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【山歩き】ドライレイヤーと「アミアミ」との違いをメカニズムから理解する【比較】

アウトドア界隈において、従来の吸汗速乾ベースレイヤーの下にあえて服を着るレイヤリングがかなり認知されてきているように思います。その代表格が、ファイントラックのドライレイヤー「ドライレイヤー」はファイントラックの商標ですが、その言葉自体が「ベースレイヤーの下に着る服」として定着しています。

ファイントラックが「撥水」をアピールしているのに対し、よく比較されるのが、ミレーのドライナミックメッシュに代表される、通称「アミアミ」です。こちらは「疎水性インナー」という言葉で紹介されることが多いです。

「撥水」「疎水」というのは繊維のいち性質にすぎません。しかし残念ながら、世の多くの紹介記事はそれ以上の解説をしてくれていないように思います。そこで、各社HPから分かる情報と、実際に両タイプのインナーを買って着た経験から、きちんと両者の違いを整理したいと思います。願わくば、読者のあなたに最適なインナーが見つかりますように。

なお、この記事では「ドライレイヤー」という言葉を、本来の意味である、ファイントラックの撥水性インナーの意味で使います。

コンセプトは同じ「汗冷え防止」

「アミアミ」もドライレイヤーも、メカニズムは異なりますが、そのコンセプトは同じです。つまり、

①ベースレイヤーと肌の間にあって、
②汗をベースレイヤーに受け渡して自身は汗を含まないことで、
③汗冷えを防ぐ

というものです。

メカニズムは全く異なる

コンセプトは同じですが、メカニズムはまったく異なります。パワポでざっと図解してみましたのでご覧ください。

「アミアミ」とドライレイヤーのメカニズムの違い

この図の通り、「アミアミ」は汗がそのアミ(メッシュ)の生地を通るのに対し、ドライレイヤーは汗が生地に開けられた小さな穴を通ります。以下ではそれぞれの特徴を具体的に説明します。

「アミアミ」のメカニズムと、向いていると思う人

素材、ポリプロピレンについて

疎水というのは、雑に言えば親水と撥水の中間、水が好きで引き付けるわけでもないけど、わざわざ遠ざけるほど嫌いなわけでもない、というイメージです。綿に比べれば、そのままの状態のポリエステルやナイロンも、もちろん「アミアミ」使われているポリプロピレンも、みな疎水性繊維です。ベースレイヤーに使われるポリエステルには汗を吸いやすいように親水性加工がしてあることもありますし、逆にドライレイヤーのポリエステルには撥水性加工をしているわけです。

じゃあなぜ「アミアミ」にポリプロピレンがメインで使われるかというと、ひとつには、繊維が水を吸わないからです。疎水や撥水は繊維表面の話ですが、ここでいう「水を吸う」というのは、繊維一本の話です。「公定水分率」で検索するといろんな数字が出てきます。これは、ふつうの空気(20℃65%)の中で繊維がどれぐらい空気中の水分を吸っているかを表しています。例えば綿は8.5、ポリエステルは0.4だそうです。綿に比べればポリエステルもかなり小さいですが、ポリプロピレンは0.0。水を吸わないことで、繊維が吸ってしまった水による冷えを防ぐことができます。

またもうひとつは、熱伝導率が低いからです。ポリエチレンなどよりも熱を伝えにくいため、汗を吸ったベースレイヤーが冷えてしまっても、その冷たさが肌に伝わりにくくなります。

「アミアミ」のメカニズム

ポリプロピレンは水を吸わないのに、さっきの図で生地を汗が通るというのは矛盾しているのでは、と思われた人もいるかもしれません。誤解しないでいただきたいのですが、水を吸わないのはあくまで繊維一本一本の話です。この繊維が集まって束になることで、繊維のすきまを水が通ることができます。これが「汗が生地を通る」ということです。「アミアミ」の生地を通った汗がベースレイヤーに触れると、たいていはベースレイヤーの方が親水性が高く作られているので、汗がベースレイヤーに吸われていきます。これにより次のような状態が生まれます。

①「アミアミ」の生地は、あまり汗を含んでいない(多少は含む)
②わずかに濡れている「アミアミ」も、構造上肌と触れる面積が小さい
③かさ高の「アミアミ」の穴の部分は、断熱効果の高い空気層になる

このコンボで高い汗冷え防止効果を発揮します。

メカニズムから分かる通り、効果を十分に発揮するには、「アミアミ」の生地が肌に触れ、ベースレイヤーが「アミアミ」の生地に触れている必要があります。「アミアミ」がタイトなサイズ感になっているのはこのためです。

「アミアミ」が向いていると思う人

汗が生地を通るということは、汗の成分が生地の中に残りやすいということになります。汗の成分が残っていると、それをもとに菌が繁殖し、臭いの原因になってしまいます。現に、「ドライナミックメッシュ」と検索すると、においに関するブログ記事等が複数見られます。そこで、僕は「アミアミ」は次のような人向けだと思っています。

①汗がにおいにくい人
または
②かさ高のメッシュ生地の内側まで洗いきる自信のある人

ドライレイヤーのメカニズムと、向いていると思う人

ドライレイヤーのメカニズム

ドライレイヤーの特徴は、生地に撥水加工が施されていることです。つまり、生地の部分は水を通しません。そして、生地に開けられた穴を通じて、その上に着ているアンダーウェアが汗を吸い上げます。

「アミアミ」と違ってそもそも生地内を汗が通らないので、生地自体が水を吸って冷えるということがありません。また、そのためにドライレイヤーは汚れが付きにくく、においにくいのもメリットです。

ドライレイヤーが向いていると思う人

先ほども言ったように、ドライレイヤーは汗が穴を通ります。このためには、汗に穴まで移動してもらわないといけません。

試しに手元のドライレイヤーに水をかけて裏からティッシュを当ててみましたが、ドライレイヤーの上で水滴がコロコロ転がるだけで、まったく裏に移動することはありませんでした。

要するに、ドライレイヤーは体に密着している必要があるということです。密着していることで初めて、汗が穴を通じて外に出ていくことができます。「アミアミ」も生地が肌に触れていないと十分な効果を発揮しませんが、ドライレイヤーは「アミアミ」以上に肌への密着が重要だと分かります。

僕の場合、ドライレイヤーを着ると毎回、肌がべとべとする感じがしていました。今思うと、瘦せすぎている体型のせいで最小のSサイズでも肌とドライレイヤーの間に隙間が多すぎたことが原因だと思います。肌に密着していないドライレイヤーは、言ってしまえばただの撥水バリアです。そのため、汗が肌に残り続けてしまっていたのでしょう。

ということで、僕が思う、ドライレイヤーが向いている人は、次のような人です。

①肌着が肌に密着することに抵抗が無い人
かつ
②売られているサイズに合う体型をお持ちの人

マイ・「アミアミ」の紹介

僕のドライレイヤーの着心地は、前の節に書いた通り、あまりよくありませんでした。また、ミレーのドライナミックメッシュも、においが心配なこともあり、実は持っていません。以下では僕が持っている他社の「アミアミ」を紹介します。

Foxfire「PPメッシュ」

果たしてこれは「アミアミ」と呼んでいいのか?という気もしますがそれはさておき。ポリプロピレンを使っていますが、いわゆる「アミアミ」のようにかさ高に編み上げるのではなく、極薄で、サッカー生地のような小さい凹凸を持った生地が、「アミアミ」と同様の機能を実現しています。

「アミアミ」ではメッシュの空隙が空気層になりますが、こちらにはないため、保温効果は低めです。ですが、暑い季節、山頂でもそこまで冷えないと分かっている場面では、この極薄生地の方が向いているかもしれません。

また、薄い分、洗濯で汚れが落ちやすいというメリットもあると思います。僕は、ふつうに洗濯して、着る前に抗菌スプレーをかけています。これで日帰りの山歩きの間はにおいを気にせず使えています。

THE NORTH FACE「ハンドレッドドライタンク」

ノースフェイスの「アミアミ」、ハンドレッドドライシリーズのタンクトップです。この「アミアミ」最大の特長は、ポリジン加工による抗菌です。これにより、「アミアミ」最大の弱点であるにおいがほぼ克服されています。

いちおう、ミレーのドライナミックメッシュも防臭繊維使用と謳われてはいるのですが、あちらは発生したアンモニア臭を抑制する加工になっています。対してポリジン加工はにおいの原因である菌の増殖を抑制しており、より強力な防臭効果が期待できます。

ただ問題もありまして、首回りが非常に小さい! ハンドレッドドライの上にモンベルのジオラインでも着ようものなら、それはもうめちゃくちゃ暖かいのでお勧めなのですが、ジオラインなどのアンダーウェアより首回りが小さいせいで、「アミアミ」が外に見えてしまいます。ただ、首元までチャックを上げておくような中間着を使っている方には、あまり問題ではないかもしれませんね。

また、ハンドレッドドライタンクのレディースはメンズより首回りが大きくなっているので、レディースを買うという手もあります。ただ、ドライレイヤーやドライナミックメッシュのように胸のふくらみを考慮している作りになっていないように見えるのは、女性の方には大丈夫なのでしょうか。やせ型の僕にとっては、首回りが大きく胴回りが小さいレディースが需要にぴったりだったので、ありがたくレディースを利用させていただいておりますが…。

もうひとつの問題は、生地が弱いという点です。ミレーのドライナミックメッシュはナイロンを混ぜて補強されているのですが、ハンドレッドドライはポリプロピレン100%。それだけポリプロピレンの性能が発揮されるとも言えますが、ポリプロピレン生地は薄いスポンジのような感じで、少々頼りない…。まだ数回しか使っていませんが、すでにメッシュの一部がほつれております。ドライナミックメッシュよりメッシュが細かく多いため、数か所ほつれたぐらいで機能に支障は出ませんが、どれぐらい保つか、若干不安です。いちおう「弱め洗濯機OK」の洗濯表示ではあるのですが。

以上、「アミアミ」とドライレイヤーの違い、そして僕の持っている「アミアミ」を紹介させていただきました。正直なところ、どれも一長一短で、向いている人、向いていない人があるのが現状だと思います。そのため、この記事が多少なりとも参考になれば幸いです。

この記事は各社ホームページの紹介情報と僕の理科の知識・山歩きの経験から構成しましたので、もし誤った内容がありましたら教えてくださいませ。

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