033 【機能するビジョンの作り方】公民権運動や黒船来航の時の「ギャップ意識」を考える
壮大で面白味のあるビジョンが、単なる能書きのまま終わるのをたくさん見てしまうと、もっと根本的な要素を探ってしまう。
今回はビジョンが機能するために、必要不可欠な要素について考えてみた。
キング牧師のビジョンについて
次の言葉は、キング牧師(1929-1968)の「I Have a Dream…」のスピーチ(1963)のハイライト部分である。(やや省略)
このスピーチ、インパクトもさることながら、公民権法の制定(1964)につながったことから、最も優れたビジョンだと評価する人も多い。
ところで、この「I Have a Dream…」は、スピーチ全体から見たら後半部分にあたることはご存じだろうか。
スピーチの前半は、リンカーンの奴隷解放宣言から100年経った今なお黒人は奴隷状態にあること、すなわち未だアメリカは民主主義や自由主義に反していることを訴えている。
つまり、現実とのギャップ、その背景にある矛盾を国民に知らせた上で、「I Have a Dream…」のビジョンを語っている。
ビジョンを語る前に、前提にある「ギャップ意識」を思い起こさせる必要があったということだ。
すでに集団に「ギャップ意識」があったからこそ、キング牧師個人のビジョンは、みんなのビジョンへと昇華できたのだと思う。
「適応」の弊害
人は自らを変えようとするとき、必ず何らかの「ギャップ意識」がある。
「あれができるようになりたい」
「これが分かるようになりたい」
これらはみなギャップ意識である。
ただし、ギャップ意識は必ずしも自覚できているわけじゃない。
普段の我々は、現状についても、理想についても、比較対象が見つかるまでは疑問を持つことはない。
朝起きて、飯食って、会社へ行って…。
生活のほとんどは惰性的で、昨日と同じことの繰り返し、現状と一体化してしまっている。
言い方を変えれば「適応」している。
本来「適応」は環境変化に合わせて、自らも柔軟に変化させる能力である。
地球のあらゆる生命が、この「適応」によって今まで命をつないできたのは間違いないだろう。
けれども「適応」は変化の原動力である反面、現状のまま変化しないという負の側面もある。
リンカーンの奴隷解放宣言から100年経ても黒人差別が続いたのは、この現れなのかも知れない。
日本人は「黒船来航」によって目覚めた。
さて問題は、この適応状態からどうやって脱却するかだ。
歴史を紐解くと、集団が一気にギャップ意識を持つことがある。
たとえば日本には「黒船来航」という分かりやすい事例がある。
それまで何の疑問も持たずに暮らしていた江戸時代の人々。
黒船は、その姿を見せただけで人々にギャップ意識を持たせた。
たぶん日本と言うちっぽけな国を自覚させたのではないかな。
キング牧師の公民権運動の場合も、ブラウン判決、バス乗車拒否事件など、黒人たちが、自らが置かれた状況を自覚するだけの積み重ねがあったと思う。
キング牧師のスピーチは、最後の一押しだったのだろう。
それにしても不思議なのは、いったん人々がギャップ意識を持つと、文化、政治、社会など、様々な分野の矛盾に気づきだす点だ。
それまで何の疑問もなく暮らしていたのが嘘のように変革のエネルギーが湧き上がる。
明治維新しかり、公民権運動しかり。
ビジョンを示すリーダーが現れるのは、その後だ。
どうやって社員たちにギャップ意識を持ってもらうか?
多くの会社は「リーダーが将来像を示す」ことに注力するけれど、それだけじゃ集団は動かない。
繰り返しになるけど、ひとりひとりが事前にギャップ意識を持っている必要がある。
たとえば次のように。
社員各々が、潜在的にこのようなギャップ意識を持っているとき、その気持ちをすばり言い表したビジョンが示されると社員たちは結束し同じ方向を向きだす。
特に「プライド」に関わるギャップ意識は強力に作用する。
公民権運動の時の黒人たち。
黒船来航後の日本人。
みんなそうだったんじゃないかな。
そこまでわかり易くなくても、相応の体験を数多くすれば、誰でもギャップ意識を持つことはできる。
異質な文化を「体験」させたり、チャレンジングな「体験」を繰り返すなどだ。
たとえば海外に留学すれば、誰だって周囲と自分の現状にギャップ意識を持つはずだ。
そして自らを変えようとするだろう。
ビジョン策定のタイミング
さて、ギャップ意識を持つ社員たちは、社長にとって耳障りの良くないことを言うようになる。
ギャップ意識のエネルギーは予想以上だと思った方が良い。
過激な人は、まるで幕末の志士のようかもしれないね。
でも、そんな社員が現れた時こそ、ビジョンを示す時である。
集団のギャップ意識に合致したビジョンが示されたら、きっと変革につながるはずだ。
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