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産業医に面談を振るための目的・理由

本記事は産業看護職向けの記事です。

とある方(産業看護職)からこんな質問をいただきました。

「どういうときに面談を産業医にパスすればよいのでしょうか」

また、ある方(産業医)からはこんな相談をいただきました。

「産業看護職から面談ばかり振られて困っている」

面談の目的」でも書きましたが、産業保健現場では面談の目的が曖昧になりがちですし、面談を誰がやるのか、なぜ産業医が面談するのか、ということで上の質問のようなボタンの掛け違いも起きがちです。そして、多くの企業で、産業看護職が常駐・常勤で、産業医が非常勤(例:月1回2時間)というような体制がとられているため、産業医の限られた訪問時間に、どういう面談を組めばいいのか分からないという問題も発生しているのだと思います。産業保健活動は、法令で定められている業務(職場巡視、健診判定など)以外は、産業看護職と産業医では業務はほとんど同じで、産業医じゃなければできない業務というのは非常に少ないのです。そのため、(特に常勤である)産業看護職は、”限られた訪問時間の産業医”という資源をどう使いこなせるかが問われるのです。そこで、産業看護職がどのような場合に、産業医に面談を振ればよいのかということを整理したいと思います。言い方を変えると、「産業医じゃなければいけない面談とは何か」を考察したものになります。

産業医に面談を振る目的・理由

目的・理由1:重症・ハイリスク

対象者の健康状態が非常に悪いときに、産業医の判断を仰ぐというものです。これは、就労に著しく支障が出ていることや、就労することで著しく体調が悪化していて、就業上の措置に関する意見(以下、就業制限)が必要そうな場合と言えます。例えば、血圧が非常に高い状態で長時間残業に就いている場合です。ただし、緊急性の高い場合には、産業医面談を待たずに、医療機関に繋ぐという対応も必要になるでしょう。
 また、実際には就業制限が本当に必要になるケースが少ないため、産業看護職が就業制限を武器として使うことは十分ありえると思います。つまり、「安全配慮義務上、病院を受診して数値を改善しなければ安全に働けないとみなされますよ」「その数値では、企業のルールとして夜勤制限となる可能性があります」「今のままの状態が続けば産業医から就業制限が出されますよ」といった言い方です。安全配慮義務や企業のルール、産業医の権限をうまく借りることで、対象者に対して、なんらかの行動を促すというものです。こうしたやり方を行うことで、産業医じゃなければできない面談はさらに減らすことができます。

例:
「就業制限が検討されるくらい数値が悪い方なので、産業医面談を設定しました」

目的・理由2:主治医連携

病院への紹介は産業医じゃなければできないということはないでしょうが、医者同士じゃないとダメという医者も一部にはいますし、やり取りとしてはスムーズになる可能性が高いように思います。診療情報提供依頼書は産業看護職でも(非医療職・衛生管理者でも)作成はできると思いますが、これは地域性や、医療機関の特性次第なので、この辺は見極めが必要だと思います。おそらく地域連携室を通して紹介受診してもらう場合には、医者による紹介状が必要になると思います(診療所機能も必要?)。

例:
「A病院に紹介受診してもらう予定のため、産業医面談としました。A病院の地域連携室から紹介状の作成も求められているので、面談後に紹介状の作成もお願いいたします」

目的・理由3:就業制限がかかっている

基本的には、就業制限は産業医の権限で出されます(あくまで措置は事業者の決定ですが)。そのため、すでに就業制限がかかっている方については、就業制限を外す・緩めることが検討されるため、産業医面談を行ったほうがベターでしょう。ただ、ほとんど数値が変わっていない場合には産業医面談をスキップして、産業看護職の方で対応しておくこともありだと思います。また、就業制限を外す予定がない方(ほとんど制限が固定されている方)についても産業医面談じゃなければいけないということはないでしょう。

例:
「残業制限中の方なので、面談よろしくお願いします。」

目的・理由4:嫌われ者になってもらう

面談では、ときに相手が嫌がることも言わなければなりません。例えば、休業を勧める、禁酒・禁煙を勧める、勤務態度を改めてもらう、などです。このようなことを、敢えて産業医に言わせる、ということも重要な役割分担だと思います。産業看護職は、相談されやすいことが大切な役割意義になりますので、嫌われ者になって相談されにくくなってしまうことは企業として損失です。なので、敢えて産業医に言わせる、ということは戦略上ありだと思います。

例:
「先生の方から、休業が必要だと言ってもらえませんか?」

目的・理由5:保健師の言うことを聞いてくれない

保健師の言うことを聞いてくれないけれど、医者の言うことはちゃんと聞くという人はたまにいますよね。医者に対する信頼感や社会的地位であるとか、権威に弱いとか、悲しいことに女性を軽視しているということもあるかもしれません。理由はどうであれ、そういう傾向があるのは事実だと思いますので、そこはうまく利用して、産業医面談を2段階目(奥の手?)として実施するのもありだと思います。

例:
「保健師から何言っても聞いてくれないので、産業医の方から指導してください。

目的・理由6:対象者の職位が高い

対象者が社長、役員、部長といった場合にもおいても、あえて産業医をぶつける、というやり方はありでしょう(ぶつけるという表現はやや乱暴ですが)。これは、産業看護職が偉い方に萎縮してしまうこともあるでしょうし、上層部と産業医を会わせておきたいという理由もありえると思います。上層部に、産業医から情報をインプットさせるという目的でもありだと思います。特に、耳に痛い話は、あえて産業医にさせて嫌われ役を演じてもらうというやり方もありますよね。

例:
「今度、常務との保健指導をセッティングしておいたので、健康経営の件を伝えてください!」
「社長相手だと、ちょっとやりにくいので、産業医からバシッと禁煙指導よろしくお願いいたします!」

目的・理由7:対応する人を変える

手を替え品を替えというやり方です。これは産業医に限らず、他の産業看護職であったり、上司や人事であったりしてもよいと思います。いつも同じ人がやり続けても変わり映えしませんしね。ときに違う人が対応することで話が動くこともあると思います。保健指導では、長年ずっとひっかかり続ける方とかもいますからね。

例:
「ここ5年くらい毎年ひっかかってて、最近は世間話ばかりでのらりくらりと全然話が進まないので、今年は産業医面談にしました」

目的・理由8:スケジュールの都合上

やや乱暴な感じがしますが、産業医のスケジュール上、ついでに面談をしてもらうということもありえるでしょう。職場巡視で訪問するついで、衛生委員会で行くついで、といった具合です。分散型事業所なんかではけっこうよくあるのかもしれません。私はしょっちゅうありました笑

例:
「*県の事業所の職場巡視に行かれる予定に会わせて、Aさんとの面談も組ませてもらいました。」

目的・理由9:情報共有のため

現時点では、産業看護職で対応できるけれど、将来的にどうなるか分からないため、今のうちに産業医と顔合わせをさせておきたいという理由で産業医に面談を振ることもあると思います。将来的に重症化する、将来的に就業制限が必要になる、将来的にこじれそうといった状況でしょうか。あまり多くはないかもしれませんが、産業看護職の退職や異動などで、引き継ぎを行うために産業医に面談を振るということもあるかもしれません。

例:
「現時点では、産業医の出番はないのですが、近い将来に先生の方にも話がいくと思うので、今回面談をセッティングしました」

目的・理由10:勉強のため・指導を受けるため

後学のため面談を同席させてください!的なやつです。産業医がどう指導しているのか、どう説明しているのか見てみたいです、勉強させてください!ということで産業医に面談を振るのもありだと思います。また、自分が面談しているのを見てもらうのもありだと思います。あまり面談のやり方をフィードバックを受ける機会も少ないですしね。あえて、これを目的にした面談もありだと思います。
例:
「他の人の保健指導を見たことがなく、産業医の先生がいないときでもしっかりとやりたいので、先生の面談に同席させてください!」

目的・理由11:複数人で対応するため

面談は"1vs1"の2人でやるのもいいかもしれませんが、3人以上でやった方が進めやすいこともありますよね。また、産業保健職側と対象者との関係で、不穏なもの(恋愛感情や、暴力などの恐れ)がある場合にも、複数人で対応するメリットはあると思います。言った言わないということもありますので、少しややこしい方、こじれそうな方な場合には、複数人で対応することも有効なのだと思います。産業医のスケジュール次第かもしれませんが、複数の意見を出すことで、より良い助言ができることもあると思います。
 産業医側としては、面談の証人として、看護職に同席して欲しいということもあります。また、面談後のモヤモヤを共有させてほしい、という思いもあったりします(参照:「産業保健職自身のセルフケア」)。密室化させないってすごい大事です!

例:
「ちょっと前回から、不穏な空気があるので、先生も同席していただけないでしょうか」
「話がよく散らかったりしてくるので、先生もいっしょに同席していただけないでしょうか」

産業医に面談振る際の注意点や工夫、考え方など

ここからは、実際に産業医に面談を振る際の注意点や工夫、考え方などについて説明していきます。

産業医と面談を振る目的・理由をにぎっておこう

産業看護職が産業医に面談を振る際には、なぜ産業医面談としたのか、その理由を産業医と事前ににぎっておくことをお勧めします。なぜ振ったのか、セッティングしたのか、なぜ産業医じゃなければいけないのか、その部分を説明して合意をとっておくことで、産業医とのボタンの掛け違いも減るでしょう。盲目的に、なにも考えずに、産業医に面談を振ることは、目的なき面談と同じです。対象者も(その上司も)、産業医も、企業もみんな損をします。説明した前述の目的・理由はすべて絶対的なものではありません。「目的・理由:1-3」を基本とした上で、あとはケースバイケースというくらいが無難かなと思います。「目的・理由:4-9」は相対的、相性的なものですしね。産業医の訪問時間もまちまちで、常勤の専属産業医であれば比較的時間もあるでしょうから、複数人対応をデフォルトにしていても全然よいと思います。
*「にぎる」とは、状況、考え方を、一方通行ではなく理解しあうことを表現します。(参考ネット記事

産業医によってこだわりは異なる

産業医によって重症と考える値、こだわりの項目は異なりますので、「目的・理由1」であれば、血圧や血糖のような項目で、どのくらいであれば重症とみなして産業医面談をセッティングした方がよいのか、産業医とあらかじめ合意を図っておいた方がいいでしょう。LDLコレステロールや中性脂肪、尿酸などの項目は特に人によってこだわりが変わってきますので、振った方がいいかどうかを話し合っておくとよい項目です。健診判定や面談のセッティングは、ある程度は項目や数値を定めて、そのアルゴリズムに沿って行うことで、工数は格段に減りますし、産業医との連携もスムーズになると思います。

産業医によって面談の好みや関わりたいタイミングがある

特にメンタルヘルス関連にその傾向が強いと思いますが(値でクリアカットに分かれるのではなくグレイゾーンが多い)、産業医がどのタイミングで関与したいのかは異なります。休職中から関わりたい産業医もいれば、復職が見えはじめてから関わりたい産業医もいますし、復職段階でしか面談したくない産業医もいます。この辺りは正解はなく、産業医の好き嫌いの話です。前々から関わることが信頼関係構築や、体調の経過がわかる、訴訟対策になると捉える産業医もいます。産業医の好みを把握し、どのようなタイミングで面談を組むとよいのかをにぎっておくとよいと思います。

産業医によって産業看護職への期待は異なる

産業医によって、産業看護職に対する役割期待は異なります。こだわりが強い方や自分でやりたい方もいるでしょうし、産業看護職を信頼していない方もいるかもしれません。臨床と産業保健現場は異なるのですが、臨床マインドを引っ張ってくる産業医も少なからずいます。そういうことがあるという前提にたった上で、産業看護職は、自分たちの役割や、どこまでできるのかを事細かに丁寧に説明しておくとよいでしょう。

産業医を奥の手にせよ

面談にも緩急が必要です。一段階目と二段階目を分けることで、面談の狙いが達成しやすくなることもあります。例えば、産業医との面談をするくらいヤバい状態なんです、というメッセージを伝えたりすることもできます。やり方次第ではありますが。

こちらの記事では産業医は最終ボスとして使え、と説明されています。

産業医を使い倒せ

産業医は使い倒しましょう。そのためには、なんでもかんでも仕事を振ればいいということではありません。とっておきの場面にしっかり使ってこそ産業医は活きるのです。明確な目的をもたないと産業医はなまくら刀のように、切れ味が悪くなってしまいます。

嘱託産業医の時間をどう使うかは産業看護職次第です。例えば以下のツイートをご覧ください。1日の産業医の時間で、『復職判定面談2件(最後上司同席) メンタル復職後の就業措置面談2件 (プラス上司面談1件) 事後措置面談1件(治療してるのにHbA1c11) 健診判定200件』なんてなかなか大変ですよね。しかし、産業医を使いこなすということはそういうことです。このような業務をこなすためには、整理されていなければ、おそらく丸二日以上かかるでしょう。しかし、うまく整理すれば一日で終わります。産業医に振る面談・業務を整理すれば、このように使い倒すというのはそういうことなのです。(使い倒すというのは良い意味ですので勘違いしないようにしてください。私も使い倒されたいです)

産業医と責任と情報を共有しよう

産業医はそれなりに報酬をもらっています。それは判断をすること、責任を取ることの対価です。そのため、産業医に対して、遠慮して面談を組まない、メールなどで情報を共有しないのは非常にもったいないことです。面談の目的を決めて面談を絞ることと、情報共有しないことは別です。産業医をヒマにする必要はないのです。必要時にスムーズに連携するためにこそ、タイムリーに情報の共有や、細かい点においても判断を仰いでおくとよいと思います。産業医とも情報を共有し、責任を分担することもまた、産業看護職の腕の見せ所だと思います。産業医を使い倒しましょう。

ホウレンソウをしよう

対象者がこじれそうなとき、ややこしくなりそうなとき、面倒になりそうなとき、トラブルになりそうなときほど、産業医や人事担当者と情報を早めに共有しましょう。いわゆるホウレンソウです。決して一人で抱え込むことがないようにしましょう。

産業医業務は産業看護職がほぼほぼカバーできる

法令で定められた産業医業務以外は、ほぼほぼ全て産業看護職で代替的にカバーできちゃいます。前述の目的・理由があっても、やり方次第では、産業医である必要はありません。うまく産業医の名前や権威を借りてどんどん活躍の幅を広げていきましょう。
 産業看護職自身が臨床マインドを引っ張って、なんでもかんでも産業医任せであったり、指示待ち人間であることは望ましい姿ではないのだと思います。産業医じゃなければできないなんてことはほとんどありません。法的事項がないからこそ自由に動けるのは産業看護職の強みです。産業看護職は決して面談振りマシーンではありません。面談を設定するだけの秘書でもありません。培った専門性を発揮し、産業看護職としてやれることを増やしていき、活躍の幅を広げていただきたいと思っています!

おまけ:産業看護職の強みを活かそう

この記事の裏メッセージは、産業看護職の強みを意識しようというものがあります。産業看護職は、産業医の劣化版でも、下位互換ではありません。産業医の指示待ちではダメなのです。そのために、自分たちの強みを意識し、自分たちでしかできないことを理解することが極めて重要です。
例えば、以下のようなものでしょうか。
・従業員との距離が近い
・医師よりも相談を受けやすい
・調整業務に長けている

さいごに:産業医の先生へ

本記事は産業看護職向けに書いておりますが、産業医にも読んでいただきたいとも考えています。産業保健現場では、ほとんど情報の整理もされず、目的が曖昧なまま面談を丸投げされることも多かろうと思います。その際に、何も言わずに、淡々と面談に臨むこともできます。そちらの方が波風を立てませんし、それも一つ選択だと思います。しかし「なぜ産業医面談にしたのか」という問いを投げ続けることが、産業保健活動を推進するためには必要になってきます。面談の丸投げは、職場、人事、産業看護職からと様々なパターンがありますが、根気強く、面談の目的の整理や、なぜ産業医面談としたのか、という問いを投げ続けていくことで、少しずつ面談の振られ方が整理されていくのだと思います。産業医ならなんとかしてくれる、なんでもお願いしたらやってくれるという謎の頼られが発生することがありますが、丁寧に根気強く対応していくことで、徐々に現場で完結していくようになっていきます。そして、産業医の業務が整理されて、より重要な業務に、より予防的な対応に時間を割けるようになっていきます。産業医が過度に頼られている状況は産業保健の理想ではないと私は考えています。その企業で働く方々が自律的に主体的に動き、それぞれの役割を果たすことこそが目指すべき姿だと思います。

おまけのジョーク





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