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産業医のことをもっと知りたいと思った医学生向けの産業医キャリアのススメ

はじめに

最近、医学生さんと触れ合う機会も多く、産業医に興味を持ってくれている方が多くなっているなという印象です。ただ、実際に会ってお話できる時間も限りがあるため、産業医の魅力を伝えきれずに、自分としてはもどかしい思いもあるのが率直なところです。もちろん、30分程度でも頑張って伝えている気持ちもあるのですが、やはり、前提となる知識もそれぞれですし、なかなか産業医の面白さや醍醐味、難しさといった側面をしゃべるのも簡単じゃないなとも思ってます。せっかく医学生さんが産業医に興味をもってくれたのだからこそ、産業医というキャリアをもっと真剣に考えていただきたいなと思っています。そこで、医学生さんが、産業医のことを見聞きして、もっと産業医のことを知りたい、キャリアの選択肢として考えたいと思ってくれた方向けに記事を書こうと思います。もし、医学生さんが産業医にキャリアの相談をする際には、ぜひ事前にこの記事を読んでいただくと30分程度(立ち話程度)であっても、より深くて意義のある話ができるのではないかとも思うのです。

これまでに、医学生さん向けに2つのnote記事を作成していますので、そちらもぜひお読みください。
産業医に興味のある医学生・医師向けQ and A
医学生向け:産業医のキャリア記事集

産業医って何しているんですか?

この問いに対しては、産業医の実際の活動内容を説明することにしています。また、前掲の「医学生向け:産業医のキャリア記事集では、産業医がなにをしているのかをイメージしてもらうために、産業医の記事を多く紹介しています。産業医活動は、法律に定められた業務がベースにありますので、ある程度は、「産業医がやること」というのは決まっています。これらの情報がおおむね正解といったことになり、以下の記事でだいたい説明としては十分かなと思います。
厚生労働省 中小企業事業者のために産業医ができること(PDF)
産業医とは?仕事内容・役割・臨床医との違いを10項目で解説

と、記事を紹介しておきながらなんですが、これらの記事を熟読したとしても、医学生さんが解像度高く産業医活動をイメージすることは非常に難しいとも思っています。臨床実習のようには1-2週間ほど病棟で一緒になにかをするといったことができませんし、企業での産業医活動をイメージする土台となる経験もないでしょうから仕方ありませんよね。さらに言えば、産業医科大学の医学生は5年次に1週間の産業医学現場実習があるのですが、その経験があってもなお産業医活動をイメージするのは困難だと思います。もちろん、その経験も多少は参考にはなると思いますし、その実習で産業医活動がイメージができるようになったという方も多いのですが、それでもやはりなお産業医活動の解像度は低いと思いますし、キャリアを決定するほどのイメージはつかめないように思っています。つまり、産業医のキャリアを深く知ろうと思い調べることはとても重要なことではあるのですが、結局のところ、学生の段階で「産業医活動をイメージしきれない」という限界を知っていただきたいなと思っています。産業医を目指す方にとっては非常に不安だと思いますが、最低ラインとして、こういう活動をするんだ、くらいの解像度をもっておけばいいのかなと思っています。


とはいえ、キャリア選択のために、産業医とはなにをする職業なのか、どういう生態系なのかをつかみたいと思うのは至極当然でしょう。そこで、いくつか、産業医というキャリアを選択する際のヒントをご紹介したいと思います。

産業医の解像度を少しでも高めるために

「産業医」ってなにもの?なにができるの?ということの解像度を高めるための一つのヒントとして「健康経営」があります。健康経営とは、安全衛生活動を経営マターとして捉えることで(経営者が主語)、産業保健職が主語の産業保健活動・産業衛生活動と内容に大きな違いはありません(実際には違うのですが概ね同じと捉えていただいていいと思います)。そこで、健康経営に積極的に取り組んでいる企業の活動内容を覗き見ることで、産業医活動がより具体的にイメージすることができると思います。例えば、2022年の健康経営銘柄に選ばれた企業の報告書を読んでみてはいかがでしょうか。「健康経営 健康白書」とググればいくつか興味深い報告書が読めます。健康経営において、産業医が果たせる役割は部分的ではありますが、どのように健康経営に位置付けられ、社会・株主にアピールされているか知ることで、産業医のことがより分かるようになると思います。

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220309001/20220309001.html

いくつかおすすめ


私は産業医に向いていますか?

産業医の仕事をより楽しめる、産業医に向いている人の8つの特徴」も参考にしていただきたいです。現時点ではこれがちょうどよく、あとはエイやっと飛び込む勇気が必要かなと思っています。分からなければ産業衛生学会に来てみて、どういう人が産業医やっているか見てみるのがいいと思います(けっこう本気で思っています)。次回2024年は広島開催です!

臨床の専門医をとってから産業医ってどうですか?

この質問はよく受けます。産業医科大学の医学生さんからもよく受けるんですよね。で、私はそのような場合、大谷選手じゃない限り普通は二刀流は難しいと思いますよ、と答えています。
 なぜかというと、臨床の専門医をとることはその領域の専門家としてのアイデンティティが身に付きます。そして、それを捨てて産業保健の専門家として二つのアイデンティティを身に着けることは多くの人にとって非常に困難です。二つの草鞋を履くって本当に難しいと思います。簡単には意識は切り替えられないんですよね。また、臨床の専門医をとるまでには10年弱かかりますので、およそ35歳程度になっていると思います。現実的には、若いときほど吸収しやすく、周囲の方々も親切に教えてくれますが、年を重ねるほど吸収力は落ち、プライドができ、周囲の人も教えてくれなくなります。そのため、40歳以降から、産業医を専門として身に着けていくことはかなり難しいと思っていた方がいいと思います。もちろんできないわけじゃないのですし、賢く器用な方も多いので、不可能な話ではありません。実際にそのようなキャリアで産業医として活躍されている方も多くいます。しかし、そこまでして産業医をやりたいなら、最初から産業医でいいのではないか、というのが率直な気持ちです。臨床の専門医を取っておいた方が食いっぱぐれがないと思う方もいると思いますが、そもそも医師免許を持っているだけで食いっぱぐれがないと思いますので、そこまでやって二刀流を目指そうとするよりも、1つに専門領域を決めて、その道を極める方がよっぽどよいのかなと思います。
 なお、かくいう自分も、産業医をしながら、救急の診療能力を保持したいと思ってはいたのですが、産業医の勉強が忙しすぎて、臨床の勉強ができなくなって諦めたパターンです。産業医として学びたいことが多すぎるので、中途半端な臨床能力で外来・救急やっていたらいつか患者を死なせてしまうなと思ったんですよね。ただでさえ、最近の医療は細分化が進み、学ぶことが多すぎるのに、二つをやっていくのは到底無理なんじゃないかと思いますし、結局中途半端になるか、大成しないかのどちらかじゃないかと思います(どこを目指すのか次第でもあるのですが)。まさにそれができるのは大谷選手くらいだと思いますので、そのくらい努力する覚悟があれば・・・。

産業医をやってみて合わないときはどうしたらいいですか?

この質問もよく受けます。産業医に合う・合わないがありますし、誰にでも勧めるわけではありません。正解がなく、モヤモヤも多く、グレイゾーンや曖昧さを許容することも必要です。外科医のような分かりやすいスキルもなく、患者さんから感謝されるような分かりやすい存在意義を感じられないことも多いです。そのため、産業医をやってみたけれど、残念ながら撤退するという方もいます。しかし、これはどの専門領域でも同じことが言えるのだと思います。どの専門を選んでも、やってみないと分からない部分は必ず残ります。医師としての専門選択というのはそういうものだと思っています。そこで私が思うところは以下の3つです。
①自分が納得するまで悩む
後に合わなくて撤退するとしても、そこに納得感があるように、あの時もっと考えればよかった、情報を集めておけばよかったと後悔がないように、とことん悩むしかないのかなと思います。盲目的に、テキトーに、なにも考えずに選択すれば、合わなかったときの後悔や他責が大きくなるように思います。産業医をするにせよ、しないにせよ、ぜひとことん悩んでみてください。ガチで産業医やりたいと考えているのであれば、相談に乗りますよ。そして、おそらく多くの医師の先輩たちは、真剣にキャリアを考えている医学生さんを無下には扱わないと思いますので、相談してみてはいかがでしょうか。
②医学はなにをやっても面白い
専門領域は数多くあり、外科系、内科系、マイナー系があったり、基礎系、研究系、公衆衛生・社会医学系などありますよね。それぞれ働き方から扱っているものまで様々ですし、人によって合う合わないがあるのも事実でしょう。しかし、医学はなにをやっても深く広く、社会の役に立ち、人生を捧げる甲斐があるものだと思います。やればやるほど終わりがありません。そのため、どのような経緯でなにを選んだにせよ、なにはともあれ、自分の目の前のことに全力でやれば、必ず得るものが必ずあるのかなと思っています。結果的にそれが天職になるのかもしれません。
 産業医を長年されている先生たちに、いつ面白いと思いましたか?と聞くと、面白いと感じるのに10年かかった、と仰る方も多いんですよね。産業医が面白いか合うか合わないかなんて、10年くらいやらないと分からないのかもしれません。愚直にやってみなはれ、ってことですかね。
③合わなければ撤退せよ
10年がんばれば楽しさが分かるよ!って書いた矢先で申し訳ないのですが、合わないと思ったときには撤退することもアリだと思います。特に、体調不良があればさっさと撤退した方がいいと思います。医師の働き方、稼ぎ方なんて多種多様の方法がありますからね。無理なときは無理、でもいいのかなと思ってたりします。これは産業医に限らずですけどね。
④産業医経験は臨床にも役にたつ
これはK先生(@ktobitate)がセミナーでしゃべられていた内容です。産業医をやってみて合わなければ、臨床に戻るという選択もありだと思います。その際に、産業医の経験は臨床現場において有用だと思います。外来だけでは分からない患者の姿を知っているからこそ、できる診療もあるのだと思います。(こちらのnoteも参考にしてください「臨床に活きる産業医研修会の知識 〜資格取得だけではない受講のメリット〜」)

産業医をキャリアとして選ぶ際のヒント

産業医をキャリアの選択肢に考える際のヒントをいくつかお示しします。

医師としてどんなことをやりたいか、成し遂げたいか

K先生のこちらのツイートも参考になります。公衆衛生や日本の課題などに取り組みたいと思ったときに、結果的に「産業医」がその実現に向いているという考え方もいいと思うんですよね。産業医としての経験はその後にも活用できると思いますし、柔軟に考えればいいのではないかと思います。

どういう医師人生を歩みたいか

産業医をやっていてたまに聞くのが、このまま30年間病棟で仕事している自分がイメージできない、といったことです。これを臨床から逃げだと言う方もいるかもしれませんが、個人的には、医師としての人生をどう歩みたいか、どういうイメージがしっくり来るかといったことが大切なのではないかと思っているんですよね。なので、それが患者さんのお宅を訪問して医療を届ける自分なのか、手術室の自分なのか、外来なのか、研究室なのか、教壇なのか、それはその人それぞれなのかなと思います。前半でも述べましたが、産業医がどんな活動しているかは分からないとしても、ざっくりとイメージだけ思い浮かべばいいんじゃないかと思っています。
繰り返しですが、産業医の記事はいろいろと目を通してみてください。
医学生向け:産業医のキャリア記事集

どの年代・層にアプローチしたいか

産業保健は、臨床との対比のほかに、ターゲット別でも対比されることがあります。上のツイートはそれを示しており、臓器別か、年代別かで分けたときに、子供を診る科(=小児科学)や、女性を見る科(=婦人科学)、高齢者を診る科(=老年医学)などと並び、働き世代を診る科(=産業医学)とも表現ができます。どの世代を診たいか、どの世代の健康問題にアプローチしたいか、意義があると思うか、ということでも産業医を考えるヒントになるのではないでしょうか

昔つくった図表も添付します。

医療のどの部分にアプローチしたいか

産業医学は予防医学です。基本的なターゲットは「働けるくらい元気な労働者」であり、まだ「働けなくなるような病気を発症する前の人」です。そのような方々を対象に、職業病の予防、血管疾患の予防や、メンタルヘルス不調の予防、がんの予防を行います。働き世代の疾病全てが産業医の対象です。また、単に病気の発症を予防するだけではなく、0次予防から3次予防までの予防があります。

0次予防:より健康な生活を送れるようにする
1次予防:病気にならないような習慣をする
2次予防:病気の早期発見・早期治療をする
3次予防:病気になっても、またならないようにする、社会復帰する

こういった予防活動に興味があるかどうか、というのも産業医をキャリアとして選ぶ際のヒントになるかもしれません。

産業医の役割の表現形

産業医にはさまざまな役割があり、こういう仕事だと表現するのが難しいんですよね。なのでいくつかの表現形によって、結果的に産業医という役割が浮き彫りになってくるのかなと思います。

産業医になりたければ産業医を訪ねよ

本記事と、以下の2つの記事をがっつりと読んでいただき、さらに産業医のことを知りたいとガチで思った方は私までDMをください。ちゃんと産業医をやりたいと思ってくださる医学生向けであれば、なにかしら協力いたします。
産業医に興味のある医学生・医師向けQ and A
医学生向け:産業医のキャリア記事集

https://twitter.com/fightingSANGYOI



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