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見たもの、読んだもの

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私の気持ちの忘備録として。
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#恋愛

名前もない夜

名前もない夜

体温計のブザー音が乾燥したワンルームの部屋に響く。

「何度だった?」
「37度3分」

掠れた声で彼は言うと、貸していた体温計を私に手渡し、深く息をついた。

東京に住む恋人が仙台の私の元に会いに来て、2日目の夕方のことだった。
その日のお昼、近所でスープカレーを食べながら「風邪かもしれない」とつぶやいた彼の体調は、家に帰るといよいよ本格的に風邪の様相を見せ始めた。
平熱が35度台の彼にとっては

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