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怪談08 かんの虫

昔々、まだテレビがブラウン管だった頃、樋屋奇応丸のCMが流れていた。

赤ちゃんの夜泣きや「かん=疳の虫」を穏やかにする玉薬だそうで、ひやひやっひやのひやーきおうがん♪というキャッチーなメロディーと共に紹介されていたのを今でも覚えている。

時が経ち、私が二十歳を超えたときだった。

若い親戚の女性と、そもそもあの疳の虫ってなんのことやろね?という話になった。なまじオカルト好きだった私は、中国の三尸説(さんしせつ)のようなものだろうかと思っていたのだけれど、ちょうどネットを通して「虫の出し方」が紹介されていたので、ノリで彼女と試してみることになった。

方法は簡単で、確か、粗塩を大量に手に擦り込んで待つ…すると、疳の虫が糸のような姿で指先から出てくる…というだけだった気がする。

大の大人が台所に並び立ち、塩を手でジョリジョリと擦り込みながら、ジッと待っている。

暫く待っても何も起きなかった親戚が「私、何もないわ。あんたは?」と聞いてきたので、指先を見るものの、こちらも何もない。強いて言えば、先程手を洗った際に使った、タオルのホコリのようなものが付いているだけ。

眉唾かーと思いながら「私も、何もない」と指先を親戚に向けた。

すると、ちょっと待って!動いてるやん!と彼女が言うではないか。よく見ると、ホコリだと思ったものがウニウニと回転しながら、みみずがのたうつように動いて指先から伸び出してきている。

私は、ただ呆然とそれを見ていた。

大きさにして、5ミリ程になった頃だろうか。動きは止まり、本当に出るんだね・何なんだろうね〜などと言いながら、手を再び洗い流した。

特に恐いと感じたわけでもなく、本当に地味な時間だったため、まぁそんなこともあるのだなと思う程度の出来事だったのだけれど

それよりも、その場にひょっこり現れた母が『そういえば、昔は親戚の中に虫封じのお祈りをしている人がいたねぇ。確か、筆でおまじないみたいなのを手に描いて…ねぇおばあちゃん。』と話していたことの方が、印象に残っている。

尋ねられた当の祖母は、その時点で御年80オーバー。『そんな人、おったかいの(居たかしら)?』と言った具合で、会話は終わってしまったのだけれど

果たして、疳の虫とは何だったのか。今でも、それは謎のまま。

ただ、親族にそのような人がいたらしい…ということだけを私の中に残して、話は止まっている。







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