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活版印刷と近代的思考法の確立

 言葉は発せられてしまえば後になにも残らず、書きとめることができなければ、その内容について研究することはできない、活版印刷の発明が「印刷書籍」をつくり近代的な思考法を確立してゆく。

活版印刷の発明と論理的な思考法

 1445年、イギリスでの活版印刷の発明が、「書く言葉」の影響を爆走させる。「印刷された言葉」は「手書きされた言葉」より読みやすく、一つの「印刷書籍」が多くの読者に読まれるようになる。16世紀イギリス人男性の25%程度だった識字率が、18世紀に60%、そして19世紀後半には90%に達する[3]。

 デカルトの方法論序説(1637年)を境に、近代的な論文的で要素還元的な思考方法が「書」に乗って広がる。「書」の様式はプラットフォームとして刻まれ、論理と科学の文法、思考言語の様式として定式化する。①中立で均質、客観的で論理的な視点、②分断、分化、専門化、断片化、③単一化、均質化、画一化を促し、断片を連続的につなぎ合わせ、単一平面上の線形事象としてコード化し、「原因」と「結果」の連鎖と単線的な階層的秩序[4]をつくり、断片を論理により編集して全体を構成する。科学者や研究者だけでなく、多くの企業人たちの常識を書き換える。

「印刷書籍」の商業化が近代化を進める

 商品として販売する「印刷書籍」は、「書」のあり方も変える。「印刷書籍」の書き手は、完成した商品として出版するまでに何度も推考を繰り返し、さらに編集者が、校正者が、何人もの人々が一つの製品にかかわり、修正を加えて出版される。「独自性」「創造性」が問われるようになり、「正確さ」や「正当性」が求められる。

 「印刷書籍」はさらに近代化をおしすすめる。産業革命の300年前に組み立てラインによる大量生産製品として広がり、識字と均質な教育を普及し、数量的正確さの追求、商業社会の規格製品化、市場や価格システムをつくり、機械化、大量生産へと導いてゆく

参考書籍:
[1] M.マクルーハン(1986), "グーテンベルクの銀河系 :哲学人間の形成", 森常治訳, みすず書房
- Marshall McLuhan(1962), "The Gutenberg Galaxy: The Making of Typographic Man", University of Toronto Press
[2] M.マクルーハン(1987), "メディア論 :人間の拡張の諸相", 栗原裕, 河本仲聖訳, みすず書房
- Marshall McLuhan(1964), "Understanding Media :The Extension of Man", McGraw-Hill Book Company
[3] グレゴリー・クラーク(2009), "10万年の世界経済史", 久保恵美子訳, 日経BP社
- Gregory Clark(2007), "A Farewell to ALMS", Princeton University Press
[4] ジェイ・デイヴィッド・ポルター(1996), "ライティング スペース :電子テキスト時代のエクリチュール ", 黒崎正男, 下野正俊, 井古田理訳, 産業図書
- Jay Favid Bolter(), "Writing Spase - The Computer, Hypertext, and the History of Writing - ", Lawrence Erlbaum Associates, Inc.


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