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オフィス系の職場巡視

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はじめに

本記事は、「職場巡視の落とし穴」のスピンオフ記事です。まずはそちらの記事をご一読ください。

さて、元記事の通り、職場巡視は目的設定が非常に大切です。職場巡視の目的を再掲します。オフィス系を職場巡視する場合は、どのような目的を設定(意識)していますか?というのがこの記事のポイントです。

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工場現場においては、労働者の生死に関わる危険な作業や、発がん性のある有害物質を取扱う作業があるため、安全衛生委員会や担当者の安全衛生意識も高いでしょう。そのため、安全衛生活動の一つである職場巡視も本気度が高い場合も多く、より安全な職場を形成するためにも、積極的に改善点を見つけだすことが求められます。ときには事業所のトップパトロールがあったり、労災発生時の臨時のパトロールを行うこともあり、産業保健職の助言が求められることも多いと言えるでしょう。

一方で、オフィスの職場巡視は、明らかな健康を害するようなものはなく、関係者の安全衛生意識が低い方も多いでしょう。特に事業所のトップや担当者の意識が低く、職場巡視に意義を見出していない、ということも往々にしてあります(衛生委員会もまた形骸化していることもあります)。その場合には、職場巡視は「法令で決まっているから」という理由で実施されていることもあるでしょう。

そこで本記事では、そのように「法令遵守のためだけに職場巡視」を行なっているオフィス系を担当している産業保健職向けに、オフィス系の職場巡視について考察していきたいと思います。

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「あら探し」ではなく、「いいとこ探し」

職場巡視は、職場の安全衛生上の問題を指摘をすることが最大の目的ではありません。特に、オフィス系ではなく大きな問題、明らかな危険が状態がないことが多いため、細かい問題を探して注意することを目的にはしない方がよいと思います。むしろオフィスのいいところを探していく姿勢が特に重要だと思います。

褒めるポイントの例)
・デスクの下に物が置いてなくて良いオフィスですね!
・(ノー残業デーのポスターを見て)この取り組みは良いですね!
・(トイレのペーパータオルを見て)感染症対策上有効です!
・従業員の皆さんが挨拶をきっちりされていて
 風通しの良い職場だと感じました
・クールビズを取り入れているんですね
・避難経路が貼ってあって、緊急時にも安心な職場ですね

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「安全衛生」ではなく、「快適」

産業医の大室正志先生の言葉を借りれば(以下voicyリンク参照)まずは安全があり、次に衛生があり、その次に快適がある、と述べています。そして、オフィス系には安全や衛生に関わる大きな問題は往々にしてほとんどなく、議論になるのは「快適」の問題です。そして、「快適」かどうかというのはかなり個人差が大きくなりがちです。例えば、温度・湿度や5S*(@傘立て、冷蔵庫、倉庫、トイレ、洗面所、給湯室)の問題です。この手の問題については、こうあるべきという正解レベルが個々人によって異なります。そのため、ある人にとっては許せるが、ある人にとっては許せないという事態になりがちです(例:ある人は寒いが、ある人は暑い)。この際に、産業保健職として許せるかどうかではないことにも注意が必要です。職場巡視中に、産業保健職がいくら気になったとしても、職場のメンバーが許せるのであれば、それはそれで良いとも言えるのです。もちろん、生死に関わるような安全衛生の問題は、産業保健職の専門的な視点での助言が大切になりますし、放置してはいけないこともあるでしょう。ただ、快適の問題については、職場のメンバー間での合意形成を探るという姿勢が大切になります。
*5S:「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字のSをとったもの。3S(整理、整頓、清掃)や、4S(整理、整頓、清掃、清潔)や、「洗浄」「殺菌」を加えた「食品衛生7S」というパターンもある。

 私はオフィス系の職場巡視では「私はやや乱れているよう(少し作業しにくいように)に感じましたが、皆さんはどうでしょう?」という投げかけをして事業所における着地点的快適レベルを探っています。間違っても「これはダメです!」という言い方はしないようにしています。

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「助言・指摘」ではなく、「対話」であり「情報収集」

職場巡視で、上からの一方的であったり、頭ごなしの指導(指摘・助言)では、現場や衛生管理者(職場巡視同行者)との信頼関係の構築が阻害されます。これは、その他の産業保健活動にも悪影響を及ぼしうる悪手だと個人的には思っています。職場巡視はあくまで現場の方々との対話の機会であり、情報収集の場と捉えています。これはオフィス系の職場巡視でも同じです。職場のちょっとした変化を捉えて、コミュニケーションを図ることで、他の産業保健活動(衛生講話や保健指導など)に活かすこと大切だと思っています。職場巡視をすることで、「実はランチは〜」とか、「あの職場って実際どうなんですか〜」という話ができるので、従業員さんとのコミュニケーションは楽しくなったりしますよ。
情報収集ポイントの例)
・職場の掲示物(ノー残業デー、社内イベント、清掃記録)
・消毒薬やトイレ備品などの衛生備品の使用状況
・部署の再編、配置、席替え
・外勤がある営業部門などの日中の在席状況
・喫煙状況
・ランチの状況
・休憩の状況
・社内イベントの実施状況

たまには、定時ギリギリや、昼食時間、休憩時間の職場巡視を行うことも普段と見れない現場の光景を見ることができるのでオススメです(法的な職場巡視としてではなく、非公式にでも)。職場の文化、慣習を確認するということも大切ですよね。

「現場を知る」ことの意義

産業保健職は労働者の働く現場を知ってナンボです。現場を知っているからこそ判断できること、言えることがあるのです。それはオフィス系事業所においても同じです。平時の従業員がどのようにして働いているか(どう休んでいるのか)、オフィス環境はどのような状況か、オフィスのレイアウト(島型、フリーアドレス型、ブース型など)はどのような状況か、障害者への配慮はどのような状況か、といったことです。ときに、パワハラが疑われる上司はどこにいるのか、復職した従業員は元気そうに働いているのか、といった個別の事例を確認することも可能でしょう。こうしたことも意識して現場に行かなければ、素通りしてしまいます。職場巡視を最大限活用するためには、「現場を知る」ということの意義をおさえておく必要があると思います。

フリーアドレスとは:参考としてオフィス家具4大メーカー「イトーキ」「内田洋行UCHIDA」「株式会社オカムラ」、「KOKUYO

こちらもぜひお読みください。現場のナラティブな部分を知っているからこそ、健診データを解釈できるのだと思います。

こちらもぜひお読みください。現場を知っているからこそ業務起因性を判断できるのだと思います。

「現場にいる」ことを知ってもらう意義

産業保健職は、存在を知られていないことや、外部の人間と思われていることもしばしばあります。特にオフィス系の事業所は、安全衛生上の問題が顕在化しにくいため、産業保健職は存在感が薄くなりがちです。しかし、それでは相談されたり、必要な情報が産業医まであがってきません。そのため、産業保健職が現場にいる、ということを従業員の方々に知ってもらうということもとても大切なことです。職場巡視を活用することで、産業医がいることを知ってもらい、平時から従業員とコミュニケーションを図る機会にもできるでしょう。

こちらもどうぞ。産業医として政治力を持つためには、現場にいることを知ってもらうことが重要なのではないかと思います。


テーマを決める

オフィス系の職場巡視を漫然と行うのではなく、職場巡視のテーマ(重点項目)を決めて実施するのもオススメです。

テーマの例(こじつけもありますw)
  1月:コンセント・トラッキングチェック(乾燥する時期に合わせて)
  2月:湿度チェック(乾燥する時期に合わせて)
  3月:地震対策(3/11の日に合わせて)
  4月:照度チェック(日中が暗い時期に合わせて)
  5月:喫煙室チェック(5/31世界禁煙デーに合わせて)
  6月:傘立て整理整頓(梅雨に合わせて)
  7月:情報機器作業チェック
  8月:冷蔵庫チェック(食中毒予防に合わせて・8月食品衛生月間)
  9月: AEDの確認(9/9 救急の日に合わせて)
10月:消火器・避難経路のチェック
11月:トイレのチェック(11/19世界トイレの日に合わせて)
12月:消毒備品チェック(インフルエンザ流行期に合わせて)
参照:「【随時更新note15】安全衛生に関わるイベント記念日まとめ
   厚生労働省 2020年度 年間行事予定(週間・月間)

防災の観点を忘れずに

前述の大室正志先生のvoicyでも、まずは安全があり、次に衛生があり、その中に防災の観点があると言及されていました。オフィスにおいて、喫緊の問題にはなりませんが、防災の問題は非常に重要です。災害対策は、えてして軽視・後回しされがちで、対策が実施されにくいのですが、ときに生命に関わる問題になりえるため、産業保健職としても注意喚起する必要があると思います。個人的には、産業保健職だからこそ言えることもあるとも思っています。災害の中でも、地震対策がメインになると思いますが、それ以外にもハザードマップにより、津波災害、土砂災害、浸水災害などが事業所に該当するかどうかの確認もしておくことをオススメいたします。とは言え、災害も非常に頻度の小さい事象ですので、防災の助言はなかなか聞いてはくれません。そこで、防災の日(9/1)、防災週間(8/30-9/5)や、津波防災の日(11/5)、東日本大震災(3/11)、阪神淡路大震災(1/17)といった啓発の機会を活用して注意喚起してみてはいかがでしょうか(参照:「災害対策の落とし穴」)

職場巡視チェックリスト

職場巡視はチェックリストを用いると、指摘ポイントのズレを減らすことができますし、指摘された側の納得感もあります。

google検索でヒットするチェックリストの例
茨城産業保健総合支援センターの職場巡視チェックリスト集
地方公務員災害補償基金

さいごに

「オフィス系を職場巡視する場合は、どのような目的を設定(意識)していますか?」というのがこの記事のポイントでしたが、いかがだったでしょうか? 自分であれば、特に意識する目的は次のようなものであり、それはつまるところ、「現場を知っていること」が産業医にとって重要である、という認識です。
・職場全体の把握
・事業所理解(風土、雰囲気)
・平時の働く姿の確認
・衛生管理者とのコミュニケーション
産業医の職場巡視が2ヶ月に1度になろうと、それは変わらないことだと思っていますし、コロナ禍で現場を巡視しにくい(巡視できない)状況においてもその認識が大切だと思っています。

本記事が、オフィス系で職場巡視を行う際に、なんのためにやっているんだろうと悩んでいる方の一助になれば幸いです。

おまけ


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