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第三話 杯戸海斗という男 ①〜ジキル&ハイド&シーク〜
男にとって教師とは何か。
未来を担う少年少女を導く者か。
古きを温めて新しきを知る探求者か。
それとも、自らを欺くための隠れ蓑か。
◇
文字通り、白昼堂々と校長室に現れた男の死体。
紅葉たちはそれが、女子会のような昼食中の話題の渦中に挙がった、教頭先生のものだと気づくのに時間を要さなかった。
春日と夏蜜柑は体育館で、紅葉は正面玄関で、それぞれ彼を見ているからだ。
ただし、どちらも頭に血を登らせ
第二話 四月一日(月) 午後 〜ジキル&ハイド&シーク〜
群青春日は、すぐ隣の席にて頭を伏せて酷く落ち込んでいる、同期の新人教師こと香椎紅葉の様子が、どうしても気になって仕方がなかった。
◇
空木高校の今年度最初の始業式は、予定通り朝九時に体育館にて行われた。
在校生である新二年生と新三年生らが、バスケットボールのコート二面分に及ぶ広さの体育館において、約半分を埋め尽くすような横列でクラスごとに並んでいた。
左右には学年ごとの担任教師や学年主任、保険
第一話 四月一日(月) 午前 〜ジキル&ハイド&シーク〜
清少納言の代表作、枕草子の冒頭は、
春はあけぼの
やうやう白くなりゆく
山ぎはすこしあかりて
紫だちたる雲の細くたなびきたる
と綴られる。
これは、春はあけぼの──夜明けの時間が良い。徐々に白くなっていき、山の際に隣接している空が少し明るくなって、紫がかった雲が細く棚引いている、その景色が良いのだ、と翻訳される。
この時期になると、午前六時を過ぎる頃には陽の光を望むことなど無理ではないが、今
あらすじ&プロローグ 〜ジキル&ハイド&シーク〜
あらすじ
新米教師の香椎紅葉は、通勤途中の電車内で痴漢の現場を目撃した。訝しむ彼女に気づいた犯人は、標的を変えて迫ってくるが、偶然乗車していた刑事の介入により逮捕され、紅葉の身は無事に済んだ。
その後の事情聴取に付き合っていたため始業式が終わってしまい、校長に説教されるものの、副担任である紅葉が受け持つクラスのイケメン担任教師がそれを諌める。
教室に案内される道中、紅葉は彼の秘密に気づいてしまい