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現場施工よもやまばなし -作業服-

需要があるかは二の次の、現場施工よもやまばなし第2弾。
梅雨入りの候、衣替えということもあり、今回は「現場の作業服」についてのお話です。社寺建築の修復作業、はてさてどんな装備で臨むのでしょう。
それでは早速。

1.どんな服で作業するのか

何を気取ることもなく、ただただ作業着です。
見ていただくのが早いかと思い、今回も説明イラストご用意しました。

施工の服装

春・夏・秋・冬とおして紺の長袖と作業ズボンです。
プラス、これまた紺のヤッケです。
(ヤッケってドイツ語「jacket」が語源でした、知らなかった)

工事現場ですので、職人さんイメージの作務衣とか着ないのですよ。
たまーに神社さんでの作業で神職用の白衣をはおったりしますが、
汚れてはならんとすごく気をつかいます。

春・秋(通年スタイル)

まず春と秋ですが、長袖の上からヤッケ、そしてズボンです。
これが私は通年スタイル。
春秋というか「暑い時と寒い時以外」です。

外はポカポカ陽気だけれど、屋内はひんやりという時期がありますよね。
社寺、とりわけお寺の中はひんやり感が強い。
そして町中ではなく山中の場合はいわずもがなです。
5月に雪解けなど、街中とはやや異なる季節を相手にしています。

体力勝負の掻き落としとか、足場全体の養生とか。
動き続ける作業であればそれ相応の格好をしますが、調査とか保存修理はまぁ動かない
1日おなじ彫刻の前に座ってると体が冷え切ること多々。

よってヤッケは手離しがたいアイテムです。

それから頭は手ぬぐいを巻きます。(男性陣はタオルが多い)
髪の毛に自由気ままに動かれるとこちらは非常に動きづらいのと、
モノに頭が当たった時は布一枚でも緩衝材になります。
モノと自分、お互いのために頭に巻き付ける唯一のお洒落ポイント、それが手ぬぐいです。

ヘルメットはもちろん持参するのですが、入り組んだ部材を調査したり施工する時は必ず当たります。
当たって保存するべき施工対象を粉々に砕いたりへこませたりします。
現場=ヘルメットも時と場合によりますよ。
工程写真の時だけかぶるのが常態化してますけれども、もう少し実態に即した写真撮っても良いのではないかと思いますが、いかに。

続きまして夏。
冷え性インドア作業の私でも、真夏には流石にヤッケを手放します。
ただ、半袖は着ません。

工事現場は基本半袖NG。
特に工務店さんが元請の場合は必ず。
肌をさらすと何かあった時に被害甚大となる可能性が高いのでゼネコンさんが元請の場合はダメ、ゼッタイ。
最近は涼感インナーとかを半袖下に着込む人もいます。

また、肌をかぶれさせないためや部材保護にも長袖が良いのです。
漆かぶれとかだけでなく、現場の埃や木くずでもかぶれる人はかぶれます。
汗べとの腕で部材の木地にペタペタ当たるのも施工性良くありませんから夏でも長袖一択です。

それから汗止めとして首にタオルや手ぬぐいを巻いて。
タオルの端っこは襟元にすべて入れ込む。
あんまりにも死にそうに暑く、なおかつ動かない系の作業ならば首の手ぬぐいに保冷剤を仕込みます。

言い忘れていましたが、クーラーなんてものは存在しません。

現場によりますが設置できて扇風機くらい。
風を嫌う作業の場合はもちろん扇風機もなしです。
なんなら養生で密室を作るとサウナです。

工房でもエアコンは過度な乾燥を招くので作業とは別部屋で稼働させたり。
休憩所にないということはあまりありませんがプレハブですから暑いですし、そもそも休憩所がない時もありますし
エアコンのない休憩所ならスポットクーラー(原始的なタイプ)を置く。
夏場は車中が天国です。

近年は空調服というのが浸透していますね。
冬場、バイク乗ってる人の上着が膨らんじゃう感じの見た目のあの服です。
7年前くらいに現場で石垣屋さんが着用しているのを見て、おぉ!と思いました。

そして冬です。
夏場にエアコンがないのだもの、冬に暖房があるわけがない。
そして火気厳禁ですから、ストーブは却下です。
極寒の山中だろうと却下です。

火気厳禁になった契機はかの有名な「法隆寺金堂の火災」。
昭和24年に国宝の十二面の壁画の大半が焼損した事故で、文化財の防火デーのきっかけになりました。
原因は電気座布団やら蛍光灯やら放火やら、特定できずのようですが、悲しいかな、ストーブなぞ持ち込んだ日には神経を疑われる状況になりました。

このことがなくても恐らく暖房器具の制限は厳しいものになったのでしょうが、作業をする人間にも大変厳しい環境となっております。

そもそも冬季に工期を設けるべきではないという話はまたします。
作業者がぬくぬくしたいから暖める、たしかにそれもありますが施工する材が極寒ではこちらの材料が機能しないので暖めないといかんのです。
どうしてもどうしても施工性が悪くなる場合、重なる交渉の末に暖房機器の使用が認められるのですが、THE火気となると「見張り番」を置いたりなんやかんや必要です。


電気由来の暖房機器は最小限置けるのですが、人数が多くなると今度は現場のブレーカーが落ちます。
屋内や覆い屋根のある現場は薄暗いので大量にライトをつけますが、そこにヒーターなどの暖房具を参加させるとまぁ落ちます。

明るさをとるか、暖かさをとるか

見えないと何にもできないので、大抵はぬくたい環境を諦めます。
そしてライトのほのあたたかさにすがりつきながら作業します。

ずいぶん話がそれました。

そんな冬の作業着は、とりあえず防寒。

上はヒートテックなインナー・タートルネック・薄手のセーター・冬用のヤッケ。
下は裏起毛のタイツ・厚手の靴下・レッグウォーマー・綿の作業ズボン・防寒のズボン。
そこにネックウォーマーと厚手の帽子、もちろんカイロ。


冷えは万病のもと


これを朝に着込むだけで疲れます。
始発電車で現場直行の時は、とりあえず軽めに着ておいてから現場近くで着込みます。カイロは現場ついてから。
電車の中は暖かいので、フル装備でいくと暑いのです。
他の乗客さんの通勤着と見比べると、なんとなし、これから自分はどこに行くのだろう的な切ない気分になれます。

そして休憩中にトイレ行くときも疲れます。
ありあまる広さのトイレはありませんので、狭い個室でモゾモゾ。

更にこの上、雪国では道中に長靴が必要です。
雪の中を屋根のない船で島に渡るときにはカッパを着込みます。
現場についたらまずは雪かきからです。
吹雪の中、顔をカッパにうずめ船に乗っていた時はちょっと笑いました。


2.装備

思わず環境の過酷さ披露大会みたいになってしまい失礼しました。
お次に細かく装備をみていくと。

ヤッケ

ヤッケは会社から上下1セットが支給されていました。
裏地がキルトになっている冬用のヤッケは個人的に買いました。
ヤッケズボンはあまり履いたことありませんが、掻き落としや漆の人はよく上下ヤッケスタイルされてます。
掻き落としも漆も粉塵がでますし、それがあまり体に良くないのでヤッケで毛穴を防御です。

ただ、密閉性が高いため暑い。
完全な防水機能がなく若干通気するものの、ビニールをまとっている状態なのでそれを着て動き回っていたら汗まみれです。

ヤッケはポンチョみたいで可愛らしいと思っているのですが、あまり周囲の方からは賛同を得られなかった思い出。
胸のポケットにはテープやちょっとした道具が入れられて便利です。


てぬぐい

社寺や高速SAや出張先の観光地など、好きな柄があると買います。
1000円くらいですが、毎日使うので何枚あっても良いです。

手ぬぐいの良いところは長さがあって乾きの早いところ。
あと厚みがないのでかさばらない。

ハンカチだと首に巻けないし、タオルはちょっと荷物になるし。
休憩時に顔にかけて軽く昼寝したり、読書の肘おきになったり、車中の日除けになったり。
宿で枕カバーにしたり、洗濯機なくてもぱしゃぱしゃっと洗えてすぐ乾く。
何か包む時や縛る時にも使えて、すこぶる汎用性の高いアイテムです。

今持っているのは20枚程。
祇園祭で献酒の御礼に各鉾や各山から手ぬぐいを頂戴したり、人から頂戴したりありがたいことです。

ハンカチ代わりだけでなくアトリエで筆置きの下に敷いたり、小物の上に埃除けでかけたり。
少し色あせてきたものは自宅の台所の手拭きにしたり。

今も鞄の中に忍ばせるのはハンカチでなく手ぬぐいです。
ピーナッツのライナスがタオルを手放せないがごとく、安心感の塊です。

©Peanuts Worldwide LLC


手袋

よく使うものは「作業手袋・白手袋」といわれるもので、マチのない安価なものを使います。
納品時に手脂がつかないように装着しますが、ただ、なんでも白手袋をはめて納品するわけではありません。

白手袋はモノをすべり落としてしまうことがあります。
フリーサイズなので個々の手にぴったりと合っているわけではないため、モノを運ぶときにやや怖い。

そんな時は素手が一番だったり、滑り止めの付いた軍手だったり、漆のような手脂で曇るタイプのものはビニール手袋にしたりと色々です。
見た目は白手袋が「それっぽい」んですが、モノに合わせて選びます。

作業時もその内容によって選びます。
養生はテープを切り貼りするため素手、埃払いや漆の時はビニール手袋。
ビニール手袋は溶剤との相性もあるので注意です。
水を使ってゴシゴシする時はビニール手袋ではすぐ破れたりするので、その上から作業軍手をつけたりします。

作業軍手

彩色の時は、だいたい筆を持つ方の手に白手袋をつけます。
が、先ほども述べたように白手袋はあまりフィットしない。
そこで親指・人差し指・中指部分を切ります。(最初の説明イラストをご参照ください)
指先を効かせるためと、絵具を中指で溶くのでそこはカバーしません。
モノにあたりそうな部分(小指球というそう)だけカバーします。

ですので会社の白手袋置き場には
「綺麗な納品用」「使い込まれた三本指のない作業用」があります。

作業用の指なしをビニール手袋にしても良いのですが、
白手袋の良いところは描き損じた時にぬぐえるところ。
人間だもの、描き損じます。
そんな時は躊躇なくすぐ拭き取れば、タッチアップが非常に楽。
タオルよりも何よりも、白手袋にくるまっている薬指などが丁度良い。

そうして膠と絵具で手袋が良い感じに年季が入ります。


クツ

原則ヒモぐつNGです。
資材運搬・足場の昇り降り・納品など、どれも転ぶとえらいことになるので、転倒のもとになりそうなヒモはよろしくありません。
あとはあまり派手でないこと。
仕事なのでシックな色でいこうよくらいの感じです。

つま先を保護する「安全靴」というものがあります。
つま先部分に硬い保護材の先芯が入っており、ものを落としたり硬い素材にぶつけたときも大丈夫というクツです。

金属材の先芯もあれば、樹脂でプロテクトしてあるものもあります。
工事の職種によっては必ず金属材の安全靴!ということもありますが
修復や塗装ではそこまで求められてはいません。
女性用の小さなサイズのものも最近では店頭に並んでいます。
23センチくらいからなら置いてある印象。

足場の単管を運ぶことはあまりない私も、一応は自前で購入。
のちのち簡易なものに落ち着き、ある程度の防水性がありヒモぐつでない黒っぽいものぐらいを目安に用意していました。

上履きはここに座りやすさ・脱ぎやすさが加わります。
なんといってもかかとの踏めるものが便利。
保存修理は内装作業も多く、納品や資材搬入・搬出の際には出たり入ったりを繰り返します。
少し行儀悪くはありますが、かかとふめるほうが楽なのですね。
(デリケートな搬入出の場合は横着厳禁ですけれど)

だいたいは「たびぐつ」が主流です。
先に芯の入ったものもあり、意外とバリエーション豊富。
防水性に富んだものやスパイク系など、何かしら作業靴をさがす際にはちらちらネットサーフィンして頂くと、案外どんぴしゃがあるかもです。

たびぐつ 日進ゴム株


難点というほどではありませんが、あえて挙げるならば…
たびぐつ愛用率が高く、出入りの多い現場では自分のものが見分けづらい。
私はショッピングモールの靴屋さんで、好みのデザインかつ、それっぽいのを買ったりしていました。

たびぐつの商品名は面白いものがあります。
「あんたが大将!」、「大とうりょう」、「親方寅さん」など。
あふれる愛とユーモアです。


とまぁ、作業着についてお話ししました。
長袖・長ズボン・ヤッケ・ヘルメットは会社からの支給ですが
そこに個人個人、自分にあった装備をしていく感じです。
とはいえ現場作業なので、そこまでバラけた格好にはなりませんね。

脱ぎやすく着やすく洗いやすく動きやすく汚れが目立たない。
そして安い。

これらに重きをおくので、自然と統一されたコスチュームとなります。

時計やアクセサリーもつけずにカジュアル一直線な作業着を着ていると、なんだかみんな若々しい。
今の職場は事務服が支給されていてありがたいんですが、ヤッケに手ぬぐいで走り回りたいなぁとふと思います(現場は走るのだめ)

長々と書きましたが、最後までお読み頂きありがとうございます。
それではまた次の投稿で。

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