見出し画像

「死」は遠い将来にやってくるものではなくて、いつもですぐ隣に潜んでいるものだと思い知らされた

会社のマネジメントの失敗の尻ぬぐいのために、自分のキャパを完全に超えた状態で仕事をすることになってしまい、グループ会社に協力を依頼することになった。そして、入社以来お世話にお世話になっていた人に来てもらうことになった。忙しい毎日の中で、その人は、2歳の娘のために、「今は我慢しながら働いている」と話していた。

当時の僕は「豊かな未来のために我慢しなければいけない」という人生観を持っていた。おそらく、同じように考えている人は、今でも沢山いるに違いない。将来のために今を我慢しなければいけない。そういう人生観は、日本では当たり前なのではないだろうか。当時の僕はそれに対して疑問を感じることはなかった。なぜなら、それが「常識」だったからだ。常識というのは、当たり前であって疑う余地のないものという意識なので、そこで思考停止してしまうのだ。

だから、彼が「2歳の娘のために、つまらない仕事でも我慢してやらなければならない。」と語った時に、その通りだと思ったし、僕自身も、自分の豊かな将来のために、つまらない仕事でも我慢してやらなければならないと思った。それについて、何の疑問も持たなかった。

それは唐突にやってきた

しかし、そんな僕の人生観を変えてしまったその出来事は、突然にやってきた。彼と娘さんの話をしてから間もなくのこと、7月の最初の週の金曜日に、僕は客先との打ち合わせのために出張することになった。その日は、彼に仕事を任せて僕は新幹線に乗った。

彼はといえば、その翌週の一週間は別件で別の場所へ出張に行くことになっていた。なので、次に会えるのは翌々週になる。僕は彼に、金曜日にどこまで進んだのかを分かるようにして、僕の机の上に置いておいてほしいと頼んで出かけた。週末は、中間報告が済んだことで、僕は久しぶりにゆっくりと休むことができた。そして、次の月曜日の朝、会社に行くと机の上には彼のメモが残されていた。

ここまで終わりました。続きは来週やります。一週間、別の現場に行くことになってしまって申し訳ありません。また来週から、引き続きよろしくお願いします。

そんな感じの内容だった。

そのメモ書きを読んでいるときに、事務の女の子が僕のそばにそっとやってきて、耳元で囁くように言ったんだ。

「渕脇さん、知っていますか?○○さん、亡くなられたそうですよ。」

一瞬、何を言っているのかよくわからなかった。

えっ?
だって、今、まさに○○さんのメモ読んでいるところなんだけど。
だって、ここに来週からまたお願いしますって書いてあるし。
えっ?
先週まで一緒に仕事していたし。
まだ仕事残っているし。
娘さん、まだ2歳だし。
えっ?

事態をうまく呑み込めない。
頭が真っ白になる感じというのを初めて経験した。

思い描いた将来は来なかった

詳しく話を聞くと、交通事故だったそうだ。本人だけではなく、奥さんも、そして、彼が我慢して頑張らなければならないと言っていた2歳の娘さんも一緒に亡くなったということだった。

彼が将来のために我慢しなければいけないと言っていた、その将来は、結局くることはなくなってしまったのだ。
それも、一瞬で。

その日は、自分の感情を整理することができなかった。仕事だってまだまだたくさん残されている。彼がどこまで終えてくれたのかを確認しなければいけないし、とにかく仕事をこなさなければいけないし、彼の代わりに手伝ってくれる人も手配しなければいけないし。。。

でも、自分の感情がついて来ない。彼が亡くなったという実感がわかない。来週になったらまた会えるような気もする。

人は、こうも簡単に一瞬で逝ってしまうものなんだ。そんなこと考えたこともなかった。その事実を目の前に突きつけられて、どう考えていいのか全く分からなかった。とにかく、混乱した一日を過ごした。

死はいつもすぐ隣にいる

人がこんなに簡単に死んでしまうのであれば、僕だっていつ死んでもおかしくないと思った。今日、会社から帰るときに車にはねられるかもしれない。その可能性は十分にある。そのことが、急にリアルに迫ってきた。

なんとなく、自分は日本人の平均寿命までは生きるように思っていたけれど、そんな保証はどこにもない。ここまで生きてこられたのも、ただ単に、運がよかったからだけなのかもしれない。

死は、ずっとずっと遠い将来にやってくるもであると思い込んでいたけれど、実はそんなことはないんだということを思い知った。死はいつも僕のすぐ隣に、息をひそめてそこにいるんだ。そして、いつ何時、僕を飲み込んでしまうかもしれないのだ。そして、それがいつなのか、それは誰にもわからないのだ。

この感覚を持ったことで、僕の人生観は180度ひっくり返ってしまった。遠い将来はおろか、明日だって本当に来るかどうかわからないのだ。

(つづく)

自分がうつ状態に陥って、そこから這い上がってくる過程で考えたことなどを書いています。自分の思考を記録しておくことと、同じような苦しみを抱えている人の参考になればうれしいです。フォローとスキと、できればサポートをよろしくお願いします!