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手紙 〜成長=手放すことなのかもという話〜

温暖化が進んでいる…と言いつつも、風の色は鋭さを増し、容赦無く僕たちの頬や肌を襲ってくる季節。どこかピンと張りつめた空気に感じる、僕にとってそんな季節が冬という季節です。

この時期は受験シーズン。世の小学生も・中学生も・高校生も。そして僕にとってはいろんな思い出と「今」という時が複雑に交錯するシーズンでもあります。

今回はそんな思い出の中でも、神奈川時代に出会った男の子の、手紙の思い出から思うことを綴ります。

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【突然やって来た手紙】

僕が神奈川を離れて東京に赴いてから、もうすぐ1年になるかな…というある日。

1年前に勤務していた現場から突然連絡が来たのです。ソガ先生宛に手紙が来ている、と。その手紙の主は、1年前神奈川で一緒に中学入試をしたちびっ子達の中の一人。自他共に認める超問題児であったヒロくん(仮)であるらしいのです。

あれ?ていうかヒロくんって、そうするともう中学2年生になるの?目の前の1日を長く感じることは多いけど、過ぎ去る1年は恐ろしく早いのねぇ・・・。

なんてことを考えながら、転送してもらった手紙を眺めていました。そんなことする子じゃなかったのにねぇ…。この手紙、おそらく彼の進学した中学校の授業の一環で、学外でお世話になった人に手紙を書こう・・・みたいなヤツだったのですが。それにしても驚きました。

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内容は…感動的とは程遠い、ありふれた近況報告だったのですが(笑)。


【想像する新しい環境】

後でわかったのですが、ヒロくんは長く通ってくれた塾を春で辞めてしまうらしいのです。僕が現場を離れ、ヒロくんとも別れを告げて、ちょうど1年経って。

それがわかった時、僕は色々考えました。
どうしたんだろう…?
今の教室環境が合わなくなったのかな…
学校がやっぱり大変なのかな…

僕は思いました。

でも多分…彼は「次に進む」のだろうなぁ。
成長していく中で
学びを深める中で
新しい環境を探しているのだろう。

だから模索する、その一つの手段として環境を変える。

ヒロくんはちびっ子ながらにそういうことを考えそうなちびっ子でした。


【美し出会いと美しくない成長過程と】

ヒロくんはとても変わった子でした。

初めての出会いは小4。小4からヒロくんとの付き合いが始まりました。(僕は意図的に9歳〜10歳のちびっ子と絡むことが多かったのです)

初めて彼と出会ったのはイベント授業の時。僕はまだ違う現場にいたのですが、たまたまそのゼミで彼と一緒に授業をしたのです。めちゃめちゃ人懐こくって、目をキラキラさせて、授業が終わると僕のところにやって来て深いため息をつきつつ「いやー、面白かった!」とか言ってくれるのです。嬉しい奴!(笑)

少4のちびっ子としてはとても物知りで、言葉への関心も強く将来が楽しみな子でした。一緒に学校選びなんかもしていたのです。10歳の少年にして!

ソガ氏「ヒロくんさ、多分ヒロくんには〇〇っていう学校合うぜ?」

ヒロくん「えー、なんで?偏差値高いんですか?なんでなんで?」

ソガ氏「いや、そうじゃなくて、確かに高いけどそれよりもさ…」

出会いは最高でしたが、その後彼がいる現場へ赴くこととなって気になることが。彼はその教室では厄介な問題児扱いをされていました。実際、授業を受ける態度も相当に変わり果てていたのです。特に小5の頃は酷かった…。

ヒロくんは僕と目があうと、

ヒロくん「あー!ソガ先生だけはヤバい!あれは神だから!」

とか、確実に冗談と笑いを取りにきつつも、ある種の畏怖の念があるのか、僕に対しては不思議と素直でいてくれることが多かったのです。ある日などは自習室で熱心に本を読んでいるなぁ・・・と気になって尋ねてみます。

ソガ氏「何をそんなに熱心に読んでいるの?」

ヒロくん「あー。いや。聖書を読んでるんですよ。面白くて、つい…。」

ソガ氏「ほぅ。すげーね(笑)ま、ほどほどに、勉強もバランスよくね!」

変わったちびっ子だけど、大化けしそうな可能性もいつも思わせてくれる、僕にとってはとても興味深いヒロくんだったのです。

それでも感情の起伏も激しく、僕の見知らぬところで暴力的な言動も出てしまうことも少なくありませんでした。友達と小競り合いを起こすこともあり、状況によってはかなりの剣幕で叱ることもしました。が、それ以上にヒロくんとはいろんな話をした記憶があります。

彼はADHDでした。なんとなく気づいていましたが、お母様とご面談して詳細もわかりました。お母様は勉強させること、他の方々と一緒にいることへの申し訳なさから勉強や受験などやめてしまえば良いと思っていらっしゃったようですが、僕は彼が嫌がらない限りは続けさせてあげてください、とだけいつも言っていました。


【大荒れの受験とその最後】

ヒロくんは結局受験に挑戦をしたのですが、前半戦は大荒れでした。

東京や神奈川の中学入試というのは、その日に受験をすると、当日の夜に結果がわかることが多いのです。その結果によって翌日の予定や計画を変えたりする。その采配や計画が結果に大きな影響を与えます。日々気が抜けません。

僕たちも最善を尽くすべく色々なパターンを想定するわけですが、ヒロくんは兎に角その計画が気に入りません。ご両親も説得するものの、強気の受験をしたくてしょうがないのです。ご両親が心配して、もし全部ダメだったらどうするの?と聞いてもヒロくんは

ヒロくん「俺が失敗するわけない!頑張ったし、俺は神だから!」

みたいなノリを受験日まで貫いたのです。彼が受験生の頃は、僕は彼と直接一緒に学ぶ機会はなかったのですが、傍目に見ていて心配はしていました。不安は的中し、ことごとく不合格をもらってしまいます。

そして彼はそのショックで家で暴れ、お皿を投げまくり、部屋から出てこなくなってしまった…と困り果てた担当が僕のところに相談に来ました。このままでは全て不合格のまま、不貞腐れて部屋に閉じこもって受験を終えてしまいます、どうしましょう…と。僕は彼の家に電話をかけました。そしてお母様に、何分でも待つので本人を電話に出して欲しい、と頼みました。

電話の向こうで20〜30分は押し問答が続いていました。が、結局根負けしたヒロくんは渋々電話に出てくれました。

ヒロくん「・・・はい?ナンですか?」

ソガ氏「お前さ、今からこっち来い。来れんだろ?飯食ってから」

ヒロくん「え?あ、いや、もういいです」

ソガ氏「いいですじゃねーんだよ。来い。来なかった家行く。早く来い。

ヒロくん「は?いやでも・・・」

ソガ氏「来るの?俺がオメーんとこ行けばいいの?どっち?」

ヒロくん「・・・わかりましたよ。行きます。」

30分後くらいに虚ろな目で、赤いジャンパーを着たヒロくんが現れました。僕は彼と二人きりになりたくて、誰も来ないようにお願いをして二人で教室に入りました。そしてずっと二人で「何のための中学入試なのか?」を話し合ったのです。

ヒロくんは「最初は世間体で…」とポツリと話し出しました。やっぱり良いところに受かって友達にすごいと思わせたい。うん、それもわかる。でもそれだけじゃないよね…と振り返りながら、長い時間を彼と過ごしました。


やっぱり自分の学びと成長のために、納得のいく受験をしよう!と再び受験計画を二人で練ることにしたのです。結果的に最後のチャレンジは、小4の終わりに「この学校は合うと思うよ」と話題に出していた学校。

一番最後の日程で、それなりに高倍率の受験挑戦となりましたが、リラックスしていつもの力が出せる彼ならば無謀ではありません。ドンピシャでこの学校の合格だけを射止めて、彼は帰ってきたのです。


【物も心も、捨てるって大切なのかもしれない】

今時の子にしては珍しく(?)宗教や歴史に興味を持っていて
いつも小学生らしからぬ本の虜になっている生徒だったヒロくん。
手紙によると中学でもそっち系の科目は得意らしい。興味がないのはてんで駄目。
それもヒロくんぽい。多分彼は彼なりに興味の方向へ学び、成長していくのです。

主体性を持つことをとても難しい、という人は多いけど
多分それは難しいのではなく、
大人の作った社会が難しそうにしてしまっただけでしょう。
「学ぶ=堅苦しい」イメージなのも大人が作ったもの。
そもそも幼少の頃、ヒロくんの目に映るものは好奇心に溢れていましたから。

カブトムシってどれくらいもの運べるんだろう?
霜柱ってなんでできるの?
なんで猫ってたまに草食べるんだろう?
お金なるものを渡さずにお菓子を持ち出そうとしたら
なぜ大人に怒られたんだろう?

だんだん目的やらプロセスやらを大人や他者からあれこれドンドン与えられ
学ぶことが窮屈になったり受け身になっていったりするのです。

一生学ぶ大切さが叫ばれはじめ
人の寿命も延び続け
学び方も働き方も変わるのならば
子供の頃に置いてきた「好奇心から学ぶこと」
これを復活させてもバチは当たらないのでは?

そしたらアレもコレも…じゃなくて、ちょっとくらい捨てても怒られません。

自分の成長や変化に応じて
学び方も働き方も、学ぶ場所も働く場所も
柔軟に・大胆に変えてみる。明らかにときめかないなら、やっぱり捨てる(笑)
当たり前のような斬新なような
人にとって多分、とても大切なこと。

彼の将来が楽しみです・・・と書きたいところですがそれはやめておきます。

彼の人生がどうであっても、彼がときめき、捨てたりくっつけたりして出来上がった人生であれば良いわけですから。

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