ポケット大増殖

夫を亡くして1年が経った。
ある日4歳になる娘が
「ポケットってなんのためにあるの？」と聞いてきたので、
「ハンカチやティッシュを入れるため……」と言いかけたが、もっと娘のためになることを言おうと思い直し、
「ポケットは夢を入れるためにあるんだよ」と答えた。
それを聞いた娘はその日からノートに自分の夢を書いてはそれをハサミで切り取り自分の洋服のポケットに入れるようになった。
ある時洗濯機からバラバラになった紙くずが出てきたので
「折角の夢がこれでは叶わなくなるよ」と注意すると、娘は自分の洋服からポケットというポケットを全部切り取り、自室の床へと並べはじめた。
私がそれを叱ると、娘は
「ようふくよりゆめのほうがだいじでしょ」と泣き出した。
「ごめん、本当は嘘なの。ポケットはハンカチやティッシュを……」と言おうとしたが、ポケットから零れ出た夢のメモをいくつか拾うと、どのメモにも
「ママをまもってくれるひとがあらわれてママがまたいっぱいわらってくれますように」と書かれていた。

                                                                       (了)

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