〈  きつねのこのはちゃん  〉

 ある日、僕は佐賀の鹿島(かしま)にある祐徳(ゆうとく)稲荷神社にお参りに来た。


 もうすぐ僕の出演するコンサートがあるので成功しますようにとお願いしようと思った。

 けど、実際に鈴を鳴らして柏手(かしわで)を打つと、先日起きた嫌な出来事を思い出した。


 実は先日、僕の職場の女の子と話をしていてちょっとしたトラブルがあった。


 職場の女の子が会社を辞めて転職しようとして、何の仕事をしようか考えていたので、僕は、

「メイドカフェのメイドさんになったらどうですか?」

 と提案した。すると、

「そんなこと言ったらセクハラで訴えられるよ。女の子は怖いよ。」

 と言われた。

 僕はメイド好きとして納得が行かなかった。


 僕はお参りを終えて帰りのバスに乗ろうとしてバス停に来た時、手袋の忘れ物に気付いた。


 神社の方に戻った。広い参道を歩いていると、女の子が声をかけてきた。

「これ、あなたのじゃない?」

 女の子は僕の手袋を拾ってくれてた。

「ありがとう。」

 お礼を言った。

 その女の子は9才位か? すごくカワイイ。色白で唇が赤くて、スッピンで舞妓さんになれそう。

「もう1つ忘れ物あるんじゃない?」

「えっ!? 何かあったっけ?」

 考えたけど、他に忘れ物は思い付かない。

「特にないよ。」

 僕がそう言うと、

「じゃ、またね。」

 とその子は手を振った。

「うん。また来るよ。」

 僕も手を振った。けど僕がまた来た時に会えるってことはもしかして巫女さんかな?と思った。


 次の日、僕のデビューとなる初コンサートは成功した。


 後日、僕はカフェで寛いでいた。実はそのカフェは僕の職場の1つ。僕は便利屋としていろんな人から依頼を受けてるけど、そのカフェの人は依頼人の1人で庭掃除を頼んでくれる。でも今日はお客さんとして来た。

 コンサートが成功して嬉しかったので、その時の様子を思い出していた。すると、

「また会いましたね。」

 誰かが話しかけてきた。その子はこないだの神社で出会った女の子だった。

「あっ、神社の巫女さん。」

「私はコノハです。」

「僕は隆弘。こないだはありがとうね。よかったら座る?」

 コノハちゃんは隣に座った。

「何のお願い事してたの?」

「僕がコンサートに出演する予定だったから成功をお祈りしてたの。お蔭で上手く行ったよ。」

「すごいね。でもお祈りの時、何だか暗い顔してたから、すごく深刻な悩みでもあったのかと思ってた。」

「ああ、気づいた? 実はもう1つ悩みがあったの。」


 僕はその時悩んでたことを話した。


「そっか。女の子に嫌われやすいのね。」

「僕が口下手だから、ちょっとしたことで誤解されたり、僕に悪意があるかのように決めつけられたりするの。

 僕、子どもの頃からいじめられてたし、僕が何にも酷いことしてなくても意味なく嫌われたりすることが多かったの。

 大人になってからは今の仕事を見つけて、ようやく信頼できる仲間が見つかったなと安心してた矢先にまた意味不明な理由で嫌われて、がっかりしてたの。」


「隆弘くんは人を意味なく毛嫌いすることある?」

「僕はそんなことしないよ。僕なら誰とでもなかよくする。」

「じゃあ、自分は何もおかしなことしてないんだから、他人にどう思われてるかなんて気にせず、自信を持って生きていけばいいと思うよ。」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。」


 僕はウトウトした。ふと気が付くと眠ってる間に女の子はいなくなっていた。そこへカフェの店主さんがやってきた。

「もう閉店の時間よ。」

「あれっ!? さっきの女の子は?」

「女の子? そんな子いないよ。隆弘くん、さっきから1人で過ごしてたでしょ?」

 僕は不思議に思った。

「それよりさっき近所にきつねがいたらしいわよ。」

「えっ!? こんな住宅街に?」

 窓の外は風が強くて葉っぱが飆(つむじかぜ)で舞っていた。

つづく

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