現代版地主システム(上)

私の好きな本のひとつが『明日の田園都市』です。以前noteでも紹介しましたが、ジャンルとしては都市計画の本です。

この本で問題としているのは、地方の衰退と都市の一局集中です。これらは120年前からずっと悩ましい問題だっだわけですね。『明日の田園都市』では、この問いに対する答えを明確に提案しています。

著者はズバリ「土地を『所有する』という考え方を変えなさい」と言っています。これが著者の考えの大前提であり、最重要項目であり、「それが出来たら苦労しないよ」ということでもあります。

田舎に広大な敷地があったとして、それをどう活用していくか。例えば学校を建てようとする場合どうするか。一般的にはまず敷地を購入します。国や都道府県がお金を払って土地を「所有」します。その金額たるや数百万から数千万、数億から数十億かかるわけです。そしてその土地代は、最終的には学校を利用する市民から「税」という形で徴収するわけです。

『明日の田園都市』の著者は、その考え方を変えませんかと言っています。

著者の考えはこうです。まず田舎の広大な敷地を「責任ある社会的地位を持ち、高潔さと名誉では非の打ちどころのない紳士(本の引用)」が「所有」する。そしてその敷地に家を建てたい個人や公共施設を建てたい自治体がいた場合、個人や自治体が紳士に支払うお金は、毎年その土地に課せられる固定資産税と公共施設の建設及び維持管理のための資金のみとする。

上記のような仕組みを作るとどうなるか。まず田舎の広大な敷地を所有する、いわゆる「現代版地主」のような存在が現れます。今までと違うのは、年貢を取り立てたり土地代を請求したり家賃を設定したりするような、地主の利益を求めないということです。「責任ある社会的地位を~」というのはそういう意味です。不動産ビジネスをそもそも目的としていないということです。

そして、家を建てたい個人や公共施設を建てたい自治体は、土地代を支払うことなく目的を果たすことが出来るわけです。個人であれば本来土地に支払われるべきお金が浮くわけですし、自治体であれば土地代を補填するための「税」を市民から徴収しなくて済みますので、結局個人が助かるというわけです。自治体職員も市民ですので、この仕組みを利用すると皆が損をしないのです。

地主に支払うお金は、固定資産税と公共施設の建設及び維持管理のための資金のみであることも大きなポイントです。外に出ていく「税」は固定資産税のみです。本来であれば公共施設の建設及び維持管理のための資金も「税」として一旦外に出ていくものですが、この仕組みでは税ではなく「共用積立金」としているのです。

この仕組みが上手く回れば、公共施設の建設や維持管理のために税金をアテにしない「純度の高い自治体」が出来上がり、そこに住む市民は土地代が発生しないため共用積立金を収めることに苦労しない(むしろ通常の税金より多く収めることだって可能)ことになります。これが「田園都市」のシステムです。

さて、この「現代版地主」システムを採用するにあたり、何が課題となるでしょうか。というより、そもそも採用可能なのでしょうか。

次回は現実的な視点も含めて考察していきたいと思います。

ではまた。

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