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家制度という亡霊に縛られて

戦前の日本には家制度というのがあって、もちろん、現在の戸籍制度もその名残だ。
僕は、3人兄弟の末っ子であるけれども、上二人は双子の姉なので、長男ということになる。

僕が生まれたのは昭和40年。家制度が廃止されたのは、戦後、日本国憲法が施行された時だから、昭和22年のこと。すなわち、僕が生まれるたった18年前のことなのだ。僕が生まれる前の話だから、なんとなくずいぶん前の話だと思いがちなのだけれど、たった18年。姉が生まれたのは昭和33年だから11年前の事になる。

ということは、僕の親世代が、家制度の感覚をずっと持っていたことは無理のないことだと思う。

だから、まだまだ、男の子のほうが女の子よりもあからさまにもてはやされた。男の子が生まれると、家を継ぐ「跡取り」とされた。

当然のことながら、僕は両親にとって、二人の姉が生まれてから7年の時を経てやっと生まれた「跡取り」だった。だから僕は、「跡取り」として育てられたのだ。

別に、由緒正しい家柄でもないのに「あなたは跡取りなんだから」というプレッシャーを受けながら育った。このことが、僕の人生の選択において、かなり大きな影響を与えていたのだ。

いずれ東京に戻らなければいけないと思っていた

僕は、自分の家が居心地が悪かったので、東京の実家を出て、九州は福岡の大学に通っていた。しかし、いつかは東京に戻って、実家の後を取らなければいけないと思っていた。そうなると、就職先はやはり東京でなければいけないと思うようになった。

僕は、音楽に携わっる仕事ができればいいなあ、と漠然と思っていたので、建築音響に興味を持つようになった。
当時はバブルの真っ最中で、公共事業が盛んにおこなわれていた。そんな中、立派なコンサートホールが、あちこちに建設されていたのだ。

僕の出た大学のOBが設計したコンサートホールが話題になったこともあって、僕もそんな仕事がしたいと思うようになった。

ところが、これがまた狭き門だった。
コンサートホールの設計などという仕事をやっているところなんて限られている。しかも、東京でなければいけないと来ているのだから、なおさらだ。

大学4年生の時に、大学の先輩を頼って、コンサートホールの設計を手掛けている設計事務所を訪ねたのだけれど、そこでは今年は採用する予定はないと断られてしまった。つまり、ご縁が無かったのだ。

そこで僕は、大学院に進学することにした。
まだまだ、自分に自信がなかったし、行きたい会社もなかったからだ。

今から振り返ってみると、実はその年の求人の中に、とても惹かれる会社があった。しかし、それは東京の会社ではなかったのだ。それが僕にとってはネックだった。僕はいずれ、東京に帰らなければいけない。実家を継いで、両親の面倒を見なければいけない。だから僕は、地方の会社ではだめなんだと思い込んでいた。

今でもたまに思う。
もしあの会社に入っていたらどういう人生になっていたんだろうか?と。
もちろん、人生にはタラレバはないけれど、もしかしたらうつ病なんかにならないで、今でも音楽に携わっていたのかもしれない。そんな風に思うことがある。

なぜ、あの時、あの会社の面接を受けなかったのか。
僕は今でもそんな風に思うことがある。

でも、当時の僕は、長男であるから家に帰らなければいけないと思い込んでいたのだ。

今も残る家制度の影響

結婚したら入籍をするという。
この戸籍制度も、家制度の名残だ。

そして、いまだに夫婦別姓は制度化されていない。
結婚したらどちらかの戸籍に入って、そちらかの姓を名乗らなければいけない。

もちろん制度上は男女平等なので、女性側の姓を名乗ってもいいのだけれど、女性側の姓を名乗ることを「婿入りする」と言ったりして、そういうケースは稀である。ある調査によると、女性の姓を名乗るカップルはたったの4%しかいないとのこと。どれだけ、家制度の亡霊が強力なのかわかる数字だ。日本はジェンダーギャップ指数で世界ランク121位(2019年のデータ 153か国中)というのもうなずける。

僕が若いころは、もっとひどかったわけだから、僕自身の人生の選択に大きな影響を及ぼしたとしても無理はない。

消極的な理由で大学院に進学

行きたい会社が東京にない。まだ、働きたくない。まだ、東京に戻りたくない。そんな動機で大学院に進学した。もちろん、もうちょっとちゃんと専門分野を勉強したいという気持ちもあったのは事実だけれど、それ以外の理由も大きかった。

僕の人生の選択はいつもそうだ。
いろんなことを考えすぎて、結局消極的な理由で選択している。
妥協していたり、問題を先送りしていたり、問題と向き合うことから逃げていたり。

こんな選択の仕方をしているから、ろくなことにならないのだ。
だから、うつ病になんてなってしまったんだと思う。

(つづく)

自分がうつ状態に陥って、そこから這い上がってくる過程で考えたことなどを書いています。自分の思考を記録しておくことと、同じような苦しみを抱えている人の参考になればうれしいです。フォローとスキと、できればサポートをよろしくお願いします!