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道具との共進化への道:「脳」と「道具」の共進化

 生命は環境変化に対処し、世代を超えて記憶する手段として「遺伝子」と「進化」の仕組みを構築した。そして、ヒトは環境変化に対処し、世代を超えて記憶する手段として「道具」と「道具とヒトの共進化」の仕組みを構築した。

●「脳」と「道具」の共進化[1]


 「好奇心」が新たな環境への進出を促し、変化する環境に「道具」を使って適応する。「道具」は環境変化に適応する手段としてだけでなく、世代を超えて受け継ぐ記憶手段でもある。「道具」の利用方法は、「道具」を介して大人から子供に受け継がれ、また「道具」を利用するものによって「再構築」「改良」される。

 「道具」はヒトの能力を拡張するとともに、エネルギーを効率的に利用するために「身体」の進化を促す。特に、「道具」をより良く活用し、新しい「道具」を生み出す「脳」の仕組みを獲得したものが、新しい地域で豊富な栄養を獲得して生存する。「脳」は生存のために有益な、内外情報の統合・翻訳・編集・フィードバックのための「感情」、「知性と論理」、「愛情」、「創造と美意識」「記憶」を徐々に獲得し、「道具」を使って得たエネルギーがそれを支える。「脳」が獲得した能力は、新たな「好奇心」を生み行動領域を拡大し、新たな「道具」を生み出す。「愛情」・「感情」がそれを欲し、「創造と美意識」がそれを発想し、「知性と論理」がそれを構築し、それの利用方法を「記憶」する。「道具」と「脳」の共進化がやがて家族への愛情を深め、集団での狩りを効率化し、ついには宗教や音楽や会話によって団結力することとなる。

●ヒトと道具が紡ぐメタ進化[2]


「石器」は「牙」をアウトソースする
 死体の皮を切り裂き、固い骨から滋養に富んだ骨髄を手に入れ、地中からは炭水化物の豊富な芋を掘り、木の実を砕き、滋養に富んだ栄養を確保する。「石器」の利用は、犬歯を縮小し、手先の器用なもの、多彩な活用方法を生み出したものを優位にした。

「衣類」は「体毛」をアウトソースする
 長距離走で獲物を追い詰める際の発汗のため「縮小した体毛」を補い、寒暖の変化に「服を着替える」ことにより臨機応変に対応できる。「衣類」の利用は、巨大化した「脳」を冷却するためさらに体毛を縮小し、太陽光の強弱に皮膚の色素で対応するものを優位にした。

「火」は「消化器」をアウトソースする[3]。
 繊維質で筋がある肉を柔らかくし、芋や実の加熱調理により食べる量を増やし、栄養を吸収しやすくする。有毒な植物の毒を消し、寄生虫や菌を退治し、肉食動物を遠ざけ、極寒の季節に暖を提供する魔法まで備えている。「火」の利用は、犬歯と顎の筋肉と消化器を縮小し、毒や菌に対する抵抗力を弱め、吸収した豊富な栄養を使って周囲の環境変化にうまく対処できるよう「脳」を進化させたものを優位にした。さらに、火を保持する場所で共同体がひとつにまとまって食事をし、社会性を強化し、「コミュニケーション」能力を高めたものを優位にした。

「言葉」は「知性と論理」をアウトソースする[1]。
 内外情報や「感情」、「愛情」、「創造と美意識」「知性と論理」「記憶」を統合・翻訳・編集・フィードバックし、対処を判断し、フィードバックするための手段を提供する。「言葉」は、「知性と論理」の思考様式を提供し、世代を超えて記憶し、大人から子供へ受け継がれ、また「言葉」を利用するものによって「再構築」し、他者とのコミュニケーションにより「改良」する。「言葉」の利用は、本能による瞬時の行動に割り込み遅延をもたらすが、舌、顎、喉頭、気道の利用をチューニングし、「知性と論理」により適当な行動を選択する、「感情」、「愛情」、「創造と美意識」「記憶」そして「知性と論理」をも「知性と論理」により適当にコントロールする「脳」を進化させたものを優位にした

 やがて「道具」は20万年前にホモ・サピエンスという器をつくった6万年前にアフリカから世界各地に広がったその時、「道具」と「脳」の連鎖の爆発により想像力と創造力を開花したを「ヒトと道具の共進化」は、互いに影響を及ぼし合いながら、驚異的な適応速度を獲得し、現代、そして未来につながるメタ進化の道を紡いでゆく

参考書籍:
[1] アントニオ・ダマシオ(2019), "進化の意外な順序", 高橋洋訳, 白揚社
[2] ジャレド・ダイアモンド(2015), "若い読者のための第三のチンパンジー :人間という動物の進化と未来", 秋山勝訳, 草思社
[3] リチャード・ランガム(2010), "火の賜物 :ヒトは料理で進化した", 依田卓巳訳, NTT出版株式会社



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