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夏の思い出

「去年の夏、どうやって乗りきっただろう…」
毎年そう思うことは覚えているのに、どうやって夏を過ごしたか全く思い出せない。
日々、物忘れに拍車がかかっている。

なんだか大事なことも忘れてしまっているんではないか、と炎天下のアスファルトの上で不安にかられた。

そういうときは音楽を脳内再生すればいいよ、と誰かが言っていた。
先人の知恵はなんとやら。実践あるのみだ。

目をとじると、ケツメイシの『夏の思い出』が頭の中をめぐる。
学校で補習授業をうけながら、山しかみえない窓をにらみつけていた。
海が身近にある環境に憧れた。
男女いりみだれて騒ぎながら海へ行く情景にワクワクした。
自分の体験を重ねたわけではなく、そんな絵に描いたような夏を過ごしている若者がどこかにちゃんといる、という事が私に不思議な安心感を与えてくれた。
おかげで2週間の補習期間は、海辺の思い出でいっぱいになった。

時計の針を進めると、柴咲コウの『かたちあるもの』が聞こえてきた。
ドラマ版せかちゅーの主題歌だった。
夏の日差しの中、2人乗りの自転車が長い坂道をくだっていく。
この頃は死生観を問われるような映画やドラマが多かった。
担任の先生や、友達のお父さん、同級生の死もあいまって、深く深く考えた。
夏の夕暮れ、どこへ行くでもなく、木陰のベンチで空を見ていた。

また少し針を進める。KREVAの『イッサイガッサイ』が流れてきた。
何でもできそうな気持ちにさせる夏のはじまりと、夢がさめてしまうような切ない夏のおわりがつまったこの曲を、彼の車の助手席でエンドレスリピートしていた。
夏の恋の焦がれるような熱さと儚さに、自分も身をまかせたいと思った。

今年はどんな夏になるだろう。
どんな曲が心に残るだろう。

暑いのは苦手だけど、思い出を増やしたい。
10年後ふと思い出して、こんな風に語りたい。

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