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卵といふもの

皆様こんにちは。
今回、たまご、卵についてつらつらと語っております。
2,000字。
おわかりの通り、他愛のない不要不急の話。
お時間のある時に「ほーん」と読んで頂けましたらば(*’∀')



どんどん前に出てくるオイトイテ怪獣ことブッセ(オオサンショウオです)




先日、小腹がすいたのでゆで卵を食べた。

最近うちは、ゆで卵をまとめて作って冷蔵庫に殻のまま冷やしている。
それを日々のお弁当に入れていくという、わりかし楽なシステムで
冷蔵庫にそのゆで卵ストックがあったのでそれを食べた。

それで、ですよ
ゆで卵を食べながらふと思ったことが
「ゆで卵にあうお酒ってなくない?」

(なくない?とか、こうした物言いは普段しないものだけれどつい)

そうして、
その勢いのままに前置きもなく、いきなり卵について切り出すわけです。


卵とお酒があまり合わない説


例えばおでんのゆで卵。

あれはぷりんぷりんになった白身部分に味がしみ込み
黄身も固ゆでを通り越して何やら違う独特の味わいが醸し出され
ゆで卵界のアウトサイダー的独特な美味しさがあるものですが、
あれとて出汁のうまみゆえに日本酒とマリアージュできるわけであろう。
味付けの煮卵もしかり。

他にスコッチエッグや卵と何がしかの炒め物など
それらも卵単体ではなく味付けやその他の食材によって、お酒とペアリングされる。

しかしながらゆで卵、
塩をかるくつけて食べながら、
どうもこれはお酒のアテにはならないよなぁ…としみじみ感じた。

生野菜でも塩をつければ合うものは合うし、海鮮や肉もそうだけれど…
ちびちびつまむといった感じでもなく、
ほおばってお酒でくぅっといけるかというとそういう雰囲気でもない。


好きな食べ物を聞かれれば「たまご」と答えるほど
そのポテンシャルにひれ伏す私でありますが
ここにきて卵の意外な面に出遭った気分です。


オムレツもオムライスもスクランブルエッグも
たまごかけご飯もお寿司のたまごもタマゴサンドも。

温玉のっけの何がしかも
卵液をくぐるすき焼きも
あれらは一般的に卵がサブな扱いである。
とん平焼きは合うだろうが、あれもシンプルな卵料理ではないし
擬製豆腐は何か惜しい気はする。

なんならだし巻き卵も怪しい。

飲み屋さんのメニューにはあるものの、
お酒の相手にどうかと改めて目力強く問われると
いや、なんかだし巻き卵はアテではないような…と
何やら心もとない気持ちにさせられる。

あの命のかたまりともいえる濃密なうまみや、
変幻自在な食感、繊細な甘み。
そのいずれもが卵を唯一無二の食材にしてるというのに
そのいずれもがお酒にはあまり合わないという…!(あくまで自社比ですが)

いやぁ、びっくり。
今まで気づきもしませんでした。


とはいえ世の中には卵とお酒のとりあわせをこよなく愛する方もおられるであろう。
卵の可能性が狭まるわけではないのである。


卵といふもの


そんな卵大好き人間は
本の中で出会う料理で心惹かれるのも卵料理。

ぐりとぐらのカステラ。
ねずみのつくったあさごはんの厚焼き玉子。
ジブリのラピュタパン。
宮部みゆきさんの「初ものがたり」に出てくる小田巻蒸し。
石井好子さんの「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」の
オムレツやヴェベールの卵。

そして森茉莉さんのエッセイに出てくるシュウ・ア・ラ・クレェム、
オムレット、ウフ・ジュレ、ハムエッグス。

彼女が語る卵への愛は、これ以上ないぐらい、素晴らしく的確で美しい。


大体、卵というものの形がいい。《平和》という感じがする。仏蘭西の誰だか(詩人)が言った言葉が浮かんでくる。《戦争のない、夏の夜の美しさよ》。私にとって、卵というものは私に平和な思いを持ってくる、どこからかの使いである。

あの一方の端が少し尖った、不安定な円い形が好きだ。楽しい形である。(中略)新鮮な卵の、ザラザラした真白な殻の色は、英吉利麺麭ぱんの表面の細かな、艶のある気泡や、透明な褐色の珈琲、白砂糖の結晶の輝き、なぞと同じように、楽しい朝の食卓への誘いを潜めているが、西班牙スペインの街の家のような、フラジィルな(ごく弱い、薄い)岱赭、大理石にあるような、おぼろげな白い星(斑点)のある、薔薇色をおびた岱赭、なぞのチャボ卵の殻の色も、私を惹きつける。

朝の食卓で、今咽喉に流れ入った濃い、黄色の卵の、重みのある美味しさを追憶する時、皿の上の卵の殻が、障子を閉めたほの明るい部屋のように透っているのを見るのは、朝の食卓の幸福である。卵の味には明るさがあり、幸福が含まれている。


以上はすべて森茉莉さんの『貧乏サヴァラン』(筑摩書房)からの引用であるが、
この深い卵愛に私は心を一にする所存!

銀色の鍋でゆでられる際の描写も非常に美しく
「卵は幸福と楽しさの源泉」と言い切る彼女は鮮やかでまぶしい。


ついつい茉莉さんの卵描写が読みたくなって本をひっぱり出し
長めに引用してしまいました。
しかしこれほどまでに卵について語られているものの
シンプルな卵料理でお酒と合うといった内容のものはなかった。

平和のかたまりである卵を味わうのは
アルコールの入っていない心身が一番であるということでしょうか。


けれども卵を使うときは勇気を出して3個までですね。

4個使うともなると、
何かこう、還暦祝いくらいの

人生一周しましたよぐらいの大義名分が必要な小市民です。



おもむろに切り出した卵のお話。
読んでくださってありがとうございました。

まず今日こんにちはこれぎり。



おまけ

先日の吉野の帰りに寄った石上神宮は鶏が境内に放されています


ご立派!

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