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時が約束してくれたこと

「またこの時季が来たのか…」
今頃になると、まだあの時のことを思い出し、少しだけ胸の深いところがチリチリと爆ぜる。
激しく燃え上がった末に、白い灰になった様に感じてはいるのだけれど。
まあ、まだわずかだが燻っているのだろう。

それでいい。

こんな時は逆に、一つひとつの思い出を丁寧になぞって行くはどうだろう。
「あぁ、あの時も、クリスマスソングが流れていたな。。」
そう、街が徐々にクリスマスムードへと移り変わろうとしていた。
あの時の湿った雪が降りしきる窓。
交差点を行き交う人々を、見知らぬ人達に混ざりながら、ぼんやりと眺めていた。
なんだか皆が目的をしっかり持って、忙しそうに見えたりしていた。
飛び交う仕事の話、生活の話、その全てが、生きていることを感じさせて羨ましかった。
春になれば全てが楽になっている。そんな僅かな望みを繋いで毎日をやり過ごす日々だった様に思う。

今またチリチリと悲しみが爆ぜた。気がする。

それでも、あの時の事を少しだけ懐かしく思いはじめている。確かにあの日から時は経ったのだ。

時は残酷な様でいて、最後には必ず決まって優しく微笑むものだ。
そう、時はいつだっておれに寄り添い歩んでくれている。
生まれた時から変わらず、ずっと。
おれのなすことを、ただ何も言わずに見守だけだ。
あの頃だっていつも側に居てくれた。
その一部は記憶となって、おれの身体を通り抜け、戯れに冷たい風と吹き抜けるが。

それでいい。

おれは早く先へ進みたいのに、道草してばかりで進んでくれない。
そんな気まぐれなところに、時々舌打ちもしたくなる。
それでも時の優しさは十分伝わる。
どんな記憶もいつか癒してくれるのだから。
その約束だけは今まで一度だって違えず叶えてくれた。

「いつの日か、この思い出さえ、愛おしいものになるんだろ」

そう言いながら横を向くと、時が微笑んで頷いた様な気がした。

#エッセイ #日記 #時 #思い出 #クリスマス

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