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何のために誰のために【サウナのサチコ『裸の粘土サウナー』第21回】

サウナ支配人や熱波師をかたどった粘土造形を手がけるクリエイターにしてサウナー・サウナのサチコのサウナ訪問記。「ととのった」と感じるまで半年かかったという不器用サウナーならではの独自目線で、サウナ施設とそこに働く人々の魅力を切り取ります。

急に思い立ち、四国に行ってきた。
毎週聴いている高知放送のラジオ。その番組でリスナー飲み会をするというから、高知まで行くことにした。体力がないくせに、変なことに馬鹿みたいな力が出る。いつもラジオから流れる声で姿を想像するだけだったパーソナリティやディレクター、私と同じようにメールを番組に送り続けている人たち、彼らを実際に見ることができるのだ。面白そうというそれだけで、私はもう自分を止められなかった。

急に旅に出るのは、そう簡単じゃない。私にも仕事がある。一人にできない母がいる。どちらにもどんな理由を言えば、突然高知まで行くことを承知してもらえるのか。「お気に入りのラジオの飲み会に参加したいんだけど〜」「知らない人たちと高知で飲みたいんだけど〜」だなんて、かなり言いにくい。繁忙期にふざけんな。知らない土地で知らない人と飲むなんて危険極まりない。そう言われるのがオチだ。

じゃあ会社には「母の病院に付き添わなくちゃならなくて」と言おうか。母には「地方で仕事の研修があって」と言おうか。誰かのために仕方なく、何かのためにやむを得ず、というスタンスを取ることで、自分の印象を悪くすることなく穏便に事を進めようという私の悪い癖だ。しかしそれらを説明しようとすればするほど、言葉は本心と乖離しブレていく。相手も納得しているような、していないような妙な顔つきになってくる。

そこで最終的には本当のことを言って休暇をとり、母にも2泊のショートステイを無理やり初体験してもらうことにした。もちろん「高知、いいじゃない!」とは、会社にも母にも言ってもらえなかったが……。

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