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40歳の仕事論。 Vol.11 ~ 悪魔の代弁者 ~

私の部署では年1回、全員が集まって今年度の成果や反省点、次年度の計画について話し合います。

全員で15名という少ない組織ではありますが、どんな計画や意見に対しても批判的に意見する人は少なからず存在します。

誰もいなければ私がその役目をすることもあります。

当然ながらこうした意見がなければ会議はすんなり終わるでしょうし、大半の人はその方が良いと思っていると思います。

私も以前はそのように思っていました。

私の職場ような皆が同じ資格を持った専門職の集まりは、意識していなければ、同じようなことを同じように考えている同質性の高い集団になってしまいます。

山口  周  さんの著書「武器になる哲学」からの引用ですが、こうした同質性が集まって行う意思決定には問題があることを心理学者のアービング・ジャエニスはこう指摘しています。

「極めて愚かな意思決定をした」という事例を数多く研究した結果、どんなに個人の知的水準が高くても、同質性の高い人が集まると意思決定の品質は著しく低下してしまう。

多数派に対して 、「あえて」批判や反論をする人のことを「悪魔の代弁者」といいます。

今回の「40歳の仕事論」は「悪魔の代弁者」の活用について、私の経験をもとに考えていきたいと思います。

悪魔の代弁者とは

悪魔の代弁者とは元々、カトリック協会で設定されていた列聖や列福の審議に際して、候補者の欠点や証拠としての奇跡の疑わしさを指摘する役割を持ったものでした。

つまり 、もとより性格が天邪鬼で多数派の意見に反対する人ということではなく 、あえて、否定的な見方をする、そのような 「役割 」を意識的に負うという意味をもっています。

イギリスの政治哲学者ジョン・スチュアート・ミルは著書「自由論」の中で、「反論の自由」の大切さについて以下のように述べています。

ある意見が 、いかなる反論によっても論破されなかったがゆえに正しいと想定される場合と 、そもそも論破を許さないためにあらかじめ正しいと想定されている場合とのあいだには 、きわめて大きな隔たりがある 。自分の意見に反駁 ・反証する自由を完全に認めてあげることこそ 、自分の意見が 、自分の行動の指針として正しいといえるための絶対的な条件なのである 。全知全能でない人間は 、これ以外のことからは 、自分が正しいといえる合理的な保証を得ることができない

ミル「自由論」より

多数の反論や反駁をくぐり抜けることで、やがて優れたものだけが残るという考え方は、優れた意見を保護し、劣った意見を排除するといった統制の考え方と真っ向から争うことになりますが、組織における意思決定のクオリティは、意見交換が行われるほど高まることが、現在では数多くの実証研究によって明らかにされているといいます。

反対意見を抑えることの弊害と多様性の大切さ

ミルの反論の自由のこの指摘は「反論を抑え込むこと」つまり、過剰に思想や信条を抑え込むことの危険さにも繋がっており、たくさんの反論に耐えられたものが優れれたものだとすれば、反論を封じ込めることで「言論の市場原理」が働かず、優れた言論が生まれにくい状況になってしまいます。

また、ミルはこのように「多様な意見」が出ること、すなわち、現代でいううところの「多様性」の大切さについても、「自由論」の中で指摘しています。

その人の判断が本当に信頼できる場合、その人はどうやってそのようになれたのだろうか。
それは、自分の意見や行動に対する批判を、常に虚心に受け止めてきたからである。
どんな反対意見にも耳を傾け、正しいと思われる部分はできるだけ受け入れ、誤っている部分についてはどこが誤りなのかを自分でも考え、できればほかの人にも説明することを習慣としてきたからである。
ひとつのテーマでも、それを完全に理解するためには、さまざまに異なる意見をすべて聞き、ものの見え方をあらゆる観点から調べつくすという方法しかないと感じてきたからである。じっさい、これ以外の方法で英知を獲得した賢人はいないし、知性の性質からいっても、人間はこれ以外の方法で賢くなれない。

ミル「自由論」より

このように質の高い意思決定には多様的な意見が必要であり、そこを乗り越え、洗練されていく過程で、優れたものになっていくのです。

悪魔の代弁者のつくり方


時にリーダーとして意見を押し通してでも前に進まなければいけないときもありますし、更に上とのやり取りでは「根回し」などが必要になることもあると思います。

組織として自分に共感してくれる人材が多くいることは、色んなハードルが下がりとても「楽」な事が多いと思いますが、「良き理解者」と「良き批判者」双方を大切にしていくこと、また組織の多様性を意識して人事を考えること、それが組織の柔軟性を高め、時代に淘汰されない「強い組織」を作っていくことになるのだと思います。

以前、「学ぶこと。」でも、自分の周りに安心屋(否定をせず、自分を肯定しくれる存在)だけではなく、緊張屋(自分とは違う視点から意見をいってくれる存在)の2種類の人を置き、自分の価値観だけに囚われないようすることが大切だと書きました。

普段から自分の耳に心地のよい言葉だけを届ける人のみ大切にするのではなく、しっかりと自分に対して意見を述べてくれる人も大切にする姿勢を示していくことが、悪魔の代弁者を育て、自由に自分の考えを述べることができる環境を作り出します。

意思決定の場において、一番不必要なのは、反対意見、肯定意見ではなく、何も考えておらず、なんの意見もないという状態だということは覚えておく必要があります。

仕事に限らず、自分に対して否定的に意見を言ってくれる人は、貴重な存在であり、大切にしていきたいと思います。

まとめ

意思決定において、同質性高い社会やコミュニティではその質は落ちやすくなる。

多数派に対して 、批判や反論をする人のことを「悪魔の代弁者」といい、その存在は意思決定の質を高め、アイデアより優れたものにする。

組織の多様性はさまざま意見や考えを受け入れる姿勢から生まれ、その姿勢が悪魔の代弁者を作り出し、多様な意見が集まる環境を作り出す。

批判は好きだよ。僕を強くしてくれるからね
レブロン・レイモン・ジェームズ・シニア (プロバスケットボール選手)


毎年の会議はなんだかんだいって、いつも早く終わることはありませんが、年1回、皆が心を合わせ、同じ方向を向いて進むための必要な議論であれば喜んで受け入れたいと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。

悪魔の代弁者を学ぶための読書

#仕事論 #悪魔の代弁者 #組織づくり #マネジメント  


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