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じゃじゃ③

その人はいつも昔話をしてくれた。

自分の幼かった頃の話。

その人は裕福な家庭で育った。
港町の問屋の娘。

商港だったので珍しいものが、
よく荷揚げされたそうだ。

西洋文化が一般家庭にも広がった頃で、
来航者も見たことのない洋装で、
それが娘には新鮮で、
好奇心をくすぐるものだった。

娘の家は大所帯。
大番頭さんに番頭さん。
使用人も複数召し抱えていたそうだ。

娘は使用人と仲が良かった。
でもどうしても一人だけ苦手な人がいた。

それは番頭さん。

別にいつもは良い人なのだが、
家内みんなを労う席になると、
番頭さんは豹変し娘にしつこく絡んできた。

酒癖が悪い人だった。

娘はそのお酒の席が嫌いだった。
でも料理は特別なので楽しみではあった。

だから娘は考えた。

また来た労いの席。
準備で大忙しの人の流れに紛れて調理場に。

そこからこっそりお酒を一瓶くすねた。

それを自分の座る席の近くに隠した待った。

宴会の準備も整い、
人も大広間へと集まってきた。

そして宴会が始まった。

娘は手伝いを装い、
酒瓶を持って番頭さんの近くに置いた。

番頭さんは気が利くねと、
その酒を注いで一気にあおった。

ブェェェーーー!!

番頭さん、勢いよくあおったものを霧吹いた。

「なん、ゲショ、グゥェ、なんビャ」

番頭さんは上手く喋れない。

娘が酒瓶に入れたのはお酢だった。

お酒さえ飲まなければ良い人だからと、
娘が考えた作戦だった。

当然だが娘とはいえ、
使用人へのその行為は、
許されるものではないと、
両親からこっぴどく叱られた娘は、
庭の大桜に縛られたそうな。

宴会終わりの使用人に冷やかされ、
暗い中、自分は悪くないのにと、
じっとこらえていた娘。

でも近くに鳥居もあり、
灯りが減り真っ暗になると、
どんどん庭の景色が怪しくなり、
耐え切れず泣いてほどいてくれと、
頼んだそうです。

それから娘は悪さをしなくなったとさ。

ほんとかな?

おしまい。


前作も一話完結ですので、
よろしかったらどうぞ。


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