DX の心技体【8】気力・体力を維持し、流されないこと(絶えずゴールを見据える)
流されないことの意味?
今回着目すべきは、DXロードを進める過程でうまくいかない時や成果が中々出ない時にどうするか、というテーマになります。そこで必要となる意識の持ち方・とるべき姿勢についての話です。
「流されるな!」とは、ある企業への変革コンサルティングを実施していた時にクライアントのリーダ―からよく言われた言葉でした。どういう難局にあっても、簡単にあきらめたりしない、できることをしっかりとやり遂げることが成功に不可欠であることを教えてくれたんだと理解しています。
水は低きに流れ、人は易きに流れる
この言葉の原典は『孟子』の「水の低きに就く如し」であり、水が低いほうに流れるように自然のなりゆきは止めようとしても止められないことの喩えになります。 人は放っておくと無意識のうちに楽な方へ、楽な方へと流されて行くことが自然ということなのです。
そんな中でも、目指す先へたどり着くために時に流れに逆らうことが求められます。どんな状況にあっても流されない強い意志をもつことが必要となります。
流されるとは、例えば、安易に妥協すること、考えや行動に芯がなくブレてしまうことといった意味合いにもなるでしょう。
流れに乗ってうまくやることは勿論素晴らしく、時には流れのままに身を任せてしまうのも良いかもしれません。それが計算できるのあれば素晴らしい結果に繋がることもあるでしょう。しかしながら、それでは思い描いた通りの成果は出ないことが多いのかと思われます。
当初考えていた通りに事が進まない時、状況が変わってしまったりとか、流石にこれは無理だよね、お察ししますとか言って、周りのせいにすることがあるでしょう。そんな風に自分を納得させ心理的障壁を下げて、本来やるべき事を諦めてしまうことがあります。流されてしまった方が楽ですし、それを正当化することは簡単にできてしまうからです。
状況によってはその選択が結果的に正しいこともありますが、安易に目標を変えることや、それを正当化するための言い訳を安易に語るべきではありません。それはしっかり肝に銘じておくべきなのです。
何故に人は流されてしまうのか? それを時代のせいにしたり、世間の風潮であったり、場の空気であったり、誰かのせいにはしないことが大切です。
水五訓の教え
流れると言えば「水」にまつわる教えとして、黒田官兵衛が座右の銘としたとされる『水五訓』があります。2014年放映の大河ドラマ『軍師官兵衛』で岡田准一が演じた役どころでした。今年の大河ドラマ『どうする家康』では、あの織田信長役でも出演しており、迫力満点の殺陣シーンも話題です。黒田官兵衛も後に「如水円清」に名前をあらためたとのこと。
貴船神社の御神水にも書かれています。
自ら活動して他を動かしむるは水なり
常に己の進路を求めて止まざるは水なり
自ら潔うして他の汚れを洗い清濁併せて容るるの量あるは水なり
障害にあい激しくその勢力を百倍し得るは水なり
洋々として大洋を充たし発しては蒸気となり雲となり雨となり雪と変じ霰と化し凝しては玲瓏たる鏡となり而も其性を失はざるは水なり
「水の如く生きていく」こと。それは柔軟に世の中をうまく包み込み、ビジネスで言えばエコシステムに繋がるような特性も持ち合わせていることでしょう。 ただ気ままに生きるのではなく、「環境や変化に柔軟に、時に強く」ありたいと感じた生き様を感じる言葉です。たとえどんな障害にぶち当たっても、あきらめることからはなにも生まれないという力強い意味合いもそこには秘められいます。
流されないために、なすべきこと
2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、北条義時は鎌倉ファーストを貫抜き、どんなにダークサイドに落ちかけようとも、上皇を島流しに処した大罪人と呼ばれようとも、自身の信念を持って鎌倉・新しい武家の世を守ってきたのだと感じました。執権として流されない心があってこその鎌倉幕府の行く末に繋がったのではないでしょうか。
ただそれは、非常に苦しく、悩むことも多かったのでしょう。
ビジネスの世界でDXを進めていく上で、壁にぶつかるときにどうすればそれを乗り越えていけるのでしょうか。どう考えて行けばよいのでしょうか。
「情報通信白書」(総務省)によると、デジタル・トランスフォーメーションを進める上での課題として以下のものが上位にあげられています。これらは多くの企業・組織にとって共通的な課題になるため、そういう問題への対応をどうすべきかは自分事として予め頭に入れておく必要があるでしょう。
(1) ゴールを見失わない
将来ビジョンを言葉にして掲げる
ゴールをイメージする(一枚の絵にする)
最終ゴールだけでなく、Nextターゲットも描く
ゴールに向かう方向性を共有する(ベクトル)
チェックポイントを置く(どの程度進んでいるのかを可視化して対策を練る)
(2) 気力・体力を維持する
知力(技のパワー)✖ 体力(体のパワー)✖ 気力(心のパワー)の掛け算で戦うための戦力を整える
量だけでなく質の観点もあり
「烏合の衆」でなく、「異能の集団」とする
多様性が重要
ロジスティクスも含め、継続的な対応を諮る
(3) 流れを味方にする
情報を公開して関心を集める
環境変化を捉える(ピンチはチャンスの発想)
超楽観的に思考する(リスクマネジメントは悲観的に)
爆速で動けるようにする
「ケセラセラ」の精神
(4) 転ばぬ先の杖を持つ
頼るべき指針を持つ
クレド(Credo)を作って眺める
心技体のセットでチェックリストにまとめておく
問題の発生と対応を予め想定しておく(代替オプション)
「ドラえもん」のような味方・戦力を仲間にする ※「DXの心技体【4】手っ取り早くデジタル武装すること」参照
(5) 戦略より信念、主体性と責任をもつ
大義を掲げる(ミッション、パーパス)
長い目で考察する(直ぐにあきらめない)
主体的に取り組む(決して丸投げはしない)
誰かに相談する、助けを求める(メンター、バディ)
あとは神頼み?!(人事を尽くして天命を待つ)
流されないことのまとめ
現代社会はVUCAの時代の複雑で不確実な世界にあり、状況に応じて臨機応変な対応が求められます。その一方で、変わらないもの、ずっと守るべきものも存在します。環境変化に対応した計画の見直しは時に必要になりますが、設定した目標・ゴールを無闇に変えないこと、事業を行うための理念や根底にある考え方はしっかり持ち続けることが大事です。
世阿弥の言うところの「時々の初心忘るべからず」なのです。デジタル化社会で戦い勝ち抜いていける心技体をこうして活かしていくことになります。
2022年の楽曲『月と星が踊るMidnight』(日向坂46)
の歌詞でも力強く謳われています。
「ホントにやりたいこと それだけをやろう」
「物分かりよくなって 流されたくはない」
「誰に何言われても 僕たちはまだまだ諦めない」
「過ちを恐れるな 思い悩み それでも強く生きろ」
遡れば2016年の『きっかけ』(乃木坂46)にもありました。
「決心のきっかけは理屈ではなくて」
「いつだってこの胸の衝動から始まる」
「流されてしまうこと抵抗しながら」
「生きるとは選択肢 たった一つを選ぶこと」
まさしく流されてしまうことに抵抗しながらも、夢をあきらめずに、強い意志をもってその船を漕いで行かねばなりません。『宙船』で言えば、「その船を漕いでゆけ・おまえの手で漕いでゆけ・・おまえのオールを任せるな」でしょう。
この先は、No.9の「変革・変化に対応するものを巻き込むこと(抵抗勢力に対するチェンジマネジメントも必要)」と変革におけるマネジメントの話へと繋がっていきます。
DXの心技体【9】~はまた以降の投稿で!
【再掲】DX推進の心技体(10選)
まずは自分なりのDXを語ること(自身の言葉で定義してみよう)
未来ビジョンに向けたJourneyとすること(ありたい形、なりたい姿を追求する)
顧客志向で提供価値を表明すること(「ならではの価値」を提供しよう)
手っ取り早くデジタル武装すること(低コスト・短期間で効果を実感できるものがあります)
Small Start で始めて、失敗と成果を積み上げて進めること(勇気を出して1歩踏みだそう)
最新技術・ソリューションをうまく活用し、新しいビジネスを作ること(デジタル技術の活用で経営課題の解決へ)
戦略的に考えてみること(シナリオ、プランを練って先を見据えて動こう)
気力・体力を維持し、流されないこと(絶えずゴールを見据える)
変革・変化に対応するものを巻き込むこと(抵抗勢力に対するチェンジマネジメントも必要)
組織力を上げること(横断組織、俊敏性、爆速、Agile)