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【あれこれ】冬の通学路


寒くなってきましたね。近づいてきた冬と遠くなっていく不登校時代について、ドヌーヴさんの体験談です。(スタッフ・古川)





日本海に面する雪国の出身だったため、この時期になると増して寒くなる。今年は12月に入ってもあまり雪が降らないなと油断していると、たいてい年明けには大雪になる。朝方や夕方になると道が大渋滞するのも小さいころから見慣れた光景だ。

地元の高校で3年間不登校をしていた俺にも冬はやってきた。布団から出たくない理由が一つ増えるこの季節。寒いのは嫌い。いつまでたっても適応はできない。学生の冬といえば進級、進学に向けてラストスパートのかかる時期である。同級生が新たな環境を目指し駆け出している中、俺はいよいよ迫りくるリミットから逃げ隠れていた。進級の条件、卒業後の進路など、耳をふさぎたくなる話が時間を経るほどに大きくなってくる。校内にあった「センター試験まであと84日!」という張り紙を見てそのまま家に帰ったこともある。行くも引くも地獄だった。問題が体を押しつぶすように膨張している感覚を、俺は寒さとともに思い出す。寒いのは嫌いだ。

普段は自転車で登校していたのだが、雪が降ってしまうとそれができない。氷でタイヤが滑ってしまうからだ。氷壁によってただでさえ狭くなった車道に落ちれば一巻の終わりである。地域の学生は降雪の時期になるとそろそろとバスや電車、車送迎での登下校に切り替える。家から学校まで7kmほどあった俺も、留年から逃れるために(これもまた”逃げる”理由で)冬場はしぶしぶ登校していた。近所のバス停から駅までバスで20分、そこから徒歩5分で学校へと着く。この「季節限定」の通学路が俺はとても嫌だった。

まず、バスの発車時刻が決められていること。一限開始に間に合うためには毎日定刻の発に乗らなければならない。今日は行けるのかどうかを葛藤している早朝に、明確なリミットが外部から定められていることが、当時の自分にはとてもストレスだった。これが自転車通学であるともう少し融通が利く。「授業開始時刻」に加え「発車時刻」という自分で動かすことのできない数字の発生に、俺はあっという間にキャパオーバーしていた。いまでこそ、そんなことでつまづいていたのかと驚くが、やはりあの頃は明らかに容量が小さくなっていたし、そのうえほとんど埋まっていた。少し水を垂らしただけでまたたく間に決壊してしまうほど脆かったのだ。

もうひとつ、この通学路の嫌な点は、途中で駅を経由することである。これは、「学校に行く」という決断が二重に発生することを意味する。自転車で通う際、学校に向かうためにこの「決断」は、家を出るか否かで成されていた。意を決して家を出てしまえば、少なくとも学校の前まではなんとか気持ちを保てる。そこから校内に入れるかでまたひと悶着あるのだが今回は省く。これがバス登校に変わるとどうか。仮に家を出ることができても、バスの終着した駅から学校に向かうまでで、もう一度同じ決断をしなくてはならないのである。これが本当に厄介で、学校や同世代の人間という恐怖の対象が近づいてきたことで、俺は駅で再び立ち止まってしまうことがよくあった。苦い薬を二回に分けて飲むようなものだ。改めての決断。けれどこれが本当にできなかった。3年間、駅構内で一日を過ごした日が何十日もある。奥の方にある人気のない多目的トイレで、母親の作ったお弁当を食べていた。

何かの間違いで学校に行けてしまった日は、終業と同時にクラスの誰よりも早く校内を出た。逆に放課後に呼び出しをされた日には、クラスの誰よりも遅く校内にいた。そしていつだって家まで徒歩で帰っていた。定期はあったが、それを使って早く家に帰ろうとは思えなかった。考えなければならないことがたくさんある。解決しなければならないことがたくさんある。気温は0度を下回り、しんしんと雪が降る夕闇の中をゆっくり踏みしめていなければ、俺はやっていられなかった。もうすぐ進級ができなくなる、卒業ができなくなる。雪が解けるころには、取り返しのつかないことになる。そうして、一時間半かけ自宅に着くと一日が終わった。また何も進まないまま雪解け水で靴下が濡れる。冬は嫌いだ。



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