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物忘れが多いが憎めないうちの釜爺の話

うちのお風呂はまぁまぁ古い。
浴槽は数年前に変えてあり綺麗。 
浴槽の中は私の子どもの頃のとは違い手を置くための段差だってある。
古いのは蛇口だ。
古いと言っても20年前はたぶん最新でおばあちゃんちにあるようなめちゃくちゃ古い蛇口ではなく、お風呂の温度設定は横のメモリをクルクルすると出来る。
湯船に溜める量も蛇口のメモリをクルクルするとその都度だが設定できる。
今時のお風呂は液晶パネルをピッとするとたぶん毎回同じ温度で同じ量が出てきて「お風呂が沸きました」と喋ったりするんだろうけどうちにそんな贅沢なものは無い。

私は物に名前をつけるのが得意という特殊能力を持っており(他にもなんでもない日に特別感の出る名前をつけてパーティーする特殊能力もある。実は沢山の特殊能力の持ち主)
お風呂の蛇口を釜爺(カマジイ)と呼んでいる。
うちのお油屋(蛇口)からお湯を出す担当なので釜爺以外のピッタリな名前はむしろない。
贅沢な名でも無い。むしろ名前がついてる事に感謝して欲しいくらいだ。名前がある事を贅沢という湯婆婆の気持ちがよくわかる。 

私はそんなうちの釜爺が大好きだ。
朝から釜爺を叩き起こして働かせることもある。
でも最近は歳をとってきたのか毎回ではないが物忘れが激しくなってきている。
「お湯180リットルくらい!宜しくね!」とメモリを合わせてしばらくするとお油屋から釜爺の頑張っている音がドドドドドーと聞こえる。
見てみると湯船からお湯が溢れている。

「ちょ!釜爺!お湯が溢れてるじゃないか!
180って言ったのに!お湯の無駄使いは贅沢だよ!ちょ!待てよ!!」と私の中の湯婆婆と木村拓哉(ハウル)が釜爺に声をかけるが耳も遠いのか聞こえない。
(ハウルにとってお風呂は大事な場所なのでここで木村拓哉が出てくるのは正しい)
「釜爺!もうお湯止めてよ!」とメモリをゼロにしてもバシバシ叩いても働くことをやめない釜爺。
映画でも仕事熱心だがあれは役作りではなく
プライベートも真面目だ。

うちの子ども達は湯船に浸かるのが大好きでよく釜爺を働かせる。
冬になると寒いので週3〜4回くらい釜爺を働かせていた。
そのせいなのか本気で疲れさせてしまいメモリを少し回すとめちゃくちゃ働くモードに入ってしまった。
うちのブラック企業で釜爺を働かせすぎて社畜にしてしまった為そうなった。
休み方がわからないあの感じ。

いつも溢れるから少なめにして後からメモリを何回もグルグルしたりバシバシ叩いたりしても溢れるようになってしまった。
少しでも捻るともう終わり。
エンドレスドドドドドー
社畜とはそうやって歯車を狂わせてしまうとても恐ろしいものだ。
私からも湯婆婆からも木村拓哉からも声をかけてもダメなら副社長に頼るしか無い。
私の夫だ。
夫は釜爺の事をよく理解しており扱い方が上手い。いつだって釜爺に寄り添い止める事が出来る。
やっている事は私と同じでメモリを右に回したり左に回したりグルグルしてバシバシ叩く。全く同じ事をしてるのに夫の言う事は聞く。

ある日私は副社長に相談した。
「もううちの釜爺も歳だし、引退を考えてもいいと思う。ここまでよく働いたよ。リストラしよ。グッドラック」
だが副社長の返事はNO!
「一回釜爺と話し合って本心を聞いてみる」と言い分解して本体(本心)を見た。

話し合いは上手くいき釜爺は休み方が前よりもわかるようになり、副社長の言う事は90%
私兼、湯婆婆兼、木村拓哉の言う事は70%聞いてくれるようになり、たまに暴走しても
前より言う事をわりと聞いてくれるようになった。
これからもうちのお湯屋で釜爺をガンガンこき使おうと思う。

#釜爺 #湯婆婆 #ハウル #千と千尋の神隠し
#木村拓哉 #ブラック企業 #社畜 #お風呂 #エッセイ



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