アルベルト・アインシュタインの相対論
「ハァ……
ハァ…………」
時を同じくして、アルベルトはどんどん加速していく岩砕に追い詰められていた。
「く……なんて奴だ、
この僕がここまでやられたのは初めてだよ…………」
アルベルトは危機感と同時に高揚までもを覚えはじめていた。
そして光の剣を構え直す。
「だがもう、再び蓄光は完了した!」
アルベルトは急加速し、一瞬の隙をついて岩砕の背後へと廻って光の剣を振るう。
「なッ!!?」
避けるヒマも無かった岩砕はとっさにクサリカタビラを脱ぎ捨ててそれを盾にする。
『光電効果!
<電磁波吸収>!!』
さっき光の斬撃を防いだのと同じようにクサリカタビラでで光の剣を受ける。
光電効果で金属に衝突して電気に変わった電磁波を受け流す。
電磁気現象を肌で理解している能力者でなければとても真似できない芸当だろう。
しかし岩砕が反撃をしようとした時にはもうアルベルトは目の前から消えていた。ブラフだったのだ。
「上を取ったッ!」
アルベルトは鉄塔の頂上付近、
岩砕の頭上へと移動していた。
「光速は絶対だ―
君はもう既に我が”光円錐”<ライト・コーン>の中、
もはやどこへ逃れようとこの因果律に反する事は出来無い。
変わる音速と
変わらない光速、
例えば、時速100キロで走る車に乗って音の進む速度340kmを見たのだとしたら、
340-100=240で観測者にとって音速は240キロに見えるだろう。
しかし、30万キロメートルの光速はどれだけ観測者の車が速度を出そうが変わりはしない!
30万キロメートル-100キロだとしても結果は常に30万キロメートルのままだ!! ビタ一文も変わらない!
たとえ千kmだそうが一万kmだそうが同じことだ。
光は誰から見ようと平等に30万キロメートルのままである。
それが『光速度不変の原理』ッ!!!!
音と違ってこの”光円錐”<ライト・コーン>が歪む事は無いッ!!
約30万キロメートルと
約三百kmだ!!
3桁以上も違う!」
そしてアルベルトが再び光の斬撃を放とうと剣を振り落とそうとしたその時だった。
「なーんてね。」
不意に岩砕が笑った。
「この野郎!?
笑った?!」
馬鹿な⁉︎
クサリカタビラも脱いでしまった岩砕にはもうこの光の斬撃を防ぐ手立ては無いハズ、
全ては僕の計算通りだ。
そんな状況で笑えるハズが無い!
ハッタリに決まっている。
「避けられないんなら………………
……………………………………
避けなきゃいい!!」
ワケのわからないセリフを叫んで、
岩砕は拳を思いっきり振りかぶる。
「修行中は散々、
憶えさせられたっけなァ…………
あの時は一体、
何の役にも立つのか
と思ったが…………………………」
そうして岩砕はオリバーから口伝えで聞いて唯一、
暗記していたその物理定数を大声で叫ぶ。
「『誘電率ε』<イプシロン>!!!!!
8’854187817…×0,0000000000001!!」
そのパラメーターで具現化された超特大の雷は、
アルベルトごと鉄塔を突き抜けて上空へと上がった。
おそらくは空の果てまで届いたであろう。
「ぐおっ! 何だあ!!
地面から上がる……
どす黒い稲妻だとぉ!?
正にこれぞ青天の霹靂…………
レッド・スプライト……………………?!」
またダイナマイトを落とそうとライト兄弟の飛行機は鉄塔付近を飛び回っていたので、
巨大な柱のような雷撃の巻き添えを喰らう形になった。
「逃げ切れないよ! 兄貴‼︎
あ…………ぎゃああああああああああっっっっっーーーーーー」
そして一番近い場所でまともに電撃の直撃を喰らったアルベルトは真っ黒コゲで見るも無惨な姿へと変わり果てていた。
そのまま上空まで吹き飛ばされる。
「鉄塔コイルで
電磁誘導を起こし、
昇雷を――――――
さらには気象現象レベルにも及ぶ程の尋常じゃないキャパ…………
――――――やってくれるじゃないか……。」
落ちてくる間にそういうアルベルトの最後の声を聴いたような気がした。
前回、「量子論の父「マックス・プランク」」。
次回、「叛逆の物理学徒たち」へ続くッ!!