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スティーブ・ジョブレス、タイに行く

無職が過半数を占める、ねじれ現象

最高気温38度。首筋にまとわりつく湿気に南国を知る。

2月から無職になった私は、友人と3人でプーケット国際空港に降り立った。1人はフリーで仕事をしている、もう1人は転職が決まった無職、そして自分は王道を行くニート。「この陣容なら、いつだって海外に行ける」ということで、4月半ばに4泊の旅へ出た。

男3人でのタイ旅行。察しのいい諸兄なら、蒸し暑い夜の繁華街を想像するかもしれない。残念だが、そういった情報を探しているなら他をあたってもらおう。そして、キングサイズベッドとエキストラベッドの違いについて知りたいなら、大いに参考にしてもらいたい。

リゾートホテルは、人生のご褒美

そのリゾートホテルは、空港から遠い。それだけに、外界から隔絶された、喧噪とは無縁だった。プールがどこまでも続き、レストランもバーもある。忙しく働いて成功を収めた人々が再充電のために訪れる場。そんなところにニートがいるとは、だれも想像しなかっただろう。

白い砂浜にヤシの木が並ぶ。遠浅で穏やかな海は、水色に澄んでいる。派手なビキニのマダムと、はしゃぐキッズたち。そよ風の流れるパラソルの下で、山本周五郎作品集を読む。こんなに落ち着いていて、いいんだろうか。不安になるほどの安らかな余暇(バカンス)が、この世にはあることを知った。でも、僕は無職なんです。

働くことに疲れたら、行ってみるといい

仲のいいファミリーを見ていると、人生について考えざるを得ない。まだ何もしていない、これから何もすることがない人間には、南国の太陽と同じくらい輝きが強かった。地上の楽園を満喫しながら、いたたまれない瞬間が、時おり顔を出す。「日本に帰ったら転職活動しよう」と思わせてくれる旅だった。

空港での書類など、事あるごとに「仕事は?」と問うてくる。家にいるだけだと、「仕事とは?」を考えずにはいられない。旅は、常に移動している。目的地があるだけだ。そこに本来、定職や定住先なんて無い。しかし、逆説的に移動しているからこそ、「お前は何者か」が問われている気がしてならない。

I'm jobless!

「私は、無職です。もう一度、しっかり働いてからリゾートビーチを楽しみたいです。そのために、御社を志望いたします。」
再び働き出したとして、あのような夢心地に戻れるだろうか。無理だとしても、一生分のリゾートを味わった。悔いは無い。

連れ出してくれた友よ、ありがとう。

※10月現在、週6日で働きづめです。


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