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ノンデザイナーが初めての展示に挑んで気づいた20のこと

ノンデザイナーとしての美大院生の日々。それを経て修士2年間の集大成となる卒業・修了制作展の展示への道のりを皆さまにシェアしたいと思います。ノンデザイナーが展示に挑むとこんなことすら驚く、こんなことすらつまづく、というたくさんの気づきをまとめています。

まずは展示の最終形から

自身の通う美大大学院の修了制作展は3月に催されました。さすが美大ということで、広大なキャンパスの全てを使って、学生の皆が渾身の作品を展示しています。

私は、造形構想研究科という新設された学科で、論文審査だったため、論文冊子のみの展示でもOKというルールでした。けれど、せっかく展示する体験ができる機会なので、それも学びの一環だと捉え、最大限の表現を努めてみることにしました。その表現の最終形がこちらです。

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展示物
 壁の展示

 ・説明パネル|A0サイズ4枚|Illustrator制作
 什器上の展示
 ・修士論文冊子|133ページ 79,832字|Word制作
 ・ワークブック|A3サイズ33ページ|Illustrator制作
 ・オブジェ|トレーシングペーパー|Illustrator制作
 ・ミニプロトタイプ|樹脂3Dプリンタ制作
 立てかけ展示(写真外)
 ・等身大パネル|Photoshop制作

自身の研究内容をわかりやすく、見に来て頂いた方に対して知って頂きたいと想い試行錯誤した結果、当日の展示物はこの6つでした。

私の研究テーマは、経営者を対象としたものです。『顧客体験の創出を目指した経営における経営者の意思決定構造と人間らしさに焦点をあてた方法論の研究』と題して2年間研究を行いまして、論文を完成させました。

その研究内容を秒で理解してもらうための説明パネル、研究した結果明らかになった課題を解決するためのツールを製作しオブジェやプロトタイプとして展示しました。

展示90日前 構想

さて、展示のことを考え始めた時期の頃から振り返ってみたいと思います。どのように試行錯誤して、先程の結果に辿り着いたのか、まずは構想フェーズからです。そろそろ考え始めなければ・・という焦る気持ちがこの頃何度も湧き出てきます。が、手も足も出ません、頭も動きません。

気づき1:これまで表現するときにパワーポイントに頼りすぎていたこと
ビジネスの世界で自分の考えを表現すると言えば、大体パワーポイントです。社会人になってから気付かぬうちにパワーポイントに頼りすぎ、それ以外で表現することに脳みそを使っていなかったことに気づきます

2年間の授業で作品の制作や作品を魅せることを少し学んでいたので、パワーポイント以外のIllustrator等の表現方法の習得が功を奏すことになります。

まだ何も考えられていない状態で、早速驚きからのスタートです。展示の会場にてどのような大きさのスペースで展示するのか決めて提出するよう依頼が来ます。壁を使いたいのか、角がいいのか、等々。

気づき2:展示レイアウトを驚くほど早いタイミングで決めなければならない
展示は共同作業であること、共同で一つの場所を創り出すものであり、一人の世界で完結する作業ではありません。常に周りの一緒に展示する人のスペース等も意識しなければならず、周りとの関係性の中でどうするかを考えなければならない性質なものであると気づきます

とりあえずレイアウトを考えなければならないということで、学校から800x 1800mmの机を貸し出してもらえるということをベースに展示イメージを描いてみるところからスタート。

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展示レイアウト初案:貸し出される予定の机の上に展示したいものを並べてみたの図

展示物を机に置いてみたイラストを描いてみたものの、当たり前な大事なことに気づきます。

気づき3:展示レイアウトを決めるためには展示物のサイズを決めなければならない
90日前なので、これから追い込んで展示物を制作していこうと思っていたものの、展示物の最終形のサイズ感を決めないと展示レイアウトは決められないことに気づきます

展示物がどのような表現でどの程度のサイズになるかをある程度定める必要があるとわかり、制作物の着地を検討する日々。でもそう簡単に制作物の着地も決めきれず、悩む日々を送ります。

とりあえず、展示レイアウトそのものを考えることを一度辞め、目的やコンセプトから整理し直してみることにしました。

構想全体像の案:目的やコンセプトから整理してみたの図


概ね展示物の表現も展示物のサイズも見えてきたものの、自分でもわかる、これはガチャガチャしていて何を見せたいかわからないことになりそうだな、、と。けど、どうしたら良いのかも全くわからない。次への一歩がわからなくなり、展示が得意な建築学科卒のクラスメイトに相談してみることにしました。早速この構想案の紙が役に立ちました。

気づき4:まず描いてみる・書いてみたこの紙が対話に役立つこと
目的やコンセプト等、何を伝えたいのか、何を見せたいのかを整理して言語化しておくことが役立つのです。自分の頭の整理用に作ったものが、その筋の経験者からアドバイスをもらいやすくなることに気づきます

その展示経験のあるクラスメイトからは、この紙を見た瞬間いろいろなアドバイスをしてくれました。「机が制約になってしまっている。見せたいものが伝わりにくい勿体ないレイアウトになっている」と教えてもらいました。

気づき5:展示物の置く場所すらも自身の表現に含まれてしまうこと
展示は、自身の制作物をどう置くか、という問いに向き合うことではありません。置く場所が机であれば机も表現の内になります。どのような空間の中で展示を魅せるか、から考えることが大事であると気づきます

クラスメイトとの相談はZoomだったこともあり、その友達がデスクトップ画面をシェアしながら色々と展示タイプについて調べて見せてくれている様子を見て、更なる発見がありました。

気づき6:創りたい表現を画像から検索して良いものをたくさん見る
PinterestやInstagramを使って、展示レイアウトと検索し、ありとあらゆる画像を漁るべし。画像で自分の創りたいものに近いものを見つけていく作業が重要であることに気づきます

この所作はデザイナーの方にとっては日常的な行動でしょう。検索と言えば仕事柄、文字で検索することが多かったので、ノンデザイナーからすると、作りたい表現をネットから画像で探すという発想がないのです。

たくさんの画像を参考にした結果、気に入った展示の見せ方が定まり始め、ようやく設計に着手できるようになります。

展示40日前 設計

自分の中での気に入った展示方法は、特大パネルを壁に貼って内容を説明しつつ、白い什器の上に、一つずつ制作物を展示して、それぞれ独立させて魅せることでした。説明したいものがカテゴリとして4つあり、展示物も4つ存在したため、パネル4枚で製作することにします。ようやく展示の構想が決まり、設計に移っていきます。

しかし、またここからも苦難の連続です。その什器はどんな大きさなのか、特大パネルの大きさは、そのパネルはどの高さで貼るのか、等、それぞれ何センチにするか、高さ、広さ、幅、全てにおいて感覚がないため見当がつかない自分に愕然とします。

先生からとりあえず創りたいイメージで図面を書きましょう、と。上から見た図、横からみた図、と。言われるがまま、人間との関係性がわかるように紙面上でマップします。

レイアウト設計図面の初案:A0のパネルサイズだけを頼りに一旦マップしただけの図

ご覧頂いてお分かりの方も多いと思いますが、たくさんの問題点が存在しています。パネルが低すぎる、白い什器にパネルが被っている、隣のパネルとの距離が若干遠い、等々。この時は全く気づいていません。

先生から目から鱗のコメントをもらいました。

気づき7:パソコン上での表現は虚構であり展示は真なり
ビジネスパーソンが使うパワーポイント等のパソコン上の表現は虚構の表現である、とのコメントでした。展示は、生身の人が体験する表現であり、これが真であり、真の表現が虚構といかに違うかに気づきます

普段の生活でいかに虚構の表現しかしていないことを痛感しました。人間中心デザインのサービス等を検討する立場でもありながら、やはり虚構の表現に偏って生きているということを実感しました。

意味のない図面を引くことに価値がない、と思い立ち、家の壁を使って、高さを測って印をつけ、壁から何メートル離れて見たらどの高さが適切かというのを試します。

気づき8:実体験のサイズ感でのプロトタイプは偉大であるということ
生身の人間として試せるプロトタイプ(それが壁に印をつけるだけでも)を早期に実施することが非常に重要。パソコン上、紙面上での気づきの100倍の効果があることに気づきます。

パネルはA0にしよう、パネルとパネルの距離はこの程度にしよう等を決めていきます。壁で色々と試しているうちに、ふと気づくことがあります。パネルと人間との距離を決めるということは、パネルの字のフォントサイズをセットで決めるということなのか、等。調べてみようと検索をし始めます。検索窓に何を入れるべきかもわかっていなかった状態から、プロトタイプをしたことで、検索で先人の知恵を得ることができました。

気づき9:人が読みやすいフォントサイズや文字の高さは先人が教えてくれていること
色々とゼロから考えるのも大事ですが、人の目線として読みやすい高さと距離感、フォントサイズの適切なバランスは先人により規定されていることに気づきます

こうなると、A0パネルの中身のレイアウトをどうするかを決めないと、全体設計図の高さ方向は決まらないなと判断できます。

展示25日前 製作

そしてA0パネルの製作について考えていくことになります。本編ではパネルの製作過程をご紹介します。展示物そのものの製作は別途どこかでご紹介します。

パネルのデザインを考えてみることにしました。A0展示パネルの制作物を作ることは初めてでしたが、イラストレーターを用いたエディトリアルデザインの授業での学びをフルに活かすことに努めました。

パネルデザインをどのようなレイアウトにするか、を吟味することにします。

気づき10:美しいデザインレイアウトを沢山見る大事さ
Pinterest、Adobe stockでありとあらゆるデザインテンプレートを見ます。実際の展示の写真から、展示パネルの美しいデザインレイアウトの参考にするなど、美しいものをたくさん見ることの大事さに気づきます

色々と見た結果、上部は大きく余白を残し、下部で文章とグラフィックで表現することに決めます。

初期デザイン案

文字ボックスのサイズや余白のサイズは色々と美しいなと思うものを重ねてサイズを測って決めました。さらに、展示に向き不向きのフォントがあるのか、、と考え、エディトリアルデザイン等が得意な友達に聞いてみることにしました。

気づき11:フォントへの気遣いも重要であること
普段はあまり真剣に考えないフォントも、展示の世界観を作り出す一つの要素であるとのことです。展示空間のイメージを決めるフォント選びの重要性に気づきます

グラフィックも1からデザインし始めます。インフォグラフィックの参考事例等を色々と漁って、相応しいパターンを見つけます。

グラフィックのパターンの試行錯誤の図

先生からはその表現の造形の意味は何か、伝えたいことをしっかり体現できているのか、について問われます。その後の試行錯誤の結果、以下のようなグラフィックに定まっていきます。

グラフィックの最終形

細かいデザインやグラフィック等も定まり、パネルのデザインが完成し、この後印刷等に移ることになります。

最終A0パネルの姿


展示10日前 準備

PC上でデザインしたものを製作物にしていく過程です。タイムリミットがすぐそこに来ている、そんな焦りはありつつ、印刷の準備を進めていきます。

印刷してしまったらもうそれが展示になると思うとドキドキします。

気づき12:普段パワーポイントを完成させるときの覚悟が甘かったこと
大きな製作物を印刷するときは、それなりの印刷代もかかりますし、印刷後の誤字チェックというわけにはいきません。やはりパワーポイントを印刷する時と覚悟が違うな、これまで表現を最終化することに無頓着であったことの表れだと気付かされます

自身の力で印刷できないものは業者にお願いするしかありません。さらに万が一の失敗を考えたら、ある程度リードタイムを残しておかなければなりません。

気づき13:印刷するためのリードタイムを加味すること
最初は納品する時の段取りが見えていないため、トンボやアウトライン化等々も手間取ります。印刷するために、設営日の何日か前までにデザインを仕上げないといけないということもシンプルですが新しい気づきでした。

その他、什器の発注・発送、印刷したパネルを詰め込むための段取り、そして設営のための備品を買い物して準備を完了させます。

展示5日前 設営

全ての展示物を会場に運び込み、設営の開始です。自分の展示設営は一旦脇に置き、皆と一緒に会場全体のセッティングを午前中行います。午後から自分のエリアの設営に取り掛かります。7時間は掛かりました。19時から自身の展示の講評が行われることが決まっていたので、やり切る以外ありません。

壁にA0パネルを貼ることから準備をスタート。どう貼ったらいいかもわからないので、展示経験のある友達に聞きます。養生テープを貼ってから壁に貼るといいよ、と。ハテナ?です。

気づき14:原状復帰を意識し養生テープで下地を整えること
壁紙や壁の塗装が粘着で取れてしまわないように養生テープをまず貼ることが重要ということです。養生テープという言葉すら聞いたことのないレベルで、なかなかこれすら新しい気づきです

テープが何メートル必要かの想像力もなく、合計3回も買い足したのは秘密です。そして、事前に買っていた両面テープを取り出して友達に見せたら爆笑されます。1cm幅の両面テープ、A3の紙を貼るレベルのものを一つしか持っていませんでした。

気づき15:貼り付けは想像以上の粘着性と長さが必要
A0サイズのパネルはそれなりの重さ。それを数日間貼り付けたままにするために、2−3cm幅の強粘着の両面テープが必要。しっかりと想像することの大事さに気付かされます

さて、ようやくパネルを貼ろうと。パネル4枚を平行に貼る必要があります。A0パネルを壁に貼るときに、メジャーであちこち測って、どこに貼るかを決めていきます。平行となるよう壁にマーキングをします。平行線を赤外線で引く機械もあるみたいで、そういうものを使うのも楽でいいですね。

ただ、このマーキングが大して参考にならないことも知ります。

気づき16:人間の目の平行感覚を信じることの方が大事
マーキング通りに貼ってみると斜めに見えるのです。なぜか。おそらく窓の場所や角からの距離等で人間の目が錯覚を起こしているのだと思いますが、正しくメジャーで測った距離感より、自分の目での見え方が重要であることに気づきます

設営していると、普段いかに体を使わない仕事をしているかを痛感します。人間が体験するサイズの表現は、そのための準備も非常に身体を使います。

気づき17:体力勝負・持つべきものは友
脚立の上り下りとパネルの重さや什器を作る過程が大変で、ふらふらになりました。結局たくさんの友達に手伝ってもらい、協力してくれた多くの友達に感謝です

なんとか出来上がった展示。先生方による講評を受けます。美大では講評がつきものです。表現に問題がないか先生方から指摘を受けます。小さな直しの指摘を受けたものの、抜本的な指摘はなく、無事ことなきを得ました。5日前に展示完成です。社会人でお仕事もあるので、平日に展示の修正をしにキャンパスに行くことも難しかったので、ギリギリ間に合って本当に安心をしたことを覚えています。

展示当日 

ようやく展示の開始です。感慨深い。。。

展示に挑んだ結果の図

時節柄お客さまがいらしてくださり、大変ありがたかったです。展示以降でも気づいたことがありました。

気づき18:展示来訪者の方のその先の体験を考えた用意も行っておくべき
・展示物を触って良いかどうか案内キャプションの制作
・名刺のような自身のプロフィールカード
・展示を説明するコンセプトボード
など、展示来訪者向けのツールを用意しておくべきだったと気づきます。

展示初日で新しい気づきを得て、展示期間に間に合うよう急いで作って設置をしていくことになりました。そして、最後に大事な気づきを2つシェアしたいと思います。

気づき19:もっと展示を見てもらえるようお招きすれば良かった
展示のもっと手前から、案内を送る等、来てもらえるための準備をしていけば良かったと思いました。自信がないからお招きしにくい、けれどお招きするとと決めて極限まで頑張る、そういった覚悟が重要だと気づきます

結局見てもらえる人がいて初めてこの展示に意味が出るのです。見てもらうほどのものではないという自信のなさから積極的にお誘いをしなかったのですが、折角の展示、たくさんの方に見てもらえるような努力をするべきだったと感じます。

気づき20:何より自身の表現に自信を持つこと
当初、先生に構想案を見てもらった時にも言葉に自信のなさが現れている、と指摘を受けました。表現にも自信のなさが現れている、とも。何が美しい状態かがわからないことで悩ましい毎日でしたが、これが美しいと思った表現にしっかり自信を持った方が良い。自信を表現に変えることこそがアートを体現するということだと実感しました

これまでの人生、自身がやる前提での目線で展示を見てきたわけではなかったので気づいていないことも多かったですが、やってみると、展示はあらゆることに気を配って作られています。美術展等に行くときに新たな視点を持てるのようになったことも大きな糧でした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。ノンデザイナーが展示に挑むとこうなる、という悪戦苦闘の日々が、皆様の何かの糧になれば幸いです。

1月に次の代の修了製作展が開催されます。そのような目で見ていただくと新たな気づきがあるかもしれません。


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