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産業医の役割の表現形

産業医とは何者か?何をする人か?そんな簡単な疑問がいまだに絶えません。やればやるほど、結局のところ産業医ってなんなんだろう沼にハマり続けている気がします。ただ、産業保健専門家としてのアイデンティティをどう言語化できるか、ということは、産業医のやりがい感や、存在意義にも通じることがたくさんある気がしますので、産業医の役割表現というのはとても大事だと思うのです。

教科書的に言えば、産業医とは以下のように説明されます。

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東京都医師会のHPでは以下のような説明です。

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また、職務については法律的には以下のような説明がなされるでしょう。

産業医の職務(安衛則第14条第1項)
①健康診断の実施とその結果に基づく措置
②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
④作業環境の維持管理
⑤作業管理
⑥上記以外の労働者の健康管理
⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
⑧衛生教育
⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

これはこれで一つの正解なのでしょうが、実際の現場では、企業が求める産業医の役割も様々で、労働者が持つ産業医のイメージも様々だったりして、産業医の役割の表現形は本当に様々あったりします。しかし、その表現の一つ一つが、産業医とは何者か、ということを教えてくれる気がするのです。そこで、この記事では、様々な産業医の表現する文章を紹介したいと思います。

『産業医は健康の専門家』(←→病気の専門家)

産業医は、臨床医のようには病気の診断や治療を行いません。労働者の健康の維持・増進を支援することが役割です。さらに、最近では健康ではなく、ウェルビーイングや幸福の実現をも考えるようになってきたように思います。また、メンタルヘルス領域では、ワークエンゲージメント・ポジティブメンタルヘルスという概念も広まってきており、病気や症状をなくす(マイナスからゼロ)ではなく、さらに健康へ(ゼロからプラス)にしていくことも産業医の役割となってきていると言えるでしょう。なお、これは、予防の観点からは、0次予防とも言えるでしょう。ワークエンゲージメント、ストレスコーピング、レジリエンスなどの様々な概念がここに含まれると思います。

『産業医は患者を減らす医者』(←→患者を治す医者)

予防医学とは、公衆衛生とは。我々産業保健職は患者を治すことはできませんが、減らすことはできます。予防医学の説明の際によく使われる図ですが、こちらも紹介します。患者を作る様々な要因にアプローチできるって、産業保健楽しすぎますよね。予防はとことん貴いのです。

以下の図は、公衆衛生系の講義ではよく使われる図です。川の上流にアプローチし、患者を減らすことも産業医の役割です。

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なお、こちらは厚生労働省の特定保健指導の資料です。この図でも、下流の不健康なところに流れていくことが表現されています。ただし、生活習慣病は必ずしも本人の問題とは言えません(いわゆる健康の社会的決定要因)。遺伝的要因や本人を取り巻く環境によっても糖尿病や高血圧症は発症します。生活習慣病とう名称は、生活習慣病が本人の堕落した習慣、やる気のなさによるものという誤解を生む恐れがあり、その呼称を変えようという動きもあります(こちらの記事参照)。糖尿病や高血圧症を持つ方に対する保健指導が、犠牲者非難にならないような工夫も必要です。

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『薬を飲まなくてもよい方法を提案する』 (←→薬を処方する医者)

産業医は薬は処方しません。しかし、薬に代わる様々な提案をします。例えば、運動や食事、喫煙、飲酒、睡眠などの生活習慣に関することです。または、職場環境や生活環境に関することです。社会的支援とつなぐ、職場を巻き込む、家族も巻き込むといったことも我々産業保健職の処方的な関与・介入だと思っています。このような関わり合いによって、対象者が薬を飲まなくても済むように、もしくは薬を飲むタイミングを1年でも2年でも遅らせる、ということも産業医の役割なのではないかと思っています。「受診勧奨の落とし穴」でも書いたように、安易な受診勧奨からの服薬勧奨は、十分な病識を持たない状態をつくり、怠薬や自己中断を招きます。
 なお、薬を処方するのではなく、治療を困難としている社会生活上の課題の解決に向けて「社会とのつながりを処方する」という考え方を「社会的処方」と呼びます。この概念は産業保健領域でも参考になるのではないでしょうか。

『交通整理』『利害関係調整』『方向性合わせ』『着地点探し』『カーナビ』

労働現場では皆が同じ方向を向いているとは限りません。経営層、職場、人事、労働者、家族、主治医などの関係者はそれぞれ持っている情報が異なっていたり、やりたいことや目指す先が異なっていることが往々にしてあります。そこで、産業医の役割は、『交通整理』『利害関係調整』『方向性合わせ』『着地点探し』『カーナビ』のようなものになります。個人的には『交通整理』という言葉を好んで使っています。それぞれから必要な情報を引き出し、必要な情報を共有し、議論の道筋を示し、関係者の幸せの総和が最大化するような着地点を探す、ということが産業医にとって極めて重要な能力だと思っています。いわばファシリテーション能力と言えるものだと思います。

『労働者の職業人生の同伴者』

労働者がその企業にいる限り、産業医はその労働者の職業人生にずっと同伴者として寄り添うことになります。病気になったりケガをして一時的に現場を退かざるをえない労働者が、また元気になってバリバリ働いている姿を見ると、とても嬉しいものです。病気になっていないような労働者にも、衛生委員会や衛生講話、その他の企業の取り組みの中で関わる機会は多くあります。病気の有無に関わらず、企業で働く全ての人と、その企業の持続・発展のために一緒に働くということも、産業保健の醍醐味の一つだと思います。

『企業の「健康に関するリスク」管理のアドバイザー』

産業医が扱うのは、企業における健康のリスク全てだと言えます。働く人の健康問題は、すべて産業保健のカバー範囲です。がん、メンタルヘルス、生活習慣病、感染症、種々の有害作業による健康障害などなど非常に幅広いです。経営の資源はヒト・モノ・カネ(+情報)と言われますが、ヒトの基盤は健康であり、健康管理を適切に行わないことは企業の基盤に関わりうると言えるでしょう。つまり、労働者の健康問題は、そのまま経営問題になります。我々産業保健職の行っていることは、あくまで一部門の活動、間接部門の一つということではなく、そのまま経営・事業継続に直結するような話であるという理解が重要だと思います。

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『労働現場における医学の実践者』

産業医学は実践医学だと思います。医学を働く現場に落とし込んで、産業保健活動・安全衛生活動を推進していくことが産業医の役割です。言い方を変えれば、現場に落とし込めてなんぼです。どんな高尚な知見も現場で活きなければ意味がないのです。そして、現場に落とし込むためには現場の文脈を知らなければなりませんので、産業保健に必要な知識は、単に医学そのものだけではなく、それを取り巻く要素として、担当する企業のこと、、産業のこと、法令のこと、社会のこと、労働者のことなども知らなければなりません。

『医師免許を持った社員』

産業医もしょせんはいち社員です。産業医は医学に詳しいだけで、求められるのはいち社員として、組織人としての振る舞いです。「お医者様」として振る舞わないように意識する必要があるのだと思います。

『産業医と産業看護職は、現場の事情を理解している医学知識もある専門家である』

【解説】
国立がん研究センターのQ&Aより
産業保健職は「現場の事情を理解している」ことがとても重要だと思うのです。逆に現場のことを知らなければダメだとも思うのです。職場巡視に限らず、現場のことを理解しようとする姿勢が産業保健職には求められると思うのです。

https://ganjoho.jp/public/institution/qa/all/qa02.html#qa115

医学知識の翻訳家

産業医の守田祐作氏より
医学知識は、非・医療職には容易には分からないことが多いですからね。翻訳して説明することが大切なのだと思います。特に、診断書は、医学知識てんこ盛りですので(時に字が汚くて読めないことも・・・)、翻訳して、説明することが求められます。

産業医は労働者を診る専門科

産業医の守田祐作氏より
医師の診療科には臓器別と対象者別の診療科があります。例えば、消化器科は消化器系臓器、呼吸器科は呼吸器系臓器を、眼科は眼を診ます。また、小児科は子供(子供世代)を診ますし、産婦人科は女性を診ます。こうした意味ですと、産業医は労働者(職域世代)を診る専門科になります。その意味で、対象疾患は職域世代がかかるもの全てになってきます。幅広いですねー

おまけ

Chat GPT4.0にも聞いてみました。


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