いま、改めて。村上隆さんから、業を起こしていく心得を学ぶ。

こんにちは、イトウです。週のはじまりいかがお過ごしですか。

現代芸術家から、一般人が大いに学ぶことのできる、おすすめの本をご紹介します。

村上隆「芸術起業論」2006年 幻冬舎

 言わずと知れた、日本を代表する現代美術作家、村上隆さんの著書です。何がすごいって、まず、表紙のインパクトがすごい。ご本人の顔のドアップ。文庫化しても変えないデザイン。本編でもしきりに、自分を世界に売り込むことの重要性を説かれている、その精神が表紙でも体現されています。

 そしてこの本、2006年、つまり14年前に出版された本なのですが、今まさに読むべき本ではないかと。
 14年前は「やっぱ変わった/すごい人だな」という感想で終わっていた読者もいると思うんですが、今、このニューノーマルな時代に改めて読むと、多くの社会人/学生がインスピレーションを得られるのではないかと思います。

 この本が私たちにインスピレーションを与えてくれるのは、村上さんがおっしゃるように「(特に日本人が)芸術家になることは起業することに等しい」ということに尽きます。タイトルそのままではありますが、アーティストへの尊敬を新たにし、その精神、行動から大いに学ぶ、啓発される本です。

 なぜ日本人芸術家が起業家といえるのか。それは、「アート」がそもそも西洋の概念で、日本人にはその素養がなく、同じフィールドで戦うのがムリゲーだ、というところが出発点です。
 村上さんは日本の芸術界の最高学府、東京藝術大学を博士課程まで修められている超エリート。そんな彼ですが、日本の芸術教育では、「アート」の世界では戦えないという現実に、藝大を卒業してから直面したらしいのです。

 アートと美術の違いを、かなり掻い摘んでご紹介します。
 日本の「美術」教育の軸は、「技術」に寄っていて、美術家のすごさは、「天才性」や「多大な努力」「美しい色彩」などで評価されるそうです。
 一方で、西洋のアートは、哲学から派生した学問として、人間とは何かを問い続け、コンセプトを突き詰めていくもの。絵画や彫刻といった表現物に現れるのは、その一部の側面。
 だからこそ、表現のまえに、その作品がどんなコンセプトを持つのか、ということが重要視されますし、そのコンセプトが、脈々と続いてきたもの=「文脈」の中にどのように位置づけられるのか、ということが説明できないといけません。

 そんな中で、村上さんは、西洋のアートのルールを自ら探し出します。「文脈」を理解し、その中に自分を「位置づけ」、新しい文脈を「つくり」、それを売り込む「交渉」をしていく。
 そういった、アートの「作り方」「伝え方」「売り方」を知り、実践したことで、世界で戦う日本人アーティストTAKASHI MURAKAMIが誕生したと。

 なぜ彼が成功したのか、それは天才でもなく、作品が美的に素晴らしかったからでもない。ルールを理解し、そこで戦ったからだ、ということを知るにつけ、すごいビジネスマンだ、と痛感します。
 誰よりもうまく走れるようになろう、一番早く目的地にたどり着けるレールに乗ろれる新幹線になろう、と努力してきたのに、乗ったと思ったとたんにレールが消えるという、恐ろしい状態だったわけですよね。
 どこかにあるはずのレースを探し出し、でもそこにあったレールはそもそも車幅が違ったということに気づき、そこで、いやいやこういう走り方も面白いんですよーと、自分で売り込む。
 ひとり商社状態。

 一体、この人はこんなことまで考えて、いつ作品をつくっているんだろう?とすら、私は思いました。まさに、偉大な起業家の自伝とかエッセイを読んでいる感覚に近い、畏敬の念が生まれてきます。

そういった、自伝的に読むのに、まずおすすめです。

 そして、本のんの中にちりばめられている、コンセプトや言葉も、とても示唆に富んでいます。

例えば、 「スーパーフラット」というコンセプト。
西洋が生んだ「ポップ」に対抗できる、敗戦国日本ならではの超二次元的な世界観。これは、改めて今、日本発で世界に発信できる価値、の拠り所として、そしてデジタル化していく世界で、ますます強みになっていくコンセプトなんだろうなと感じます。

もうひとつは、「才能よりサブタイトルが価値を生む」という視点。
ただ一人の天才から生まれるアイデアは出尽くした、と言われている。
歴史から学び、組み合わせによって新しい価値が生まれる時代。
自分の興味のある範囲を探し出し、自分の求める目的を設定して、脈々と続く文脈に位置付けられれば、それで新しい価値を生むことができる、ということ。天才になろうとしなくていい。

大学で学んだことは必ずしも社会では通用しないし、社会で学んだことも、もはや刻一刻と変わっていく現代社会やフラット化する世界では通用しなくなっています。

世界のルール、歴史を学び、その中で自分がやりたいことを見つけ、サブタイトルを付けて、価値にしていく。

ニューノーマルの時代に、あらゆる人が直面している壁に、90年代から泥臭く立ち向かっている先輩のアドバイス。いま読んで、ハッとする本です。

ぜひ。ご一読ください。

それでは。

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