクライアント予算が前月比で半分だった、直近でサービスのリリースで話題性が高かったなどの外的要因もあれば、果たしてその運用担当による功績なのかは判断がつかない。

前段で広告運用には多くの知識が問われると記載したが、つまりはそれだけ成果の分岐ポイントも存在するというわけだ。もちろん社内評価も定量的に行うことは難しい。

定量評価・定性評価どちらの観点も必要となり、果たしてそれも正しいのかどうかはわからない。時勢に乗っている、案件に恵まれている、メンバーに恵まれている、色んな評価観点を考慮する必要があるが、挙げだすと枚挙にいとまはない。

運用金額は担当者の運用レベルではなく、担当者に課せられた責任と捉えるべきなのかもしれない。


新規施策に対する心理的フィルターを設けない

広告運用に関するナレッジのアップデートは激しい。入社してからリリースされたメニューや仕様変更もかなり多かった。私はなかったが、もし休職して復帰した時には、アップデートの波についていけず、そこからつまづくことも予想されるだろう。裏返せば、新しいメニューはたくさんあるので、クライアントに合わせて新規提案をすること自体は、機会はたくさんある。

ただ人間だれしもポジティブになんでも新しいものを取り入れられるほど、賢くはプログラミングはされてはない。もしそうであれば、広告運用以外の仕事の方が向いている。また多忙に追われる運用職においては、アップデートに追いつけないことも多いだろう。

そして極めつけは心の弱さなのか「できない理由を求めがち」になってしまうことだろう。否定から入るのは簡単だ。別に新規施策を行わなくとも、成果さえよければ関係値が崩れないクライアントも多い。というよりそれがほとんどだ。よって、サボっても怒られない、だからやらないというシナリオは容易に思いつく。

だが現実は複雑なもので、現状維持に甘えたアカウントは衰退の道を辿るのだ。業界や金額による比例関係があるわけではないが、大企業も倒産があるように、胡坐をかいた設計では駄目なのだ。

私も当時の上司によく言われたのだが、「変化を恐れるな、やらない理由をつくろうとするな、そしてそのアカウントを自分の色に染め上げろ」という言葉は一番刺さっている。


社内の他の案件のことを知っておく

半沢直樹で主人公の同期で、渡真利という役柄があまりにも鼻が利きすぎる情報通で、半沢のピンチを何度も救っていたのは印象的だった(知らない人はごめんなさい)。時に情報や人脈は、何にも代えがたい資産となる。

広告運用の仕事は個人に依存することがかなり多い。また前段でもあるように、情報のアップデートは激しく、多忙な故に情報収集が追い付かないこともしばしばだ。つまり、社歴に関係なくクライアントへの導入・提案経験から社内でその人しか知らない事例も多く存在するのだ。

困ったら誰かに救いを求めたいのは山々だが、そもそも誰に相談したらいいのかが分からないことも同じぐらい辛い。社歴のある方々から聞いたとしても、もしかしたら知らないこともあるのだ。そういう時にこそ、「この案件は、このチームの、〇〇さんが運用している」という社内事情を理解しておくのは重要だろう。例えば、ショッピング広告の質問をしたいときに、4年目の金融系クライアントしか担当してない人に質問しても事例や経験則までは返ってこない。であれば、むしろ後輩のECサイト運用担当者の方が頼りになる。決して情報通になれという訳ではないが、社内の人間関係を広げておくことは、最終的に誰に頼るかの選択肢が広がるので、問題解決には近づきやすいだろう。


キャパシティオーバーを知っておくこと

成長産業ではあるあるかもしれないが、「仕事は作れば作るほど存在する」のが、この業界である。例えば、リスティング広告の業務1つをとっても、入札戦略の変更も、細かいクエリ精査もどちらも成果拡大の重要な業務だ。そして、仮に成果が拡大し効率的なオペレーションが実現しても、会社はまた別の案件や施策を実行するように促す。「仕事は作れば作るほど存在する」うえに、「できればできるほど降ってくる」のが現実なのかもしれない。

私が入社してから色んな同僚を見てきたが、半数は体調不良などにより休職・退職を余儀なくされている。実際に私もあった話なのだが、入社してから1~1年半ぐらいのときが一番運用金額が大きかった(4案件で8000万/月)。正直、パンクしかけていた。入札調整と営業からもらう入稿の振り出しとチャットを追いかけることで1日が終わり、定例資料は定時を超えてから取り組むのが常態化していた。

組織に3年目以降のベテラン(普通の会社であればこの年代をベテランと呼ぶには若すぎるが)が少ないことで、フォローアップできる体制もなかったのは本当に辛かった。正直、自分が辛い時には辛いと言える素直な心もないと、いつか「自分」が壊れる。


後輩を持つことで自分の知識がブラッシュアップできる

組織にベテランが少ないことが災いしてか、後輩の指導にあたることも多かった。特にリスティング広告の知識については専門性が高いので、知識の習得はもちろんのこと、webマーケティングの世界で生きていくには必須の「数字で戦う」ために、論理的思考を養うことも並行していたので、初期のトレーナー業務には非常に多くの時間を割いた。

しかし、自分がGiverだけで終わることなくできたのは、偏に後輩たちの意識の高さかもしれない。研修で習う知識に関してはどうしても汎用性が付きまとうので、現場での肌感が異なることも多い。それ故に「研修では○○と習ったんですけど、実際の現場ではどうですか?」「自動入札を入れることで最適化できるはずなんですけど、手動で運用しているのはどんな理由がありますか?」などの具体的な質問も多く、改めて自分のアカウントの見直しを考えさせられることもあった。

申し訳ないと思うのは、どうしても自分の案件のクセが強かったのは事実だ。同じようなKWを複数キャンペーンで横断して配信する必要があったり、一般KWだけで予算区分の違いにより30キャンペーン以上にも分割したりなど、はっきりと言って後輩たちの初見で運用するにはあまりにも媒体の推奨からはかけ離れているものが多かったのだ。つまり、「推奨と現実の狭間をどうつなげ合わせるか」といつも戦っていたような気がする。時にクライアントの意見を受け入れすぎて、現実的でない運用を行ってしまうこともあったが、後輩たちの素直な意見で、ふと目が覚めることもあった。ありがとう。今度落ち着いたら酒でも飲もう。笑


コンペで見直す自分のアカウント

後輩たちの言葉だけではなく、コンペで他社のアカウントを拝見することで反面教師のように自分のアカウントにこっそり取り入れていることも多かった。あとはリーダークラスと意見をすり合わせることで、より精度の高いアカウント設計についても学ぶこともあった。

ただ、他社のアカウントを見ても直すところもないことも多くなった。年々他社の運用レベルが上がっている(むしろうちが伸びていない)中で、指摘ポイントが少なく施策の行き詰まりも増えている。サーチ依存からの脱却が昨今社内外問わず叫ばれているが、提案力の弱さは見受けられる。

コンペに関しては色々提言したいことはあるが、ここには書ききれないので抑えておく。


目標を見失うことの怖さ

たぶん運用していて一番面白い時期は、1000万クラスのアカウントを効率的に回せるようになるところまでだろう。億単位でも2000万でもやることに違いは少ない。

初期研修のゴールで伝えられたゴールが今でも心に残っている。「半年後に3000万/月(1人あたり換算)」これ自体は間違っていないし、目指すべき目標として妥当だろう。ちょうど届くか届かないかのギリギリの目標であり、運で巡り合わせられるかどうか微妙なラインだ。目標とはかくあるべきラインというように。

ただ、これを達成した後、どう進めばいいのかは難しい。フロント寄り、メディア寄り、運用のエキスパート、計測周り、サポート業務、様々なキャリアが目指せる中で、「どうあるべきか」を提示できていないことは大きな課題なのかと思う。キャリアプログラムなどで仕組みだけ整えるのではなく、文化として根付かせることだ。運用業務は「ミスできない」プレッシャーを全面で受けることでかかるストレスが大きい中で、目標の見出し方が難しい。早期退職が目立つのは、キャリアの形成でも、人間関係でもなく、運用業務そのものへの捉え方と文化の生成に活路はある気がする。


「会社で注目されるチーム」≠「やりがいのある仕事」

どこの職場でもある話だが、花形部署の仕事が必ずしもいい仕事とは言えない。人それぞれによって「働くことの意義」は異なるはずだ。

運用という仕事はその性質上、やはり運用金額が評価基準となってしまう。また運用金額はどうしても無形商材やリード獲得案件に多く積まれる傾向にある。ポートフォリオ上、偏りもあるのも仕方ない。

現に私も一番苦しい4案件8,000万の時期を乗り越え、TVCMとの連動やミドル・アッパーファネルとの統合を進めるチームに最終的に配属された。会社では革新的な取り組みを行うチームなのだが、どうしても心は踊らない。結局のところは、「今までのスキームでは売上は取れないから、違うカッティングでやろうぜ」という内容しかない。私は内心、そのプロジェクトに同意もやりがいも見いだせなかった。というより、自分の案件ではクライアントも潜在層の拡大よりも、顕在層がきちんと取れていればいいという考えで、それ以上でもそれ以下でもない。正直、代理店のエゴだけを押し出す仕事のあり方に疑問を持っていた。


TVCMへの領域拡大はもはやレッドオーシャン

ここ1~2年のweb広告業界のトレンドの1つに、TVCMとの連動が挙げられる。評価指標が曖昧だったTVCMを、専門ツールやweb広告の実績をもとに評価できる仕組みを整えつつある。

総合代理店の配下にある会社は親会社とのグリップを強める、専業代理店は横のつながりをもとに業務提携を進めお互いの資本を使い難局を乗り切る、あたりが解決策だろう。

確かに昨今のコロナ情勢に伴うデジタルシフト化は、完全にweb広告の代理店には追い風だが、あくまでそれはTVCMの予算を割いたに過ぎない。当たる競走馬に多くの賭け金が積まれ当たりの金額が減るように、活路と思われた事業はすぐに各社が飛びつき旨味は無くなっている。


「誰のために仕事をしている?」

言葉にすれば容易く、ありきたりなフレーズだ。しかし、仲介業や我々のような代理店業のマージンビジネスでは、時折見失いがちなのかもしれない。

商売の基本だが、優先されるべきは「お金をくれる人」だ。広告業界では、メーカーなどの広告主である。

顧客第一主義、クライアントファーストなど呼び名は各社で異なるが、つまりは「自分たちの有益性よりもクライアントの趣向性実現こそが、最終的に自分たちに返ってくる」ことが本来あるべき姿なのだろう(もちろん各々で捉え方は異なるので異論は認める)。

私の会社も上記を謡っている、いや謡っていた。しかし今回のコロナ情勢で、収益・競争力の低下により、運用報酬に頼りきれない構造になった。それにより、本来媚を売ってくれるはずの媒体社に逆に媚を売らなければならない状況もあった(インセンティブと言われる運用金額をもとにしたボーナス報酬をアテにした)。

もし経営者として考えるならば賢明な判断だろう。1つの収益源に頼るのではなく、多方面からの収益でポートフォリオをカラフルに仕上げることは安定性を増す。これからの競争激化のweb広告業界において必要な判断だろう。

だが、個人、いや文化が根付いている社員からは反感を買うかもしれない。もしくは既に買っている。自分のお客さんがいる中で、他に媚を売って、お客さんの損は生み出せられない。長年積み上げてきた信頼を会社の方向転換によって失えるほど、人間はできていないと思う。どの会社でもある話だが「現場と経営の剥離」は起こりうる。おそらくこの事象を解決した人間がスターであるが、個人的にはもっと成し遂げたい事象は多い。


「やっている姿勢」を見せるだけの施策

成果の悪いときのあるあるだ。事業会社の担当がいらっしゃれば、よく見ていただきたい。例えばCPA最適化案件で、CTRだけを良くするTDやクリエイティブのトライアルだけを提案しているのであれば要注意だ。何故かというと、CPAの改善に寄与するのは、「CVR」「CPC」の2択だ。CPA=Cost÷CV=CTs×CPC/CTs×CVR=CPC/CVRの計算式により、実際にCTRの入る余地はない(CPCの改善において、品質スコアから推定CTR上昇などのポイントは考えられるが二次的・三次的な改善となるので、ポイントを突いた提案とは言えない)。

残念ながら世の中には、「打つ手なし」の案件はよくある。クライアントの掲げた事業計画に基づくKPIが高く、現実的に目標達成が不可の状況で、ノーアクションは社内的にも社外的にも顔向けができない。KPIの再設計ができれば文句はないが、そうそう即決できるものでもない。さらにKPIの設計を緩くしたときには、クライアントの現場担当者には経営陣から白羽の矢が向けられるので、もちろん代理店への風当たりも強くなる。

そのために信頼維持のために「やっていることアピール」の施策は存在する。世の中でもそうだろう。やることのない新卒社員が無駄に早く出社する風習など、社会は理不尽に包まれている。

代理店側も努力をしていないわけではない。単純にリソース的に解決策が見つからないこともある。これは2年間勤めてきたことで見えたことだが、事業会社側の方々も、成果が悪くなっても温かく見守ってもらえるとありがたい。もし嫌ならリプレイスしてしまえばいいし、大概のケースではほかの代理店に変えても抜本的に改善するというのは、まずない。先ほど、「案件はチームで取り組む」ことは説いたが、クライアント側の方々もここに入ってもらえると最高なのかもしれない。


まず、クライアントのところに行け

運用と言われると裏で入札調整や入稿・レポート作成にせっせと取り組んでいるイメージがあるが、これだけが完璧にできていても、いい運用担当とは言えないケースが多い。真に良い運用担当であれば、ボトムアップでクライアントへの提案が強い。そして良い提案には、営業から言われたことを鵜呑みにして業務に取り組むだけではなく、本当にクライアントが求めるものは何かという、ニーズをしっかり把握していることが重要だ。

例えば、KPIがCPA最適化と言われても、クライアントの経営層が考えているのは売り上げの最大化だ。そのために、獲得単価の効率化は存在する。別に経営層と会わないといけないわけではないが、そのあたりの温度感は実際に顔を付け合わせなければ分からない。表情筋の動き方や言葉の間合い1つでも、違いはあるはずだ。

昨今のコロナ情勢でオンラインミーティングが増える中で、コミュニケーションが希薄になることもあるだろう。ただ相手の顔も知らない中で、誰のためにやる仕事なのかも知らない中でやる業務に、本当に相手のことを思いやった業務がどれだけ存在するのだろうか。

安定した案件に営業が介入して壊していくケース

まあよくある話だろう。実はリード獲得の最大化を裏で考えていたクライアント側のニーズに応えて、勝手に売り上げを拡大してくるみたいなのは、代理店にとってはうれしい話だろう。しかし、それが本当に大事なのか、他のメンバーは納得しているのか、とりわけ運用担当はここら辺の事情は把握してないとまずい。大体営業が独り歩きして拡大してきた案件は潰れる。

普段からクライアントのところに訪問しているなら、万が一このようなケースになっても理解は進むだろう。だが伝聞での要件に、重要性の温度は存在しない。あっても運用担当の行動沸点に至るまでには、伝聞という形はあまりに火力が弱い。

コンペやリプレイスに持ち込まれることも多いが、一度まっさらな状態で再設計するぐらいが壊れた関係を修復するには十分だろう。


サポートチームへの感謝は、いつか自分を助けてくれる

「施されたら施し返す。恩返しです!」二度目の半沢直樹ネタで恐縮だが、運用⇔サポート担当の関係は意外と重要だ。

レポート作成などは、抽出粒度や与件が間違っていなければ、作成に関してミスが発生することはまずない。それ故に、サポートに依頼する際に運用側は100%の状態で出来上がると確信する。しかし、運用の成果が常に一定でないように、いつも100%で作成される仕事もまた尊いのだ。

個人的には、複雑なKPI設計の案件が多く、またKPI変更も多かったので、サポートチームの方々には、色々要望を出してしまった方だと思う。その度に対応してくださったことに関しては感謝しかない。

運用の人間ができることとすれば、サポートメンバーの想定工数を逆算して、業務の肩代わり、納期延長などの対応を進めることだろう。正直、私もかなり上記2つは行ったが、他の業務や案件での対応で、随分無理な要望も聞いてもらえた。仕事は1人ではできない。持ちつ持たれつで、苦しい時に手を差し伸べる器の広い人間でないと務まらない。


運用職にはいい人が多い

極論かもしれないが、私の周りで運用職で性格の悪い人はいない。これだけは正義だと言える。

営業からの無理難題も、サポートの遅れを取り戻すことも、最後の砦として受け止めるのが運用の仕事でもあると思う。メンタルの疲弊があっても全然おかしくない。年末年始、不休の方がいてもおかしくない。

ただいい人だったら仕事ができるかと言われたら、それは違うはずだ。真面目な男がモテるのは、青春でも一瞬だろう。


まとめ

近年、web広告への注目度は高く、各広告主もマーケティングのウエイトをかけるようになってきた。また代理店出身者が事業会社のマーケティング担当として、インハウス運用やディレクションを取るケースも増えてきている。

AIやサービスの拡充の中で、運用者の業務は軽減されつつあると言われているが、実際の肌感覚では業務内容が減っているようには思えない。たしかにレポート作成や入稿などの繰り返し反復される「単純作業」はより効率的なオペレーションになるように進んでいるが、それと同時に運用者の業務は、単純業務から全体の方向性を決めていくディレクション業務が増えている。言うまでもないが、ディレクションや決断を行うには、それ相応の知識や経験が必要であり、結局のところ運用者自体はより多忙になっているのかもしれない。

私が入社した時は、各代理店が運用型広告の重要性を説き、属人的なパフォーマンスからナレッジの習得度が均一化された集団になるために、多くの人材が採用されたが、今回のコロナ情勢によって企業の採用活動は難航化しており、実際に未経験で採用されるケースは大きく減少した。

リスティング広告の知識が汎用化されることによって、運用者の価値は薄まっていく未来が訪れてもおかしくはない。だからこそ、代理店・運用者が介在する価値とは何か、またクライアントや広告主に何を還元できるかこそがその人のバリューであり、生き残る運用者であると考える。

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