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怪談06 母

母は、六感がある人でした。

平成も初めの頃。当時はまだ携帯電話もなく、ディスプレイ付きの電話が出たか出ないか…ぐらいの時だったと思います。

我が家にもディスプレイ付きの電話がやってきて、近しい親族から電話がかかってくると、登録した番号が表示されるように設定していたのですが

ある日、プルルル!と電話が鳴ると、表示された名前を見る前に「多分、○○のおばちゃんからやわ。キエゾー、私用事してるからちょっと出て。」と言いました。

何を適当言うてるの…と思いながら画面を見ると、その親族の名前が出います。ガチャっと出て、しばらく話をしていると、用事を済ませた母がやってきて交代しました。

ひとしきり話をして、ガチャッと受話器を置いた母は「なんとなくな、誰からかかってくるか分かるんよ」と言っていました。

事前に誰かから連絡があったりしたのだろう、とその時は思っていたのですが、その後何度も同じようなことがあり。時代が携帯に変わってからも「そろそろあの人から電話が来る気がする」と言うと、数日経たないうちに電話が来るのでした。

他にも、私が実家を出てから連絡もせず家に帰ると、ベッドからひらひらと手を振りながら「あんたが来る夢を見てたんよ」と言ったり

近しい友人が道ならぬ恋をしていたとき「あの子、最近様子が変と違う?」と聞くので、実は…と話をすると「ああ、この間あの子がウエディングドレスを重ねてきている姿を夢で見たのよ」と呟いたり。

直接、お化けを見たと言ったことは終ぞありませんでしたが、私が「怖いものを見た!」というと「そりゃまぁ、色々おるわ」とだけ告げて否定もせずご飯の支度をしていたことから、何となく今思えば見たことはあったのでは…と感じています。

オカルトといえば、おぞましいお化けや事故の話が多いもの。けれど、現実の六感というものは、静かに静かに日常の中で働いているもののような気がします。

私には、霊感はありません。ただ、振り返れば「そうだったのかもね」とか「助けてもらったのかもね」という経験が少しあるだけ。

けれど、それぐらいで丁度いい。私は不思議なものと出会うことを特別視するより「そういうものもいるかもね…」という見えない存在への想いを、自然との間でひっそり育む日本を愛し、平々凡々と絵を描いて生きていく道を選びたいと思います。




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