見出し画像

稀府(まれっぷ)岳

1年に何度も登るド地元の山。あえてなぜわざわざnoteに?と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、今回の山行がいろいろと情報量多いものであり整理のためにも書き綴ってみる。

画像2

東山

まず前提として。伊達市の北東部には、紋別岳と稀府岳の2つの山があり地元の人からは「ひがしやま」とまとめて呼ばれている。この山があるおかげで室蘭、登別方面からの雲がシャットアウトされ「北の湘南」伊達市の住みやすい気候を作っている。伊達市の住みやすさを支える黒子である。

スノーシューイング

ド地元の山でありながら冬場に登るのは今回が初めてだった。本格的な冬山登山をしない(今後は徐々にやりたいと思っている)自分は、トレースが比較的はっきりしていて軽アイゼンでも登りやすい紋別岳の方に行くことが多く登る機会がなかったのだ。しかし、今回は懇意にさせていただいている地元の山の先輩からスノーシューを貸していただけることになり、登る機会を得た。

直近の積雪によりトレースは完全消滅しておりスノーシューで歩くには最適だった。車を降り、さあ登り始めようとすると、いかにも山慣れしたベテラン登山者の方にお会いした。今回の山行が最高だったのはこの方との出会いがあったからだ。

画像2

山の記憶

お聞きしたところこの方(以下J氏)は地元在住であり、稀府岳から天狗岩までの登山道を開削した方であるらしい。素晴らしい偶然…。一人の山行ではこういった偶然の出会いが何より楽しい。

本来であれば圧倒的に若輩者の私が進んでラッセルするべきなのだが…J氏は20代の私と遜色ないくらい体力のある方でどしどし登って行かれるので少しずつ交互に先頭を変わりながらラッセルをすることになった。自分が将来年を取ってもこのくらいのペースで登れるような体力でありたいと思えるくらい、健脚な方だった。

道中、木々や動物の足跡、かつての稀府岳についていろいろと貴重な話を伺った。「山やってます!」とはいいつつ植物関連は全然詳しくない私からすると勉強になることばかりだった。J氏のように、自然に詳しい方はまるでスマートグラスを装着したかのように大量の情報を眼前の自然から得ることができるのだ。私も一登山者としてまだまだ学び続けなくてはいけない。

画像3

登山口から20分ほど沢沿いに進むとトドマツの林が見えてくる。その手前にはかつての住居跡や井戸跡、そして稀府岳名物(?)のカローラバンがある。
J氏はさすが地元の方らしく「ここはもともと○○さんの畑があって…」ということをお話しされていた。周りには畑の跡らしきものもあり私の想像通りではあったのだが、改めて「正解」を聞くことができた。今は険しい山道になっている場所もかつては車が通れるような生活の道だった。残された車や住み跡が静かに語りかける言葉の情報量は、「開墾」「開拓」という言葉でも「勝利」「敗北」という言葉でも言い尽くせないものがあり、現代の私たちに響いてくる。

通称「お尻愛の木」の急登を抜けると稜線に出る。この急登は冬場は夏以上に登りにくく、スノーシュー初心者の私にとってはきつい箇所だった。周りには良さげの尾根が複数あり、今度は冬限定ルートとしてそちらも登ってみたい。

稜線に出るとまたもやJ氏。かつてこの稜線では麓の農家が馬を放牧していたらしい。確かに、森林限界にしては低すぎるし森が意図的に終わっているようにも見ることができる。かつて、ここはまさしく生活の山であったのだろう。「忘れなかったのはあの馬だけだ(vo.大滝秀治,「北の国から」の印象的なシーン)」のような、北海道の「開拓」の歴史が私の地元にも隈なく存在したことを改めて感じた。

稜線を進むと白鳥湾や紋別岳を始め、遠くオロフレ方面や登別の鉱山町方面が見渡せる。J氏は「ここが黄金山で…」と、牛舎川を隔てた隣の無名峰の話を始めた。私も地形図上は胆振の無名峰をいくつか知っていたが、ここで知識と実体がようやく一つになった。雪の状態が良ければスノーシューでアソイワ岳や鉱山方面の山(要は胆振の奥地)にも行くことができるらしい。
私が胆振にいる間に成し遂げたい目標である。スノーシューの良さを知ってしまった以上、来シーズンは自前のスノーシューと共に冬場の活動を充実させたい。

画像4

下山後、J氏とは「また山で」とお礼と共にお別れした。仮に同じ地域に住んでいても、登山者同士であれば街で会う確率よりもどこかの山で会う確率の方が圧倒的に高いものである。

さいごに

緑ヶ丘高校が閉校になり稀府の風景も変わっていくだろう。しかし、稀府岳は今後も変わらぬ存在としてそこに在り続ける。そこには過去の人々の苦闘の記憶が人知れず刻み込まれている。派手な山ではないので、山に詳しくない人からすると普通の丘として通り過ぎてしまう場合がほとんどかもしれないが、伊達市民にとっては普段何気なく目にしている風景である。稀府岳の認知度がもっと高まってほしいと願うばかりだ。

そして私自身、自然から受け取る情報量をもっと増やしていきたい。そして、自分がその情報を伝える側に少しずつなっていかなければ…と思っている。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?