今のわたし

「この研究室で1年間お世話になります。これからよろしくお願いします」
まばらな拍手が正面から聞こえた。


あれから大学に通い、なんだかんだ3年の時が経った。

そう、あの走馬灯のような車窓からそれだけ経ったのだ。
人は時が経てば環境になれるもので、ぼちぼちと大学生活を送ることができている。
一人暮らしにも慣れ、工学の道もそろそろ学士を取れるくらいには進んできたと感じている。

テスト前に同級生と勉強したり、恋人と小旅行をしたりという大学生らしい生活も経験できた。
これからは工学徒として、研究者の端くれとして大学院への進学を目指すことになる。
線形代数が苦手だった1年生の頃の記憶を思い出しながら教科書をパラパラとめくっていると、ふと研究室での先輩とのやり取りを思い出した。

「ネットにブログを垂れ流しているが、案外おもしろいんだこれが」
彼はなかなか自慢げに話しかけてきた。
「ブログですか、サーバーのレンタルは結構お金が掛かると思ってるんですが」
私は大学生活で多少ウェブ回りに明るくなったので、その中の知識をもとに話を繋げた。
すると先輩はなにが面白かったのか、笑いながら話を続けた。
「違う違う、ウェブサービスで無料でできるものがある、それを使うんだ」
彼が言うには、ブログとして日本中の人々が好き勝手言葉を紡いでいて、出力する言葉が論文か進捗報告くらいしかない学生にとってなかなか楽しい経験であるとのことだ。

正直、興味を惹かれてしまった。
修士課程の彼ほどではないが、私も実験の報告書くらいしか日本語をまともに書かず、好き勝手文章を書き記すという経験は未知であった。

研究室での線形代数の勉強でひと段落ついた私は、もはや住み慣れたワンルームへの帰路についた。
頭の中は、昼間の先輩との会話で埋まっており、家に着いた私はパソコンを開いた。
そしてなんとなく思いついた文章を書きなぐり投稿した。
そして続けて自己紹介代わりの言葉をまた書きなぐった。

非常に満足感がある。
なるほど、癖になる感覚だ。
これから文章を書く趣味を持つのも悪くないと感じてしまった。
将来の私が三日坊主にならないことを祈りながら公開設定を編集した。

さあ、私の物語は世界にどう映るのか。



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