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真冬の体温


その年のクリスマス、私は恋人に腕枕をしたまま眠った。
左腕を横に伸ばし、右手でその髪をすく。
髪に鼻を埋めると、人の匂いがした。
すやすやと上下する体温。
安心の居場所。

いつもどこかが触れていた。
テレビを見ながら肩に寄りかかったり、歯を磨く背中を抱きしめてみたり。
寒い冬は、私たちの味方。


温かさは、気付けば生活になっていた。
朝のコーヒーや、風呂上がりの化粧水と同じ。
あって然るべきもの。あって当然のもの。

だからだと思う。
不意にその温もりが消えたとき、寂しさというよりも、寒さや不安を感じたのは。
生活の中の欠陥ーー
私の暮らしの一部だと思っていたものが、まるでなくし物をしたときみたいにある日突然私の元を去ってしまった……


冬が味方をしていたのは、私にだけだった。
あの人はそんなものなくても、あの優しい温度を惜しみなく分けてくれた。
私は「寒いね」って言い訳ばかりして。
あなたに何度、好きって言ったかな。
あなたが預けてくれる体温に、いつも安心していた。
もっと預けてほしくて、本当はもっと預けたかった。


空気が冷たくなると、胸がキュッとつまる。
シンとしたこの冷たさは、あなたがいなければ本当に冷たいだけ。
あの頃、冬の寒さは温もりの裏返しだったのにね。


温かい冬は、遠い思い出。



『カフェで読む物語』は、毎週土曜日更新です。
よかったら他のお話も読んでみてね!
次週もお楽しみに☕️


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