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「ゴールは麻薬」2006 J1 第34節浦和レッズVSガンバ大阪 RE-REVIEW

*マッチレビューを見に来た方は、目次から次の【当時の状況】までスキップすることをお勧めします。

【はじめに】 I LOVE GAMBA OSAKA

「あなたの好きなものは何ですか?」と聞かれあなたは何と答えるだろう?

私は「サッカー」と答える。

じゃあ「あなたの愛するものは何ですか?」と聞かれたら?

私は「ガンバ大阪」と答える。

好き」と「愛する」は似ているようで違う。

好き」には理由があるが、「愛する」に理由は無い。

とにかく私は、物心ついた時にはガンバを応援していた。

ただ、ガンバが初優勝した2005年、当時の私は5歳
正直、西野監督の下で3点取られても4点取り返すあのガンバのサッカーの記憶はあまり無い。
(全く知らないわけでは無い、大黒将志は私の中で最高のサッカー選手だ)

そこで今回、改めて当時のガンバ大阪と最大のライバル浦和レッズの「ナショナルダービー」をマッチレビューという形で振り返って見ることにしよう。

【当時の状況】

33節終了時での両チームの勝ち点(得失点)は、レッズが69(38)で首位、ガンバは66(33)で2位。最終節はJリーグ史上初優勝決定戦となった。

両者の優勝条件は以下の通り
レッズ:勝利or引き分けor2点差以内の敗戦
ガンバ:3点差以上の勝利

【スタメン】

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両チームとも3バック、トップ下+2トップの3-4-1-2を採用。
レッズは、怪我明けの小野坪井らがベンチに控える。
ガンバは、ウイルス性肝炎から復帰を果たした遠藤が8試合ぶりのメンバー入り。

【ハイライト】

*フルタイムは、DAZNで視聴可能(2020.5.25まで)

【前半】(1)WBから見るゲームプラン

超満員の埼玉スタジアム2002「PRIDE OF URAWA」の大合唱と共に前半キックオフ。
相手に勢いを与えたくないレッズ、1点失うと優勝がかなり遠のくガンバ、両者ともに序盤の失点は避けたい中、立ち上がりは中盤を省略したシンプルな展開となった。

ボール保持時の振る舞いは共通していた両チームだったが、非保持時の守備アクションには違いが見られた。それが特に表れていたのがWBポジショニングだ。具体的な説明の前に、WB特殊性について説明しておく。

下のフォーメーション図を見てもらえば分かるように、WBは縦5つに分けられたレーンの中で1人である。つまり、WB1人でこの縦レーン一本をカバーしなければならない。

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通常SBとWGがこなす役割を一人で行う。口で言うのは簡単だが、実際に行うのはとても難しい。105m(ピッチの縦幅)を駆け抜ける運動量、適切なタイミングで前に出る判断力、攻守両面での1対1の強さなど求められる能力は多岐にわたる。これを踏まえた上で、この試合おけるWBのポジショニングとその影響について述べていく。

まず、特徴的な2つのシーンを図で表したので見て頂きたい。

①8分54秒~

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ガンバは、FWがゾーン3から積極的にプレスを掛け、WBもそれに連動した高い位置でプレー出来ていた。

②13分47秒~

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レッズは、ゾーン2で構える守備で、WBも無理に前に出ず5バックを形成。


このように、WB立ち位置はチーム全体の重心守備アクションに大きく影響を与えているといえる。

守備に正解というものはない。ただ、どんな守備を行うにも重要なのがコンパクトであることだ。その点では、ガンバの方がレッズよりもコンパクトさを保っていた。

実際にガンバがレッズのプレスを回避した13分以降、試合のモメンタムは徐々にガンバに傾いていく。

【前半】(2)必然と突然の一点、ガンバの動揺

レッズの守備時の立ち位置は5-2-1-2中盤の脇にはスペースが生まれていた。ガンバはこのスペースを使ってボールを前進させる。

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22分、橋本からのパスに抜け出した播戸のクロスを、マグノアウベスがバックヒールで角度を変えてゴール、0-1。このシーンの起点もレッズのボランチの脇でボールを受けた橋本からだった。

ガンバとしては、空いているスペースにボールを運び、正確なラストパスを出せるMF、それをものにする決定力を持つFWがいたという点で、必然の得点だったといえるだろう。

しかし27分、自陣深くでのスローインを収めたワシントンからのスルーパスに抜け出したポンテがゴール、1-1。理想的な時間帯に、理想的な形で得点を奪ったガンバの勢いを挫く突然の同点ゴールは、正にFW2枚の個人能力でもぎ取ったゴールだった。

この同点ゴールを境に、ガンバのボール保持に変化が見られた。具体的には、CBから前線へのロングボールの増加が挙げられる。

レッズの守備は変わらず5-2-1-2ゾーン1のスペースには5人を配置している。ガンバは中盤で前を向き、5バックを引っぱり出す事で数的優位を生み出していたが、それを省略してロングボールを選択した事で、対人に強いレッズDF陣の土俵に乗ってしまう結果となった。

また、セカンドボールを拾えても、中盤のプレスバックによって形成された5-3のブロックを崩さなければならず、ガンバの攻撃は徐々に停滞していく。

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42分CKからのガンバのチャンスもGK山岸を中心に防ぎ、このまま前半終了かと思われた44分レッズが貴重な追加点を挙げる。

外に流れながらパスを受けたポンテがドリブルで相手DFを引き付け折り返すと、シジクレイの前を取ったワシントンが合わせてゴール、2-1。ガンバCBが前に出ることで空いたスペースからのゴールは、ガンバのお株を奪う得点だった。

前半終了2-1。

【後半】(1)浦和の守備とショートコーナー

両チームともHTでの交代は無し
前半同様攻めるガンバ、耐えるレッズの展開が続く。

レッズはファーストラインを下げ、突破された場合も山田が中盤まで戻って5-3のブロックを形成することで、前半の間延びした守備を改善。

ガンバもロングボールを多用した失点後のプレーを修正し、中盤のスペースを使いながらボールを前進させるが、コンパクトになった浦和の守備を崩し切ることが出来ない。

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54分ガンバは橋本に代えて遠藤を投入、攻撃の活性化を図る。56分には遠藤とのワンツーからマグノアウベスがクロスを上げるなどチャンスを作った。

しかし、5分後の59分レッズが優勝を決定づける3点目を奪う。
ショートコーナーから三都主のクロスを、ファーで闘莉王が折り返し、フリーになったワシントンが頭で押し込んでゴール、3-1。

このゴールの原因として、直前のプレーでシジクレイが負傷し10人となってしまったことが挙げられるが、私はそれ以前にガンバのショートコーナーへの対応に問題があったと感じた。

ガンバの選手でショートコーナーに対応したのは遠藤のみ、レッズの2枚に数的優位を作られ、高いクロス精度を持つ三都主にフリーでクロスを上げられてしまった。ゴール前のレッズの選手5人に対してガンバの選手は8人いた。マーク,ストーン,こぼれを合わせても余る1枚が、サイドに出ていってクロスを妨害できれば、失点は防げた可能性が高いだろう。

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また、レッズは49分のシーンでもショートコーナーからチャンスを作っていた。そのシーンでもガンバは誰がサイドに出て対応するか決まっておらず、本来はストーンのポジションに入っていたシジクレイが出て対応している。

ここから、ガンバは試合を通してショートコーナーへの対応が共有できていなかった、レッズはガンバの弱点をスカウティングした上でCK時にショートコーナーを使う選択をしたことが考えられる。

【後半】(2)ちぐはぐなガンバ/適材適所なレッズ

60分シジクレイOUT⇄IN前田

ガンバはフォーメーションを、ボール保持時に家長が内側に絞る左偏重+可変式4-1-3-2に変更する。

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中盤の厚みと局地的な数的優位を作る事が狙いだったように感じるが、結果としてこの変更は失敗に終わった。以下、理由を3点説明する。

1,中央密集
左サイドで幅を取っていた前田が、よりゴールに近い場所でプレーしようと内側に絞ったことで、全体が中央に密集してしまう(62分)。

2,加地の孤立➡右サイドの機能不全
家長内側にいることで空いたスペースを埋める為、ガンバの2CB左にスライドする。それによって右SBの加地孤立、64分にはサイドで1対2を作られピンチを招く。
攻撃時にも味方のサポートは少なく、前半ガンバのストロングとなっていた右サイドは、攻守両面で機能不全に陥ってしまう。

3,左サイド偏重の弊害
ガンバは左サイド人を密集させたことで、サイドチェンジなど横幅を使った攻撃が減っていく。そうなるとレッズの選手たちも左サイドに集まることになり、ガンバの使えるスペースはどんどんと狭くなってしまった。
明神が中央のスペースに無理やりつけた事で、ロストした67分はその象徴的なシーンといえる。

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結局ガンバは72分前田を右に移動、フォーメーションも4-1-2-3に再変更することになった。

73分疲れの見えた三都主に代え田中達を投入、警戒の薄れた左サイド(ガンバ右サイド)の活性化を図ると、83分にはポンテOUT⇄IN坪井(田中達がFW坪井が左WBに)で守備固め、さらに生え抜きのレジェンドでもある岡野を投入しサポーターへのサービスも忘れない。

選手の特徴と実際の役割が噛み合わず、ちぐはぐだったガンバとは対照的に、レッズの交代は非常に適材適所だった。

77分播戸に代えて長身の中山を投入するなど、最後まで攻撃の手を緩めなかったガンバだったが、CKから1点を返すのが精一杯。

試合終了3-2、レッズが勝利でJ1初優勝を果たした。

まとめ 

■1点の重み 

この試合におけるターニングポイントはどのシーンだったのだろうか?
私は、27分ポンテの同点ゴールだと考える。

ゲームプラン通りに試合を進めていたガンバは、失点によって自分たちのサッカー自体に迷いが生じてしまった。逆にあの場面でレッズが得点出来なければ、この試合だけでなく、シーズン全体の結果が変わっていた可能性もあるだろう。

1プレーが、時には物事全てを好転させ、時には全体を機能不全にしてしまう、フットボールにおける「ゴール」は一種の麻薬のような存在なのかもしれない。

おわりに  

■ナショナルダービー

Jリーグ発足当時、オリジナル10のお荷物とまで言われたレッズガンバだったがJリーグACLを制し強豪の仲間入りを果たすと、両者の戦いは「ナショナルダービー」と呼ばれ、その後も数々の名勝負(2014優勝争い,2016ルヴァン杯決勝など)を演じてきた。

昨シーズン開幕時、最終節レッズガンバが組まれ胸を躍らせたサポーターは、私以外にも多くいたことだろう。
しかし現実は13位9位、なんとかJ1残留を決めたチーム同士の消化試合、「ナショナルダービー」など口が裂けても言えない状況だった。

ガンバレッズもこの順位にいるべきチームじゃ無い、それは両チームに関わる全ての人達が感じたのでは無いだろうか?

またいつの日か、両チームが優勝争いの中バチバチにぶつかり合う戦いが観れると信じている。(その時はもちろんガンバが勝って優勝を決める)

試合結果
J1リーグ
第34節(2006.12.2)
浦和レッズ3-2ガンバ大阪
埼玉スタジアム2002
【得点者】
浦和:27’ポンテ,44’59’ワシントン
G大阪:22’マグノアウベス,78’山口
主審:上川徹
































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