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カナダ編 23時の夕陽を眼に焼きつけて

8月3日。テティス島を離れ、ホワイトホースへ向かう。フランス人のピエールがバンクーバー島のフェリー乗り場まで送ってくれることに。「キャンピングカー改装の部品の買い出しに行こうと思ってたからちょうどよかった」と。ありがたや。

二軒目の WWOOF先は、せっかくカナダに行くならオーロラが見れたらいいな…という淡い期待を抱いてホワイトホースを選んだ。カナダ全体で見ればバンクーバーからも近そうだったので選んだのだけど、距離にして2400キロ。

滞在したのは、Circle D Ranchという広大な敷地を持つファーム。ホストは先代が開拓した土地を引き継いだという老夫婦。広大な敷地内に娘・息子家族もそれぞれ家を建てて暮らしている。5月から住み込みで働いているというフランス人男性とカナダ人女性の若いカップルがいて、彼らが私たちに基本的な暮らしのルールを教えてくれた。さらにWwooferとして老齢の女性も途中から合流した。

ここではハスカップが収穫期を迎えたタイミングだったため、大量の低木からひたすら収穫する日々を過ごした。

終わりが見えないほど延々と続くレーン。つまみ食いしながらひたすら収穫
ハスカップはやわらかいので手で摘んでいく。全員こうなる


GO WILDな生活

一軒目よりも生活環境はなかなか厳しかった。まず、電波が入らない。バンクーバーで買ったSIMが使えない。wifiが届くエリアは敷地内のごく一部。
生活用水はすぐ近くの川から直接汲み上げる。キッチン、シャワー、洗濯はこの水(飲み水は加工場にある消毒済みのものを使う)。男性陣が3日に一回は汲み上げに行ってくれた。トイレは超簡素なボットン式。

オーガニックファームだからこだわりが強いのかしらと思ったり、単にあまり環境整備に手が回っていないようだったり。まぁでも、これでずっと暮らすとしたら辛いけど、それなりに慣れた。

川から直接タンクに水を汲み上げる
ヨーグルトの空き箱がランチボックスとして活躍した
普段の食事はキャンピングカーで。内装と車窓が豪華深夜特急感を醸し出す。乗ったことないけど


バスタブはないが、サウナはある

朝夕の気温は低く、10度を切る日もある。8月ですよ。普通に寒い。秋冬用の装備として持ってきていたダウンや厚い靴下が早速活躍することとなった。冬はマイナス30度の世界なんだとか。北の方なので日が長い。23時頃にようやく陽が落ちて暗くなる。

前回のWWOOF先と違って今回は、ホストとは別の居住空間で暮らす。シャワーやキッチンは他のスタッフと共有で、我々専用のコテージが用意された。このコテージがなんともユニークで、電源もなければ、電灯もない。しかしなぜか立派なサウナがある。「暖房として使うといいよ」と言われた。・・・暖房としてサウナですと?
最初は使う場面があるんだろうかと訝しんでいたが、共有部のシャワーは温度が不安定で当然バスタブもないので、シャワーを浴びても身体が温まらない。結果的にサウナに超絶救われた。これがまた快適で(サウナ内も電気がないので真っ暗)、手足が凍えるほど寒い日やカヌーで疲れた日などに楽しんだ。8月です。

我々のコテージ外観。入口はこの裏。寝室とサウナというシンプルな作り


キャンピングカーでバースデーディナー

食事もホストとは別で、各自自炊。基本的な食材&調味料はあらかじめ用意してくれていて、さすが牛農家、自社製造のソーセージ・ハンバーガー・シチュー用肉は冷凍庫にたんまり入っていた。敷地内にある畑の野菜はテイクフリー。新鮮なケールやビーツ、ズッキーニをたんまり使えることの有難さに、この後スーパーやマーケットで野菜の値段を見て気づくことになる。

忙しすぎて手が回らないらしく、雑草がすごい
手前はだいぶ草抜きがんばった。野菜が姿を現した

キャンピングカーの狭いキッチン、切れ味の悪すぎる包丁、限られた調味料にはストレスを感じた。素材は新鮮でも、それを十分に活かせない。塩・胡椒・バター・オリーブオイル・醤油を使い回して野菜を炒め、適当にサラダをつくるくらいしかできなかった。正直なところ、調理を楽しめない日々が続いた。

このファーム滞在中に誕生日を迎えることになったけど、ケーキやプレゼントを買うような場所も時間もなく、全く期待してなかった。なのでヒロさんがバースデーディナーをつくってくれたのには驚いた。食材も調味料もすべてここにあるもので。野菜のグリルを重ねた一品目はどこかのしゃれたレストランのよう。メインはサーロインのステーキのにんにくバターソースがけ。これがびっくりするくらい美味しくて、ショックだった。これまで環境を言い訳にして適当につくっていた自分に気づく。心を込めてつくればこんなに美味しいものができるんだ。

普段は食べないステーキ。ワイングラスがないのでジャムの空き瓶で代用


写真にうつしとれない美しさ

タキーニ川に映る23時の夕焼け。ずーっと奥まで広がる空と雲。ドシーンと連なって座る山々。仲良くなった老女の穏やかな微笑み。
「残しておきたいのにうまく撮れない」。悔しく思う瞬間が何度もあった。やっぱり最新のiPhoneに機種変更すべきだったか…。
そう思っていたけれど、この感覚を説明する解説に、偶然出会えた。宮崎駿監督作品の人気の秘密に迫る!という昔のテレビ番組。ヒロさんがYoutubeで見ているのを覗き見た。
通常、視覚から入力されて脳内変換されて認識する映像(知覚像)と、実際の映像(網膜像)は異なる。知覚像を活かした作画をしているから宮崎駿監督の作品は、視聴者がその場にいるかのような臨場感を感じることができる。概ねそんな話だった。
なるほど、写真よりも今この瞬間、目に映っているものの方が美しいと感じたのは、カメラの性能が悪いということではないのか。自分というレンズを信じていいんだ。だから人は絵を描くんだなと思った。

オーロラだけは肉眼よりもiPhone13の方がキレイだった。色々不思議だ


なんでここにいるんだろう

10時からスタート、ランチ休憩を挟んで16時まで働くのが一日の基本スケジュール。水・木が休み。
牛の飼育をしていると紹介ページに書いてあったので、その世話や加工を体験できたらと期待していたものの、それは叶わなかった。牛は基本放牧で、結局一度も会えなかった。どんだけ広いんだ。屠殺は来月以降。ソーセージづくりの手伝いをする機会があったが、ちょうどその日、左目がパンパンに腫れて危うく病院に行きかけてそれどころじゃなかった。おそらくブラックフライという、蚊よりも小さな虫が眼に入ったかで毒が回ったのだろうとのこと。
そんなわけで、絶賛収穫期のハスカップ収穫にほぼ滞在期間全てを費やすこととなった。ハスカップは美味しいし、晴れた日は気持ちがよい。けれどもさすがに毎日同じ作業を淡々と繰り返していると、気が滅入る日もあった。言語が聞き取れないのもネガティブな気持ちを加速させた。SNSを開けば、私がいなくても社会は回っている。ここに何をしにきたんだっけ。

途中、Kindleでふと読んだ本のおかげで立ち直る。

自分がそこに「いる」だけでは足りなくて、何かになって、何かをしなければプラスが生まれない。それが延々と続く人生は、やはり息苦しさで心が折れてしまいます。(略)
人は遠くに移動したとき、孤独を感じると同時に、ただの「いる」だけの存在になれます。移動した旅先の土地では、普段の自分がまとっている肩書や役割、役職を取っ払って、素の自分のままでいられるからです。

『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました 日本文化から読み解く幸せのカタチ』石川 善樹, 吉田 尚記著

知識や技術として学びたい何かが明確にあるとしたら、少なくとも今の私にとっては、日本で学んだほうがよほど言語的に楽だし効率がいい。
「やりたいこと」や「なりたいもの」なんてものは、身体をぎゅーっと絞ってみたところで出てこない。今はただ、ふらふらと世界を漂って、感受性を取り戻したいんだと思う。そしてそれが一人では足りなくて。自由奔放でなんでも面白がってしまうパートナーと一緒にいると、何かに出会える&感じられる確率がグンと上がるんだろうと思う。
別に一生分のハスカップを食べるためにここに来たわけじゃないけど、美味しかったから良し。念願のオーロラも見れたし。

のんびり過ごした18日間だった。が、出発日をなぜか一日勘違いしていて(しかも前日にホストが気づいてくれた)、最後の最後でドタバタに。朝6:30発の早朝便しか取れなかったため、自家用車で来ていた同じくWwooferのパットに頼み込んで朝4:30から送ってもらった。彼女にはたくさんサポートしてもらった。ありがたい。パットも私たちとの時間を楽しんでくれてたらいいな。
別れ際に、ギフトとして手のひらサイズのモルモン教の聖書をくれた。キリスト教とは聞いていたけれども、これまたレアな。世界は広い。

入場料なしで収穫した半分は持ち帰りOKってのは面白いシステムだと思う
ダウンタウンで毎週開かれるマーケット。Circle D Ranchも出店。家族連れも多くて賑わっていた
ユーコン川散策。ガイドが周辺地域の歴史や植栽の説明をしながら歩いてくれる。市のサービスで無料
Airbnb用の宿を新たに息子さん(大工)が建設中だそうで見せてもらった
週に1、2回はみんなで食卓を囲む。ホストのバーバラが誕生日でみんなで一品ずつつくった
最初は「ヤク」って言ってるのかと思ったけど正しくは「エルク」。シカの一種らしい
ハスカップ農園の横にはのんびり過ごす馬たちがいる
「フォーミュラ」と呼ばれるバギーで出勤

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