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2022年のFavorite Albums&EPs

2022年にリリースされたアルバム・EPから特に好きな作品・印象に残っている作品を42(+1)枚選んで、Songwhipのリンクと感想(Twitterに書いていたものを一部修正)をまとめました。並びはランキングではなくアルファベット順で、今年もジャズ、エクスペリメンタル、アンビエントな作品を好んで聴いたので、そういった傾向の音楽が多いです。記事の最後にSpotifyのプレイリストもありますので、よかったらご利用ください。
全てのミュージシャンや音楽文化に携わる人たちに感謝し、ここで紹介した作品がだれかにとって素晴らしい音楽・ミュージシャンとの出会いとなり、その人なりの言葉でさらに周りの音楽を愛する人へと広がっていくことを願っています。

ジャケット一覧

Alune Wade / Sultan

パリ拠点、セネガル出身のベーシスト。ジャズをベースに、中東やアフリカなどの伝統音楽への敬意を示しつつ、現代的な感覚で様々な音楽と融合することで、それぞれが新鮮な響きを獲得した、モダンで大らかな多様性と冒険心を感じるアルバムで凄くよかった。伝統的なものから現代的なものまで、多彩な要素やリズム、サウンドがミックスされた様々なスタイルの曲が並んでいるけど、全体の統一感もある。Christian Sandsが参加していて、一曲目で印象的なピアノを弾いている。

Awich / Queendom

Awichのメジャーからのファーストアルバム。今年最も魂を揺さぶられたヒップホップ。ラップもリリックもトラックもとにかくヤバい!キャッチーな言葉選びと、言葉をリズムに乗せるセンスが良くて、口に出したくなるパンチラインが満載。トラックはバラエティーに富んでいて、いい意味でメジャー感のある音になっていて、覚悟と余裕と説得力を纏った声にやられる。一曲目から彼女の覚悟がバシバシ伝わってきて、アルバム通してエンパワーされまくる爽快な作品ですが、skitの後の"44 Bars"がヤバすぎる。何気ない日常の描写から始まり、祈り、言い聞かせるようにどんどん深いところへ潜ってラップされる、弱さ、痛み、優しさ、強さ、覚悟により生まれる美しさにゾクゾクした。何度も聴いて涙した、一語一句どの音も声も聴き逃せない。超リスペクト!

Better Corners / Modern Dance Gold, Vol. 1

Valentina Magaletti、Sarah Register、Matthew Simmsのトリオ。様々な音・ノイズがコラージュ的にミックスされ、不穏で美しく幻想的な不協和音まみれの音響、生々しく呪術的なドラム&パーカッションがめちゃくちゃかっこいい。ポストパンク、インダストリアル、クラウトロック、アンビエント等の影響を感じるエクスペリメンタルな音で、コロナ禍で全編リモートで録音された作品らしいですが、そうとは思えないほど演奏のテンションが高く、アイデアに溢れ、息があっているも凄い。ドラマー・パーカッショニストのValentina MagalettiとギタリストのMatthew Simmsは、UUUUのメンバーとして共演していて、2017年にMegoからリリースした"S/T"ではSarah Registerがマスタリングを担当。ここからの流れで今回のトリオへ繋がったのだろうか。

caroline / caroline

ロンドンの8人組によるデビュー作。最近はロックに分類される音楽をあまり聴けていませんが、このアルバムには何か不思議な魅力を感じて繰り返し聴いた。ポスト・ロック、フォーク、ミニマル的要素を感じる即興演奏が行われており、シンプルで音の響きを聴かせる感じが好み。荒野や廃墟が奏でるアンサンブル、孤独な魂の軋み、喪失の果てに聴こえる微かな希望のような音で、いろいろなものが崩壊し、失われていったように感じられた今年の気分にマッチした音。

Cécile McLorin Salvant / Ghost Song

マイアミ出身のジャズボーカリストの新作。ゴーストをテーマとした作品で、怪しく奇妙で喪失や不安や孤独を感じるとともに、懐かしさや繋がり、癒しも感じるアルバム。基本は歌が中心にあるけど、器楽的な歌唱で声としてバンドのアンサンブルに交わる感じもあり、ゴーストに語りかけ、寄り添い、一体化して彼らの声を届けるような、演劇的で様々な表情を持った表現力豊かなボーカルが凄まじい。これまでの作品とは雰囲気が違うけど、今作の奇妙な雰囲気はとても好き。演奏的にはパーカッションの小川慶太、ピアノのSullivan Fortnerのプレイが好みで、”I Lost My Mind”のパイプオルガンの音とか、教会で録音された一曲目のケイト・ブッシュ"Wuthering Heights"のカバーで聴けるリバーブの感じも凄くいい。

Cole Pulice / Scry

ミネアポリスのサックス奏者。ニューエイジ〜アンビエントなインプロジャズ。サックスやウインドシンセとエレクトロニクスによる即興演奏で、柔らかく可愛らしい電子音やフィーレコの音が反応し合い、徐々に演奏者の意図が曖昧になって音の中に溶けていくような瞑想的な音。その場のアイデアとコントロール外の要素が混ざり合うことによるスリリングさもあるけど、偶然性に寄り添い、受け入れることで緩やかに調和していくような心地良さがある。タイトル曲=Scryを聴いていると世界に優しく抱きしめられて、無条件に祝福されているような気分になる。Cole Puliceはこの作品以外にもLynn Averyとのコラボ"To Live & Die In Space & Time"やNat Harviteとのコラボ"Strawberry Roan"も出していて、どれもよかった。

Eve Risser Red Desert Orchestra / Eurythmia

フランスのピアニスト=イヴ・リッサーによる、西洋のクラシックとアフリカの伝統音楽が融合したジャズ・オーケストラ。管楽器やシンセの即興演奏による不協和音やノイズの使用、叙情的な和声や楽曲の組み立てなんかは西洋的な感じでやや難解さもあるけど、バラフォンなどの西アフリカの伝統楽器の音やフレーズ、ポリリズムが心地よくて聴きやすい。どちらが主という訳でもなく、相互に絡み合ったり、いろんな面が強調されて見えてくるような楽曲でとても面白い。メンバー全員が楽譜を読めるわけではなく、"作曲の効率化"を避けたゆっくりとしたプロセスを重視するため、ほとんどの曲はイヴ・リッサーが口頭でアイデアを伝え、それをメンバー全員でアレンジしていったとのこと。西アフリカの伝統伝達者グリオが行う口承伝承のようで、こういった過程の中で音楽以外の文化や物語みたいなものが共有され、お互いを認め合うような演奏や楽曲の雰囲気に影響している感じがする。こうして行われた文化の伝承・共有・理解等による創造が今後どう繋がっていくのかも気になる。

Gabriel Kahane / Magnificent Bird

NYのSSWの5作目。フォーキーでクラシカル、アメリカ音楽の歴史や伝統を感じつつ、それらを未来的な感覚で聴かせるポップミュージック。即興的にサラッとスケッチしたようなメロディーの数々がとても美しく、シンプルだけど奥深い。余白を感じるアレンジの中にマジカルな瞬間があり、音との距離が近くリラックスした雰囲気の中で、彼の感じた感情や感覚を共有していくようなストーリー性を感じる曲が多く、内省的だったり日記的な雰囲気も感じる。Caroline Shaw、Sam Amidon、Andrew Bird等参加ミュージシャンも豪華。

Gilad Hekselman / Far Star

イスラエル出身NY拠点のギタリスト。印象的な口笛から始まり、大胆にエレクトロニクスを使用し、弦楽器やアンビエントな鍵盤等の音が印象的に響く、プログレッシブ&スペーシーでバラエティ豊かなジャズ。星空を旅するような不思議な浮遊感のある音響が魅力的。ギターが弦を弾く繊細なニュアンスの表現が素晴らしく、音色やアタックのコントロールが絶妙で、テクニカルなプレイをさらりと聴かせる。ドラマーはEric Harlandをメインに、Amir Bresler、Ziv Ravitz、Alon Benjaminiが参加していてリズムアプローチも面白い。

Gilla Bamd / Most Normal

ダブリンのポストパンク・ノイズバンド(旧Girl Band)の3rd。無駄のないタイトな音で音色や音質に変化をつけつつ淡々とリズムを刻むドラムと、様々なテクスチャで鳴らされるクールで凶暴なギターノイズがかっこいい。意識が飛びそうなブチ切れたような感覚のノイズが鳴っていても、エモーショナルになりすぎずにどこか冷めた感じがあり、不安定で一歩踏み外すと全てがおかしくなってしまうような不穏さや緊張感がありつつ、発狂して気が狂えば狂うほどスーッと意識が冴えてくるみたいな爽快感もある。

Hannah Peel & Paraorchestra / The Unfolding

北アイルランド出身の作曲家ハンナ・ピールとパラオーケストラのコラボ作。透き通ったヴォイス、弦や管のアコースティックで微細な振動やうねりと、モジュラーシンセのエレクトリックなノイズやうねりが丁寧にミックスされた、神秘的で美しいネオクラシカルな音。ダンサブルな曲もあり、スケールの大きい物語性のあるアルバムで、最後にクレジットの紹介が曲になってるのも面白い。

Hei Tanaka / Archive 2

元 SAKEROCKの田中馨を中心とした バンドのセカンド。ジャズや民謡やロックなど様々な音楽をミックス、変拍子や急な展開などプログレ感もある、ユーモア満載のパンクで漫画でお祭り的ポップミュージック。ありのまま故の過剰さと自由と人懐っこい可愛らしさが魅力的な、人間味溢れる元気が出る音。複雑で変なことをやっているけど、難しく考えずに楽しめばいい!って感じの音楽。

Jasmine Myra / Horizons

リーズ拠点のサックス奏者、作曲家のデビュー作。心地良い風を感じる清涼感のあるジャズで、シンプルでミニマルなビート、弦楽器やハープを使用した静かに盛り上がる上品でクラシカルなアンサンブルと美しく優雅なメロディが印象的。プロデュースはMatthew Halsall。

Joel Ross / Parable Of The Poet

ヴィブラフォン奏者ジョエル・ロスの3作目。伝統的なジャズへの敬意と、現在的な祈りや癒しの感覚があるスピリチュアルなジャズ。4本の管楽器を含む8人編成で、全ての音がぶつからずにとても魅力的な音色とメロディーが伸び伸びと演奏されている。曲の構造ではなく、意味やビジョンのようなものを共有した上で、各自が新たな色や線を加えていくような、個が独立しながら一つの生命体として全体で鳴っているようなアンサンブル。最初から綺麗に整ったものではなくて、紆余曲折しながら揺らぐようで、よくわからないが故に何度も聴いてしまう。楽曲全体で余白を含みながら様々な変化が起きている中、ジョエル・ロスのヴィブラフォンがメロディーからリズム、空間的な装飾まで様々なスキルをさらりと使い分けて、バランス取るように全体を繋ぎ、纏めているよう。

Joona Toivanen Trio / Both Only

フィンランド拠点のピアニストJoona Toivanenのトリオ作。アコースティックな楽器だけどエレクトリックな感覚があり、音質・音色への拘りが感じられ、メロディーよりも繊細で静かな緊張感のある間と響きの美しさに魅力を感じるアンビエントなジャズ。空間に音を置いて様々な揺らぎや亀裂を生み出し、豊かな静けさや光を感じさせるようなピアノと、Olavi Louhivuorのシャープ&ミニマルでグルーヴィーなアコースティックドラムの乾いた音が好み。

Jorge Drexler / Tinta y Tiempo

ウルグアイのSSW。優しく親しみのある歌声とメロディの良さが印象的で、シンプルでアコースティックな雰囲気をベースに、オーケストラや電子音も使った上品な捻りとちょっとした刺激を加えた無駄のないアレンジが素晴らしい、超上質なポップミュージック。シャープな音像で隙間が多いスカスカなアレンジなんだけど全然ものたりない感じはなく、装飾は少ないけれどリズムはしっかりしていて、聴いていると心が軽くなる。控えめな音響的なアプローチも気が利いてる。

中村海斗 / BLAQUE DAWN

ドラマー中村海斗をリーダーとしたカルテットのデビュー作。繊細さと力強さを併せ持った反射神経の良いスリリングな演奏が素晴らしいコンテンポラリージャズ。イマニュエル・ウィルキンスとか、現代NYのジャズに通ずるセンスを感じる。作曲と即興が高度に融合した、いい意味で緊張感のある気の抜けない演奏で、録音作品としても素晴らしいけど、ライブはさらに凄そう。細かくアクセントに変化を加えて多彩なリズムを叩くドラムだけでなく、バンド全体のリズムのキレが良く、エネルギッシュで疾走感のあるグルーヴがかっこいい。バンドメンバーはピアノ=壷阪健登、ベース=古木佳祐、サックス=佐々木梨子。全員めちゃうまいし、ガツンと前に出るときは出つつ、全体のアンサンブルを壊さないバランス感も見事。佐々木梨子は現在高校生とのことですが、豊かな音色で多彩なフレーズをキレ味よく奏でていて、今後の活躍が楽しみ。

Kei Matsumaru / The Moon, Its Recollections Abstracted

大好きなサックス奏者=松丸契の新作。エレクトロニクスやポストプロダクションを大胆に使い、生音と電子音、即興と作曲の関係性が様々な変化をみせる、不安定で危ういバランスの中に美しさのある音響的ジャズ。構築性と即興性を対比させたり、主従関係なく相互に反応を与えあう、個の自由と一体感が両立したカルテットの演奏が素晴らしい。特に石若駿のドラムは、一歩先をみて全体を把握しつつ変化に素早く反応する反射神経と瞬発力でもって、クールかつしなやかな力強さのあるリズム変化をつくっていて凄い。サックスの音色変化、フレージングやタイム感の面白さだけでなく、音の広がりや伸縮、軋みや唸りなどのノイズ的な表現の種類とその変化のさせ方が凄く多様で、それらが演奏者の呼吸や身体感覚、さらにはバンドの作り出す音響空間と有機的に繋がっている感じがしてめちゃくちゃかっこいい。なんとなくSFっぽいというか、現在と過去と未来が交錯するような感じがあり、太古からのメッセージを感じとったり、異なる惑星の海に住むいきものと交流したり、異星人と記憶を共有したり、違う世界を感じながらもどこかで繋がっているようなイメージが浮かんだ。石橋英子参加のボーカル曲もいい。

Koma Saxo with Sofia Jernberg / Koma West

ペッター・エルドのKoma Saxo名義の新作。Sofia Jernbergの楽器的で表現豊かなボーカルと、前作までと異なるクラシック的なアレンジが印象的で、ヒップホップ的なセンスも感じられる心地良い抽象性が魅力の先進的なジャズ。クラシカルで凛とした雰囲気と牧歌的なおおらかさ、フリーやスピリチュアルな感じがあり、それらを歪で先鋭的なリズムと抽象的で美しい音響としてコンパクトな曲に纏めていて、コンパクトながら曲単位でちゃんと展開があるところが良い。ペッター・エルド周辺の音楽はヤバい音ばかり。

Lady Aicha & Pisko Crane's Original Fulu Miziki of Kinshasa / N'Djila Wa Mudujimu

コンゴ民主共和国出身のバンド。ツイッターのTLで印象的なジャケが流れてきて、ジャケのヤバさに惹かれて聴いたら音も凄かった。廃材から作った楽器でつくられたシャープでパーカッシヴなサウンドが楽しい、パンクでジャンクなダンス音楽。声の表現・パワーも凄くて圧倒された。

Lucrecia Dalt / ¡Ay!

コロンビア出身、ベルリン拠点の音楽家。ボーカル・生楽器・電子音の質感の違いを活かし、空間的で不思議な音の配置と独特な間の取り方が絶妙な、ラウンジ・ホラー・ラテン・ジャズ。幻想的な心地よさと不穏さや不気味さのバランスが凄く独特で新鮮。よく分からないけどアンサンブルの中心がないような感じに亡霊的なイメージを持つのだろうか。部分的には凄く伝統的で聴いたことがある感じもありつつ、全体としては凄くオリジナルで聴いたことの無いものになっているところがとても面白い。

Mabe Fratti / Se Ve Desde Aquí

メキシコ拠点の作曲家・チェリスト。チェロの質感豊かなノイズや各種シンセ、無垢で神秘的な美しさのあるのびのびしたボーカルが、生々しい荒さ・粗さを残してミックスされた、アンビエント&サイケデリックで狂気的な美しさに満ちたアルバム。生楽器とシンセによる様々な質感のノイズや音の重なり、それらが作り出すうなりや空間の揺らぎ、ヒリヒリとした緊張感を纏った危ういバランスで成立した美しさが狂おしい程魅力的。シンセの音がヤバい。アレンジはアヴァンギャルドだけど、耳馴染みの良い綺麗なメロディを含んだボーカルがあるので割と聴きやすい。

Madeleine Cocolas / Spectral

オーストラリアのアーティストによる、フィールドレコーディングにピアノ、声、電子音等を重ねた、繊細で美しくアンビエントな電子音響作品。録音、ミックス、音の重ね方が素晴らしく、ずっと聴いていたい音。声の使い方、重ね方がいい。アルバムの流れというか、音の密度や音圧変化のコントロールが凄く上手くて、アブストラクトな音楽だけど結構起伏があり、通しで聴くことで魅力が増す曲が多いと思う。1曲目から聴いて行ったときの4曲目"Northern Storm"の冒頭の低音が特に印象的で、その後の展開も凄く好み。

Marty Holoubek / Trio III

ベーシスト=マーティ・ホロベックの石橋英子、山本達久とのトリオ作。緊張と緩和、速さと遅さ、抽象と具象が緩やかに押し引きしながら、融解したりズレたり干渉したりするような、美しく激しい音響的快楽に満ちた即興ジャズでめっちゃかっこいい。マーティによる大胆な編集、ジョー・タリアによるミックス・マスタリングにより、刺激的でダイナミックかつ繊細な音響的魅力が溢れる中、太く暖かいアコースティックなジャズベースの音が印象的に響き、楽器そのものがもつ声というか、歌のようなものが意識されて、とても愛おしく、生命力を感じる。

Mary Halvorson / Amaryllis & Belladonna

ブルックリンのジャズギタリスト・作曲家のNonesuchからの新作。”Amaryllis”は一曲目から複雑なリズムが交錯し、時間軸が歪んで滲んでいくような、カラフルで不思議な軽やかさのある立体的なアンサンブルが素晴らしい。DerhoofのJohn Dieterichプロデュース。セクステットを基本として数曲は弦楽器もあり、音に主従関係がないというか、緻密に作曲されているような気がするけどかっちり合わせるのではなく、緩やかにパーツを組み合わせて全体のアンサンブルをつくっているような感じがして、全体が常にユラユラと揺らいでいるような感じがとても心地良い。全員素晴らしいですが、個人的にヴィブラフォンのPatricia Brennanが凄くよくて、鳴っているというよりも、さまざまな声色で鳴いているようなMary Halvorsonの個性的なギターの音との相性も良く、複雑なリズムの楽曲に空間的な広がりを持たせ、立体感の構築に大きな貢献をしている気がする。同時発売の"Belladonna"は、弦楽カルテットとギターによる演奏で、室内楽的な楽曲をベースに、ギター1本で即興的に様々な色を差し込むMary Halvorsonのスピード感のあるプレイ、表現力が凄い。弦楽器を擦る音とギターを弾く音の響きの違いが印象的で、こちらも素晴らしい。

Moor Mother / Jazz Codes

フィラデルフィア拠点の詩人、ミュージシャン、活動家。ジャズ、ヒップホップ、ソウルやジュークまで、様々なブラックミュージックに含まれる感情や記憶が空間を漂っているような、スピリチュアルで抽象的だけど現実感もある音で、詩やラップが凄くリアルに響く。核となっているのはスウェーデンのプロデューサーOlof Melanderの音のようですが、色んな人とコラボしていてとにかくかっこいい。音やフレーズの一つ一つから詩のように豊かな感情や景色が想起させられ、コラージュ的な音だけど割とわかりやすいメロディやビートがあって聴きやすく、シリアスだけど心地良さもある。過去の歴史と現在と未来が、強烈なライブ感を伴って繋がるような感覚があり、挑戦的で荒々しく、優しくクレバー。リリックの翻訳や日本語のしっかりした解説読みたいので日本盤としてCD化してほしい。

Neo Griot & The Afrocentric Prince / Neo Griot & The Afrocentric Prince

A.K. Toneyの言葉に導かれて、宇宙や生命の起源や歴史を体感する精神の旅に出かけるようなスポークンワード&ビートミュージック&スピリチュアルジャズ。カオスであり涅槃でもあるような、ディープでメディテーション的な面もある音で、Sharada Shashidharのボーカル、Mekala Sessionのドラム、Jameal Deanのピアノがヤバい。Carlos Niñoが数曲参加、マスタリングDaddy Kev、ミックスZerohで、LAのビートとジャズとアンビエントがクロスしたところで行われた先鋭的な音の記録として、もっと話題になってもいいと思う。

Oded Tzur / Isabela

イスラエル出身NY拠点のサックス奏者のカルテット(サックス=Oded Tzur、ピアノ=Nitai Hershkovits、ベース=Petros Klampanis、ドラム=Johnathan Blake)によるECMからの2作目。サックスの色彩豊かな音色、タッチ、スピリチュアルでエモーショナルな表現の深みは前作以上で、優雅で静謐な響きの中から湧きあがる祈りや愛を感じる演奏が素晴らしい。前作同様、 Nitai Hershkovitsのピアノは息を呑む美しさで、水面に揺れる光のように移ろい、優雅に形を変えながら内省を促し、そっと寄り添うように優しく深いところへと導いてくれる。Johnathan Blakeのドラムもとても印象的で、"Noam"での色彩豊かなサックスが奏でる開放的なメロディに寄り添い、ピアノと一緒に歌い語り合うような演奏や、ラストの"Love Song for the Rainy Season"でのダイナミックで躍動感がありつつ、クールで深みと広がりを感じさせる演奏がすごくいい。

Patricia Brennan / More Touch 

ヴィブラフォン奏者パトリシア・ブレナンのカルテットによる新作。エレクトロニクスを使って加工されたヴィブラフォンの音が印象的で、Marcus GilmoreのドラムとMauricio Herreraのパーカッションも素晴らしく、立体的でスリリングなグルーヴが最高。Kim Cassのベースも打楽器的にリズムを強調するようなプレイも多く、カルテット全員打楽器みたいな感じで繰り広げられる、複雑で心地良いリズムの応酬が堪らなくかっこいい。絵の具を指で擦ったみたいに滑らかに伸び縮みするヴィブラフォンの音色変化が面白く、タイム感や音響の揺らぎが心地良い。緻密に作曲されたところと即興的なところのバランスも良い。

Rafael Martini / Martelo

ブラジルのピアニスト。弦楽器やクラリネット等を含む、アコースティックを中心とした室内楽的で緻密なアンサンブルに、エレクトリックでブリブリのシンセベースや打ち込みのビート&生ドラムによるポリリズムビートがかっこいい。長い年月をかけて生態系が生み出す有機的で美しい構造の中をサッと風が吹き抜けるような心地良さがあり、大小様々なところで構築されたものがサラサラと崩れ、すぐに新たな形が生まれていくよう。大胆に展開していくけれど、破壊や喪失もプロセスの一部であることが当たり前こととして自然に表現されている感じが好み。

ryo sugimoto / fragments

ピアニスト杉本亮による、アンビエントでクラシカル&ミニマルな美しいピアノソロ。音質、音色のコントロールと、それらの変化による繊細な音響表現が素晴らしい。静物達のおしゃべり、ある日の風や光の記憶、身近にあるさり気なくて大切な感覚が音になったよう。アコースティックピアノ音源を使用し、プラグインのパラメータ設定、時間的変化まで楽譜に示し、ホールの響きを取り入れて録音したとのことで、楽譜も公開されている。厳格な制約の中で、エレクトリックとアコースティックが絡み合い、偶然性を取り込んだ即興的表現が興味深い。暖かい部屋から雪の降る景色を見ていて、雪が激しく降っているけれど音は聞こえず静かで、吹雪の中に何かの存在が輪郭だけぼんやりと見えたけれど、雪が止んで視界が晴れたら気配は感じるけど何も見えないとか、視覚や触覚などの感覚の間にズレがある様々な場面をイメージした。

Sebastián Macchi / Melodía Baldía

アルゼンチンのピアニスト・作曲家・シンガー。水の音等の環境音も使ったリズムを構築する音が面白く、開放的で透明感を感じさせるアコースティックな音を中心にしつつ、弦楽器等の自然な歪みや不協和音も取り入れたアレンジが素晴らしい。川の流れや穏やかな風のような自然の豊かさを感じさせる明るくフォーキーな雰囲気の中にクラシカルな感覚があり、時折ディープで神秘的な世界の入口へと誘う感じもある。リラックスした優しいボーカルからは懐かしさや安心感が感じられて、全体的に緩やかに肯定される感じがする。ボーカルを前面に出し過ぎず、楽器と同列にアンサンブルに混ぜる感じがあり、メロディ・ハーモニーがとても美しい。日の光や風や空気の匂い、鳥の鳴き声や子供の声、食器のぶつかる音などから、何気なく過ごす日々が豊かな自然や人々の繋がりの中にあることを感じる、そんな瞬間を音にしたような音楽。

Shane Cooper & MABUTA / Finish The Sun

南アフリカのベーシストShane CooperのグループMABUTAの新作。程よく力の抜けたアフロ・ファンク・スピリチュアルなジャズで、様々なドラマーの叩く個性の異なるビートに、懐かしさと未来感のあるシンセや管楽器のアレンジが素晴らしい。今作はShane Cooperによるギターの音が印象的で、前作同様シンセも演奏している。前作発表後にドラマーが脱退してしまったため、様々なドラマーとコラボしていて、Julian Sartorius、Arthur Hnatek、Lungile Maduna、Mario Hanni、Jamie Peet、Christopher Cantillo、Andre Toungamaniがドラムで参加。3曲のみの参加ですが、ピアノ、オルガンのBokani Dyerの演奏も印象に残った。

Shuta Hiraki / A Wanderer

長崎県在住のアンビエント作家。フィーレコやサンプリング素材の質感、残響音の美しさが印象的なドローン・コラージュ・アンビエント。分離よくシャープに立ち上がる様々な音の間で揺らぐ、抽象的で豊かな響きへと耳が開かれていく感じが素晴らしく、ずっと聴いてしまう。彼の音楽は、音色や音質、空間の作り方や間の取り方、音の組み合わせや繋ぎ方のセンスに毎回驚かされるんだけど、今作は割と輪郭のはっきりした純度の高い音から、抽象的な感覚が浮かび上がってくる感じが新鮮で、覚醒しつつまどろんでいくような心地良さを感じた。身体が響きと共鳴して自我が無くなるよう。聴くたびに印象が変わっていく。

岡田拓郎 / Betsu No Jikan

月夜に日本庭園にひとり佇み、風で揺らぐ池の水面にうつる光や波紋を見ているうちに訪れた、スピリチュアルな体験のような音。ジャズ、ロック、アヴァンギャルド、メディテーティブな要素があり、時間が伸び縮みするような感覚が心地良い。ある場の持つ音や空気に導かれた即興演奏を、全ての音を等価に捉えて編集したような感じがあり、音と音楽、即興と作曲、偶然と必然の間を揺らいでいるみたい。複数の時間と空間が同時に存在し、それらが相互に影響し合い、主従関係なく不思議な連携をする様子を観察、もしくはその一部になるよう。石若駿、ジム・オルーク、ネルス・クライン、サム・ゲンデル、カルロス・ニーニョなど、参加ミュージシャンは凄い豪華なんだけど、いい意味で強い個性を感じないと言うか、主体的に音を出したのではなく、何かに反応して出している音を集めたような、エゴがなく中心がボヤけた感じがする。

Tapani Rinne & Juha Mäki-Patola / Open

フィンランドの音楽家によるドローン&アンビエントなジャズ。管楽器と鍵盤&ギターの音が繊細に空間や物質を震わせ、やがて全てが柔らかな光や粒子となってサラサラと流れるように変化していくような、侘び寂びにも通ずるモノクロで幻想的な世界。

Theo Croker / LOVE QUANTUM

アメリカのトランペッター。ヒップホップ由来のビートや様々なグルーヴを軸とした現代的なジャズで、USのトランペッターだけど、音色や音響への拘りやアレンジのセンスにはテクノやクラブジャズ的なものも感じられる。トランペットは熱いソロを聴かせるのではなく、ジャズの伝統との繋がりを感じさせながら、楽曲の一部として現代的な音響の中で効果的に響かせる感じで、音色の選び方やフレーズ、音の置き方が素晴らしく、とても印象的で新鮮に響く。UKやUSの話題のアーティストとコラボしていて、様々な楽曲をアルバムとしてまとめるのがうまい。

Tom Gallo / Vanish and Bloom

ニューイングランド出身のSSWの2作目。身近な物の擦ったり弾いたりしたノイズを活かした立体感のあるリズム構築が素晴らしく、空間をゆらめく電子音やピアノ、甘くナイーブなボーカルが作り出す、ローファイでリアルかつ幻想的なモノクロ世界が心地よい。目を開けていても何も見えず、自己の存在が曖昧になるような暗闇の中、身近なものを触ったり擦ったりして触覚を得ることで自己の存在を確かめ、空気の揺らぎや温度の変化、小さな物音などから世界の変化を感じ、声を発して歌うことで世界と繋がり、対話しているよう。

優河 / 言葉のない夜に

透明感があり強く深く柔らかな声が魅力のSSWの3枚目。曲も声も演奏も素晴らしい上に録音・ミックスで魔法をかけて、曲の創り出す世界の肌触りや温度までもが感じられる様な映像的・体感的な音響フォーク。繊細な歌唱や丁寧に声を重ねてつくられる微妙な揺らぎや広がり、ボーカルに寄り添うような控えめでポイントを押さえたドラムの演奏やスネアやバスドラの音作り、ギターの音色やアレンジの多彩さなど、沢山の聴きどころがある。一つ一つの音が命を宿していて、暖かく穏やかな光を纏った音がそっと語りかけてきたり、音が語り合う様子を聴いているような感覚になり、様々な声に耳を傾けているうちに静かに祝福されているような気持ちになる。

羊文学 / our hope

塩塚モエカ、河西ゆりか、フクダヒロアの3人からなるバンド。TVアニメ『平家物語』のオープニング主題歌だったこともあり、初めて聴いた。スケールは大きく日常との距離は近い、音と言葉がスッと入って身体に馴染む、強くて繊細であたたかいオルタナティブなロックで、ライブ感のある豊かな空間を感じさせるサウンドプロデュースが凄く好み。芯が強く伸びやかで親しみも感じるボーカルが素晴らしく、キャッチーなメロディーに時々少し変わったリズムや言葉の乗せ方をしたり、コーラスワークも面白い。ギターの音は色々加工していても弦とボディーが良く鳴ってる感じがして、感情や身体と高純度で繋がり、真っ直ぐ響いてきて凄くいい。"満足してるよ、人生の大体の部分では でも少し、あと少しの安心が欲しい"とか、歌詞も素晴らしく、日常生活で感じる違和感や不安や戸惑いと、そんな中での希望や勇気や祈りが言葉と音になったようで、激しく感情を揺さぶられた。今年音楽を聴いて泣いた作品のひとつ。

Takuya Kuroda / Midnight Crisp

トランペッター黒田卓也の新作。様々な要素を含んだ現代的アレンジやポストプロダクションによる音響的仕掛けも面白いけど、伝統的なジャズとしての魅力が感じられるのが凄くよくて、ハッとするようなソロも多い。エレクトリックなキックに始まり、怪しげな光を放つピアノとベースの絡みやヒップホップ由来のドラムが最高な1曲目、エレクトリックにウネる鍵盤にパーカッシヴな管楽器が重なるファンキーな2曲目、リラックスしつつ絶妙なリズムへのアプローチとリバーブによる空間作りがヤバい3曲目など、バラエティに富んだ楽曲がつまったアルバム。

Vic Bang / Burung

アルゼンチンの電子音楽家。軽やかでキュートな心地良い音が満載で、ちょっとストレンジなビートが面白いアンビエント&エレクトロニカ。無機的だけど温かみがあり、音楽を聴いているというよりも現象やモノオトのおしゃべりに耳を傾けているような感覚があり、可愛らしくて心が和む。

Spotifyプレイリスト

最後まで読んでいただきありがとうございます。出来ればアルバムとして楽しんでいただきたいため、試聴用のプレイリストは好きな曲ではなく一曲目(凄く短い曲の場合は二曲目)としています。気にいったら是非アルバムを通して聴いてみてください。

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