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三角食べをいたしましょう【9月】


9月が終わりましたね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

読書の秋ですね。読書に春も夏も秋も冬もありませんが、なんとなく盛り上がる季節だと思います。過ごしやすい気候なので生活のペースを整えやすいですよね。冬の朝は寒くて布団から出られたものじゃありません。

今月は160冊の本たちにお世話になりました。(そもそも前提として、読んだ本の冊数を数え、表示すること自体には何の意味もありませんし、本は多く読めば読むほどいいと言う物でもありません)

だいたいこんな感じです。お陰様で良書を見極める精度が上がりまして、平穏無事で有意義な読書生活を送れています。


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この中でも特におすすめを紹介します。

【読書礼賛】 アルベルト・マンゲル

博覧強記の極みのような人物の読書エッセイです。多方面の学問に広く通じ、膨大な数の本を読み、その道の専門家でさえ唸るような考察を、多数のジャンルにおいて突きつけてきます。彼の別の著書、【図書館 愛書家の楽園】も大変面白く読ませてもらいました。

「宇宙(それを図書館と呼ぶ人もいる)」

適切極まりない表現だと思います。いつか、彼のような人間になりたい。そう思わせてくれる、憧れの人です。


【本は読めないものだから心配するな】 管啓次郎

本って読めませんよね。()
30000冊の本棚を目の前に、毎日絶望している尼崎です。毎日通って毎日ひたすら読んでるのに毎日人生を変えてくれるような本に出逢っちゃう。何年居たって読みきれない、嗚呼時間が足りん、寿命が足りん。
先日お会いした方の言葉をお借りするなら、「自分なんてどこまでも続く大海原を目の前にして浅瀬でチャプチャプ砂いじりしてるだけのちっぽけなアカチャン」だとつくづく思います。
読めば読むほど、自分が読めないことだけを知る。自分が何も知らないということだけを知る。無知の知ラビリンスの境地を彷徨っている私、及び、本と向き合い苦悩する人を励ましてくれる、優しい本です。

【あいたくて ききたくて 旅に出る】 小野和子

著者の小野さんという女性が地元のおじいちゃんおばあちゃんのところに突然会いに行って、その方の知っている民話を「お孫さんに語るように、私にも語ってくださいな」と伺ってまわり、伝え聞いた話をまとめたエッセイです。語るということはどういうことなのか、聞くということはどういうことなのか、改めて気付かされます。
そして、この本は本当に丁寧に作られていて、表紙からレイアウトから文字から美しく、書物として芸術的なんです。そういう本は飾る用にはいいけど中身が薄い…というイメージがあるかもしれませんが、内容も、160冊の中でもトップクラスに面白いものです。ぜひ、手にとっていただきたい一冊です。


【〈責任〉の生成 ー中動態と当事者研究】 國分功一郎 熊谷晋一郎

それぞれの分野のトップオブトップのおふたりが名を連ねてるだけでときめきますね。大好きな中動態の國分先生、大好きな当事者研究の熊谷先生。この本単体で読んでもあんまりわからないかもしれないけど、國分先生の【中動態の世界】【暇と退屈の論理学】と熊谷先生の【当事者研究】【リハビリの夜】もどうかセットで読んでください。世界変わります。


【個人的な体験】 大江健三郎

おすすめしていただいて読みました。主人公は、我が子が頭部に大きな腫瘍を持って生まれてきたと知って、その子の死を願う「鳥」なんだけど、脳死・障がい児のことをもっと深く探究してからまた読みたいなぁと。
「どんな命でも生まれてきた以上それは命」なのは確実だし、たとえ親でも、人間である以上は「他」の人間の生死を剥奪する権利はないって言うのは前提として、日本ではつい最近まで、障がい児は生まれた瞬間から産声をあげる前までの「生まれているけど、生きてはいない」状態の時間帯に産婆の判断で間引きされて、それは「魂を返す」行為だから悪いことじゃない、とされてた長い歴史を考えると鳥の気持ちもよくわかるし、そんな子を育てて何になるという意見もわかる。出生前診断でダウン症が判明したら9割が堕すのもまた事実だし。鳥を身勝手な悪いやつだ!と一方的には言えないけど、かといって人間は生死に関する所有権を持ってないんだから擁護もできない。まだまだ自分の考えが定まってないなぁと痛感しました。

【生を肯定する いのちの弁別にあらがうために】 小松美彦

個人的な体験とセットで読むといいかも。小松先生とトップ教授陣の対談で、脳死、尊厳死、医療崩壊等々を語ってくださってる。

[14日目までの受精卵と脳死「体」は個体として全く同じ]

14日目以降の受精卵には神経系が形成されてくる。それ以前に精神があるはずはなく、精神がないから人格などなく、人格がないから尊厳などないと。

じゃあさ、14日目以降の受精卵には精神があって人格があって尊厳があることになるじゃんね。法律的には中絶は153日目まではOKとされてるけど。また一つわからなくなった。学問って、面白いね。

【フィッシュ・アンド・チップスの歴史】 パニコス・パナイー

うーん、なかなか衝撃。いかにしてフィッシュ・アンド・チップスがイギリスの国民食とされるまで普及したのかを掘り下げてるんだけど、そもそもの始まり方は最近の日本でのタピオカブームやらマリトッツォブームやら唐揚げブームやらと全く同じなんだよね。流行り廃りが当たり前の流行り物ビジネスの中で、どうやって生き残っていけばいいのかが何となくわかる。次の流行り物が何か予想してひと山当てたい人がいたら必読かも。

【一般言語学の諸問題】 エミール・パンヴェニスト

言語学専攻の大学院生でも読めるのか疑問なレベルで難しい学術書。とにかく何いってんのかわかんない。でも気合いで頑張って読んでたら14章と16章にとんでもなく面白いこと書いてあった。その時の喜びは言葉では言い表せないけど、無知の知ラビリンスの境地すぎて感激。今まで研究してきたことと色々繋がって、ガッツポーズして小躍りしようかと思った。そこだけでも読んで見てほしい。ちなみに言うとAmazonでお値段11000円。

ー読み合わせー

・【21世紀のリベラルアーツ】 石井洋二郎
・【教養主義のリハビリテーション】 鷲田清一
・【人文学と制度】 西山雄二
・【大学でいかに学ぶか】 増田四郎
・【反教養の理論】 コンラート・バウル・リースマン

・番外編【知の技法】

とりあえずでもいいからこのあたりを、これから大学に行く高校生に読んでほしい。大学4年間を有意義に過ごすために必要なのは、「学ぶ態度」を身につけることだと思います。社会に一旦出てから自己への教養教育の必要性を感じて学び直してきた身としては、大学で4年間も学びに集中できる環境があることがいかに有難いことなのか、その環境がある今、自分は何をするべきなのかを考えておくだけで大学生活の質が変わる気がします。教養は一生の財産。


〈おまけの一言〉

私は一応現在「死生学」を研究していますから、食事に例えるなら[白米(主食)]は死に関する本という事になります。そして、見識を広めてくれて研究の思わぬヒントをくれるおかず達が、哲学、自然科学、建築学、経済学、心理学、宗教学、文学、教育学、歴史学、芸術学…と多岐に渡ります。読書論に関する本は、言うならば「おやつ」みたいなものです。

はっきり言って、今月はおやつの食べ過ぎです。主食が足りていません。

給食の時間、小学校の先生に言われましたよね。「バランスよく食べないといけません。ご飯、お味噌汁、おかず、ご飯、お味噌汁、おかず、と言ったように、三角食べをしましょう。おやつを食べすぎてはいけません。」

はい、申し訳ございません。来月の目標は「三角読み」に決定です。(てか、28単位どうしよ…)


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