見出し画像

おばあちゃんの湯たんぽ

もうすぐまた大寒波がやってくるという。数日前から私の住んでいる地域にも底冷えするような寒さが襲ってきている。私は末端冷え性でもあるのでとても辛い時期だ。

さて、ここで私の手には母が祖母の家から持ってきた湯たんぽがある。数年前に母が譲り受けたのはいいものの、うちのクローゼットにしまい込んでいた。それを最近になって私が発掘して今に至っている。


「お母さん、これ使わないの?」
「そうね…使うとなるとお湯を沸かしてぎりぎりまで入れないといけないからね…」

そんな母の口調からは準備するのが面倒くさいという雰囲気が伝わってきた。空気を読んだ私は話題を微妙にずらす。

「おばあちゃんが使っていたの?」
「そうだと思う。けどおばあちゃんは施設に入ってしまって、誰も使う人がいないのよ。だからもらってきたんだけど」
「ああ、そっか…」


祖母は数年前から認知症が進行し、今では施設に入居している。最近では感染症の影響で面会もできなくなってしまい、どうしているのかも全く見当がつかないでいる。

私と母で心配だという話をすることも多い。

「これ、私が使ってみようかな」
「じゃあ今夜から使ってみる?」
「うん」

そして湯たんぽをタオルにくるんで布団に入れて眠った。足元でぽかぽかしている状態はなかなかに心地よくて、私はすぐに眠りについてしまった。




次の朝に思いもかけないことが起こった。

「お母さん、これまだ暖かいよ。どうしよう」
「本当だ」
「中身捨てるのもったいなくない?」
「確かにそうよね」

どうやら部屋に暖房をつけていたため、布団の中が暖かいままで朝を迎えることになってしまったらしい。


「じゃあさ、私がこたつにしてみるよ」
「えっ?」
「まずパソコンを使っているテーブルの下にタオルでくるんだままの湯たんぽを置きます。その上からひざ掛けをかけます。足を入れます」
「いいわね。やってみたら?」

そうして作ってみた簡易こたつはとてもうまくできて、私はこの記事を書いたりご飯を食べてみた。足がちょうどいい温度で温められていてとても心地よく過ごした。

その後居眠りをしてしまったくらいだ。うとうとしながら、このまま起きたらまた祖父や祖母に会えたらいいのにと思ったりした。


夕方になると湯たんぽはすっかりぬるくなってしまい、これが本当のこたつじゃないことを思い知った。




それでも祖母の湯たんぽは今日も私の足元を温めてくれている。

冬限定のぬくもりと考えるとそれもいいなと思った。何だかメルティーキッスみたいな、どこか特別な感じがするから。

この記事が参加している募集

読んで下さり本当にありがとうございます。サポート頂けると励みになります。いつも通りスイーツをもぐもぐして次の活動への糧にします。