見出し画像

絵事常々 -制作のながれ⑨下塗り- 田原白土を塗る

どんどん塗り進めていきます、制作のながれ。
今回はモチーフの下塗りに「田原白土」たわらはくどを使っていきます。
この絵具、4年前頃にたまたま買ってから非常に気に入っております。

それでは早速に。

最終的にはこんな感じの絵になります






◆田原白土との出会い

なんの気なしに買ってみた田原白土。

京都の老舗日本画材小売店「エビスヤ」さんで
ふらふらと絵具を物色していましたら、目にとまったのが出会いでした。

絵具を買う時というのはだいたい3パターンでしょう。

①描く絵が決まっており、そのための絵具を求める
②手持ちのストックがなくなり買い足す
③気の赴くままに買う

その日は「水干絵具買おー」くらいの目的で気ままに買っていました。
ちとご無沙汰気味のエビスヤさんの暖簾をくぐり(暖簾はありませんが)
ふんふふーんと物色。

白系絵具は描く身としてはなかなか面白いもので
「日本画の白」だけで語る人は語ります。
とはいえそんな気負いはなく「白土かー、買っておくかー」くらいの鼻歌感。

お値段も非常にリーズナブル。(1両が100円台)
画材の中では最も安価なクラスに入るこの「田原白土」。

すごいイイです。


田原白土さん
「少し黄みがかった白」なところも味わい深い


もちろん完全なる主観ですし、描く絵によって使い勝手は変わりますが
何と言いますか、唯一無二感。
「この感じ、ちょっと他では代用できんのでは?」って
絵に限らず材料・道具では非常に興奮するところではないでしょうか。



◆田原白土のいいところ

白土全般がそうなのかもしれませんが、
まずその粗さです。
絶妙。

白系は暗い色の紙に塗るとわかりいい
田原白土と和紙、ほとんど同化してますな…


他の白系顔料と粗さが違うのがおわかりでしょうか。
白土は土絵具のカテゴリに入ると思っていますが、
思っていた以上に、粗い。

絵の下地によく使われるイメージでしたが
すり潰してツルツルにしたりもするらしいのですね。
しかしながら私は露知らず、普通に指で溶きましたよ。

そして塗って驚いた。
「これ、岩絵具では?」と!
岩絵具でいきますと9~10番くらいの粗さですな(わかりづらい)

土絵具が貝殻粉の水干絵具よりも粗かったり重かったりで
溶いても沈殿しがちなのはわかっていました。
わかっていましたが、なんだろう、この良い意味で裏切られた感。
岱赭とか茶系の土絵具は重さはあってももうちょっと細かい。


ちなみに田原白土の初見え作品がこちらです。

今年、実は買って頂けた絵でござい
田原白土様々である


この作品の下塗りに使ったのですが、

想定外の粗さで塗りムラが激しくなる
田原白土下塗り後に胡粉をスタンピングする
なんかイイ!胡粉と異なる色味、そして粗いが故に田原白土の隙間に入り込んで一体となる感じ!


思ったよりも粗い絵具だったので、
不用意に2回重ねて塗ったところ、分厚く発色しました。

塗った後「1回でさらっとぼかしながら入れるが綺麗」と悟る。

塗りながら「これ墨の揉み紙となかなか相性イイ」と思ってましたが
胡粉を上から重ねた時に、より一層想いを深くしました。

不思議でもなんでもないことではありますが
粗いから、上から細かい絵具を重ねると隙間に入り込んで一体感が出るのですね。
それがこの田原白土の場合、とても良い塩梅なのです。

別段、岩絵具の8~9番あたりで下塗りしても同じような効果は得られそうなものですが、なんか、たぶん田原白土さんならな具合があります。


試し塗り
上から絵具の入り込む感じが非常に良い(左端真ん中あたり)



気に入ったもんで昨年の作品でも多用。

墨の揉み紙に田原白土で下塗りし、照り部分(明るくする所)には上から胡粉をぼかし入れる


考えてみれば白土はカオリンを多分に含むもの。
カオリンは粗い下地作りで使ったことがありました。
使う前にピンときそうなものですが、良いのです、楽しかったから。


「これは使う。」と思い、昨年エビスヤさんで大量購入。
25.6両なんて、学生の時以来の買い方ですね。


◆絵具の用意


もう今回の絵の岩山と石には「田原白土」と決めていましたので
えいさえいさと練っていきます。

膠水をしっかりと絡めます


少しずつ加えながら練り上げます


ねっとり


塗り良い加減にのばします


絵皿で溶くのはそんなに時間かかりません。
あまり厚ぼったくならないよう、さらさらっと入れていきますが
塗り面積としては結構あります。
まぁまぁ量が必要なのにこの小さな絵皿で溶く理由は

顔料を筆ですくって描くからです。


おわかりでありましょうか
粗い粒子は沈殿するのである


水干絵具の大半は細かく軽い顔料なので、塗り感は水彩絵具に似ています。
筆に含ませてスーっと動かせばある程度均一に顔料は乗っていきます。

けれども重い・粗い顔料の場合は
筆に含ませた瞬間から、筆の中でも顔料が重みで移動します。
塗る際も筆の力加減や速度で顔料の乗り方が変わります。

要は土や砂を塗っているようなものなので。

こうしたことから特に岩絵具は「塗る」ではなく、
「置く」・「かける」と言われます。


粗い顔料で形をシャープに出したいときは
筆にとる顔料と膠水の量がポイントです


また熱くなって話が逸れそうなので戻しますと、
形をとりながら田原白土を塗っていきたいので小さな絵皿に少量溶きます。

あんまり多めにすくってしまうとぼやけた感じになるので
すくいやすいように元々の絵具量を少なめにしておくという。
絵皿を手で持ちながら傾けることもあるため、小さめサイズが安心です。



◆さぁ塗ろう

絵具が用意できましたら、さくさく描いていきますよ。

田原白土で石と岩山の明るいところ(凸部分)をおこしながら
形全体のボリュームを作っていきます。

と、描いている状況を動画で撮ってみたんですがね
うまいこと編集できずお蔵入りしました。
(かっこつけてぼかし筆と彩色筆の2本を片手に持って描いていたのに)

慣れないことはするものではない…やるなら計画的に!と、遠い目になったところで、まぁ今後の自分に期待しましょう。


さて、描き方としてはこんな感じです。
① 絵具(田原白土)を凸部分に置く
② 凹部分に向かってぼかす

結局頼りはイラスト
凸と凹の調子を作りながら、岩山全体の下塗りをしていきます


図起こしの時の説明図
墨で凹部分を隈取りしましたが、今回の田原白土は凸部分の隈取りとも言えます
全体にかけていくのであまり照り隈(明るい部分の隈取り)感はありませんが


まぁひたすら田原白土を置いてはぼかし、置いてはぼかし…
でも楽しいんだな。
こういう下塗りの形を作っていく段階って
ほとんど何にも考えないような気楽さでやっていけるので。

一工程終わった後の、おぉ進んだじゃないか!という達成感もしかり。

田原白土を塗った石
形が出てくると嬉しいですね
田原白土を塗った岩山
ボリュームが出てきました



労力としては図起こしや転写と同じくらいの感じなんですが、
彼の工程は引いて全体を見た時に、まぁわかりづらい。
この時間はどこにいったんだろうくらいのわかりづらさです。

今回の田原白土でようやく岩山が見えてきました。
石はまだ引きで見てもわかりづらいですね。

1色目の下塗りが入った後からの


田原白土が岩山と石に入った様子
岩山そびえましたねー



あと、田原白土の下塗りはその粗さのおかげで画面の良い喰い付きになってくれたり、
墨の揉み紙の凹凸に入り込んで自然なムラを作ってくれます。
ありがたいもんで。


勝手に石っぽくなってくれる





ようやくビフォーアフター的なものが出せるようになってきました。

下塗りの段階は楽しいですよね。
可能性の塊だし、自分の絵が起き上がってくる感じが浮き浮きです。

創作の目的や理由は色々あると思いますが
私は自分の見たい光景を描きたいというのが大きいので
「あぁ、これ!」と思える時はすごく嬉しいです。

もちろん逆方向もあります。
絵がかけ離れていく時はもう、私を置いてどこにいくんだろう、と。


最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
次回からは岩絵具を使い出します。


楽しみのままに書いていることばかりですが、何かしら響きました時や、がんばれよ!の励ましなどなど頂ければと、サポート機能をONにしています。スキ・フォロー・コメントも大歓迎です。いただいたご縁を大切にしながら、よりよい創作・交流に努めます。