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Fight in Tellurium

 技術が進化した22世紀では、魚を飼うのにそこまで大きな水槽など必要としない。A4サイズ程の硝子ケースで小さな魚を手軽に飼えるのだ。そして子供のいない僕たち夫婦の共通の趣味は魚の観察だ。

 週末、ブランチを食べ終わると妻はお手製の極小のレタス玉を手に「さぁ、いつものを始めるよ」と声をかけてくる。それを合図に僕は珈琲をテーブルへ置き、急いで棚の上の水槽の前にスタンバイする。中で寛いでいた魚たちはこちらの様子に気が付くと期待で口をパクパク、尾びれをパタパタと左右へ揺らす。
 妻は水槽の蓋をそっと開けると、レタス玉を丁寧に定位置へ置いた。
「それではよーいスタート!!」

 開始を告げる声が部屋中に響くと、魚たちは全身の筋肉をコントロールし、スピードを上げそこへ一直線に向かう。しなやかにより速く。

 ふわりふわり、レタスの水中花が美しく広がった次の刹那、極彩色の熱帯魚たちは次々とそれに群がった──。

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